◆ 海に宿る月 8
- カテゴリ:自作小説
- 2013/07/17 22:28:29
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1016286&aid=51128429 からの続きにゃ
◇◇◇◇◇
夏の時が駆けてゆく。
盆の迎え火を焚く頃には子供達の姿は海から消える。その季節限りの賑わいは徐々に静けさを取り戻し、次の季節への序奏を始める。
ほの青いトンボがすっと二人の間を抜けて行った。
ひと気の無くなった海を前に、二人はやはり並んで座って沖を見ていた。
初めて知り合った頃は、間にもう一人くらい人の入るほどの距離だったが、今ではトンボ一匹がようやくすり抜けるほどに近づいていた。
「もう誰も泳ぎに来ないんだね」
「お盆やもん。これからはもう誰も海では泳がんなる」
盆を過ぎた海は遊びの海ではなくなる。
三日後の送り火を合図に、海岸端では薄白い大きなクラゲが、まるで来る者を拒むかのようにふわり漂い始める。
「ふぅん、もう誰も来ないんだ」
いつもとうって変わった静けさに気を抜かれたような感じで、二人の言葉もどこか上の空で宙を漂う。
海に向かって飛んだトンボが少し先でくるりと旋回し、少年の鼻先をかすめながら、また木陰に消える。
「忙しそうに飛ぶなぁ」
クスクスといつもの調子で、彼が笑った。
「そういえばあんたはいつまでこっちにおるん?」
思い出したように佐和子が訊ねる。
「いつまでって?」
不意を突かれた問いかけに、彼は佐和子を見つめて尋ね返す。が、佐和子は少しうつむいたまま、足元に並ぶテトラポットの陰で蠢く船虫の群れを見つめている。
「だって、夏休みで田舎に来とるだけなんやろ? 都会なんかから遊びに来とる子らは、盆が終わったら大抵帰ってしまうけん、あんたもそろそろ帰る時期なんと違うん?」
「帰る? ……そうだね」