◆ 海に宿る月 7
- カテゴリ:自作小説
- 2013/07/16 12:16:45
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1016286&aid=51092823 からの続きにゃ
◇◇◇◇◇◇
しばらく灯台の下に座り込んで、黙って笹の消えてゆくさまを眺めていたが、ふと佐和子が疑問に思っていた事を口にした。
「あんたさ、いつもあそこでぼーっとしているけど、面白いん? せっかく田舎に来とるんやけん、他に遊びに行ったりすればええのに」
くすくすと笑いながら彼は答えた。
「佐和子こそ、毎日あんな所でぼーっと海を見ていて。友達と遊びに行くとかすれば楽しいだろうに」
「私は別に……」笑われて目を逸らせば
「泳ぐわけでもないのに」と、また、からかうように問われる。
昨夜見た、海に浮かぶ茶色い影。
何年ぶりだろう、急に思い出してしまった。
あの日の幻のような奇跡を、誰かに信じてほしい。聞いてほしいと思いながら、一生懸命語ったあの頃の自分。
誰に話しても信じてはもらえない。影で笑われていた事も知っている。
けれど今また、思い出してしまった。
信じてほしい。聞いてほしい。誰かに。
ずっとずっと、そう胸に秘めて海を眺めながら探していた。
「私ね、小さい頃この海で溺れた事があるんよ」
一瞬少年の存在が隣から消えたように忘れられた。まるで独り言でも呟くように言葉が流れた。
「もう死ぬかと思ぅた。苦しくて、そのうち苦しくもなくなって、目の前で自分の吐いた息が泡になって昇って行ったの、覚えてる……」
あの幼い日の不思議だった出来事をすっかりしゃべり終えると、突然少年の存在を思い出して、どうせ彼も信じないで笑うにきまってると、耳まで赤くなって頭を抱えた。
「ええんよ、信じんで。ただ、私が勝手に信じて、ずっとここで探してるだけやけん。
ここにおったらいつかまた、あのりりちゃんに似てる生き物と会う事ができるかもしれん、て勝手に信じてここに来よるだけやけん」
正体のろくに知れない人間に自分の事を随分と話してしまった。
幼稚園の時に死んだウサギのりりちゃんの事まで。
今さら恥ずかしさが込みあげて、話すだけ話したものの、後悔が次々に胸に過る。
「うん、そうだね」彼が口を開いた。
―― あぁ、やっぱり、この子も神事やしないわ、こんなバカみたいな話!
そう思って耳をふさぎかけた。
「自然はまだまだ未知数だから、海だって、人間に知られないまま生きている生物が、たくさん居ても当たり前だよね」
耳をふさごうとした掌が止まる。
「え……?」
初めての肯定だった。
驚いて、胸が高鳴る。
「人間が人間の知っている生物しか認めないなんて、その方がおかしいよ。
海には不思議な事も現実で測りきれない現象も、幾つも実際に起こっているのに」
佐和子がそっと隣を見つめると、少年の顔はじっと海に向かっていた。
「信じるの?」
頼りな気な佐和子の言葉に彼の口調が優しく囁いた。
「海にはいっぱい、不思議な事があるんだよ」
テレビでよく特集されるようなUFOや、心霊現象から始まって、彼は溢れるように語り出した。
たとえば、集団で海岸に打ち上げられるイルカや鯨だったり、メスの卵をオスが体内に取り組んで孵化させるタツノオトシゴ、稀に浜に打ち上げられるリュウグウノツカイ、月に支配されるサンゴの産卵。
現代の科学で解明しきれない神秘は、いくらでも、どこにでもひっそりと存在している。
「他にも、深海まで手を伸ばせばそこはもう謎ばかりだよ。
佐和子の言う、人間を助けるふさふさの生き物が居て、この海に流れ着いていたとしても、在り得ない話じゃないだろう?」
思いがけず見つめ合ってしまった。
視線と視線の間を夏の涼しい木陰の風が走り抜ける。
「ほんとにそう思う?」
笑わずに聞いてくれた。それだけで嬉しかった。
けれど彼はそれ以上に、自分の話を認めてくれた。
言葉で言い表せない感動で胸が高鳴って、涙が溢れそうになる。
「思うよ。だって……」
彼が、何かを言いかけた。けれどそのまま口は閉じられ、遠い波間に視線が戻された。
だって?
その先を聞きたいと思った。
けれど、先ほどまでイキイキと海の謎を語ってくれた時の瞳の輝きが、急に静かに消えてしまった。
佐和子の戸惑う気持ちを読んだのか、「さぁもう行こう」彼が立ち上がり、手を差し出す。
掴んだその掌は海辺育ちの少女のそれよりもずっと薄く、ひんやりと儚げだった。
一度掴んで、また離してしまったら、二度と触れる事は出来なくなるような気がして、少年の歩く一歩後ろをゆっくりとついて歩く。
落ち葉がガサガサと音を立てる。
どちらともなく、黙り込んでしまった。
少年は振り返らない。佐和子も顔を上げずにただじっと、繋いだ掌だけを見つめて歩く。
遊歩道の出口になってようやく、道路を走る車のエンジン音が聞こえて、少年が掌を開いた。
とても自然にすっと開かれた指は佐和子から離れて、ズボンのポケットの中に消えた。
「こういうの、知ってる人に見られたら困るんでしょう?」
笹を採ってきてくれた澤田のじっちゃんに、ボーイフレンドだとからかわれた事を言っているのか、寂しげに見えてしまった瞳に悪戯っぽい笑顔が戻っている。
「そうよ、困るわ!」
思い出したように佐和子も慌てて掌をワンピースの後ろに隠した。
その様子を見て少年はまた更に、声を上げて笑う。
「でもさ、佐和子、もう一度その生き物に会いたいと思うのなら、こうやって遠くから眺めてばかりいたらダメなんじゃないかな?」
「どういう意味よ」
「泳いで、沖まで。もしかしたらその生き物も佐和子を待っているかもしれないでしょう?」
「待ってる?」
「うん」
待っている?
あの深い海のどこかで。
この沖のどこかで?
けれど同時に思い出してしまう。
沈んでゆくほどに体は動かなくなってゆく。取り巻く水の、締め付けるような圧迫感。周囲はどんどん暗くなってゆく。飲んでしまった水で、鼻の奥から喉の奥まで痺れる激痛。
怖い。
怖い……
ただ、ひたすらに怖かった。
「でも、私やっぱり……」
海で泳ぐことはできない。最後まで言い切れずに、言葉を呑み込んだ。
彼は小さく「ごめん」と呟いて、佐和子の髪をそっと撫でた。
髪に触れた指に驚いて、咄嗟に佐和子は顔を上げ、
「そういうあんたは泳がんの? いつも見ているばっかりで」
憎まれ口をたたいてしまう。
彼は口端を緩めて笑い、
「うん。僕は泳げないから。人のいる場所では」
真面目なのかふざけているのか解らない表情と口調でさらりと佐和子の問いを交わす。
「何よそれ、結局泳げないってこと?」
「まぁそんなトコかな」
くすくすと笑いながら堤防に向かって速足で歩く。
影が長くなってきて、夕暮れに少しだけ近づいた午後だった。
ずっと、ずっと探していた。
暗く冷たい深海から、ほの明るい暖かな海面近くを行き来しながら。
気の遠くなるほど彷徨い続けた年月は、その目的さえ忘れさせ始めるほどに。
けれど見つけた。
あの奇跡の日。
やっと、見つけた。
やっと、巡り合えた。
そして、あの時からずっとずっと、見守ってきた。見つめてきた。
人影の消えた海岸で、ゆるりと滑るように沖へと向かう茶色い影が呟いた。
―― もうすぐ、きっと、もうすぐ ――
◇◆◇ 続くんだにゃ ◇◆◇
もうすぐ?
きっと、もうすぐ??
何がもうすぐなんだろう・・・。
茶色と触手と海でぐぐったら、どうもミズクラゲっぽいです~
他のクラゲかもしれないけど(^_^;)
海は変なヤツが多いですww
海面と海底の真ん中あたりに浮遊している茶色の物体……イカとタコの間みたいな形をしていて手足は見あたらない不思議な物体でした。
ずっと、浮きも沈みもしないまま、浮遊しているだけでした。
近くに石を落としてみたら、触手のようなものが出てきて向きを変えると沖の方へ漂って行きました。
ひとつのテーマを数人で書き分けると、予想外の展開を書かれたりして面白かったりします~
これも他の誰かが書いてくれたら、方向がガラリ変わって面白いでしょう^^
あたしは職場の利用者さんの頭の中を見てみたい…
料理を混ぜ混ぜして、どんな風に見えているのか、
無人の車の中に話しかけるのがどういう風に見えているのか、
すんごく見てみたいです~><
どうなっていく・・・
やっぱ、ワクワクです(*^_^*)
ちょみ様の頭の中を探検してみたい・・・
こんなお話は・・・どう???なんて・・・(>_<)
読んでくださってありがとう~(´▽`)
無理のないようにのんびり読んでやってください~
自分の体調優先ですよ(´▽`)
いよいよ佳境なんですけど…
やべぇ、計算し直したらあと三回じゃ終わりそうにないですぅ…(ノДT)
次回が楽しみ、またまとめて調子がいい時に感動したいと思います!
うわー長い話読んでくれてありがとうです~
続くんですにゃ (= ̄ω ̄=)ノ
あと二回か三回で終わる予定ですにゃ^^
あたしが文字数数え間違えてなければ…ウム
しまったわー
えっちぃ展開にしても面白かったのにー
と、今さらながら思っております(マテ)
続くんだにゃ?
爽やかな涼風が、凪いだ海上吹き抜けていくような感じ♪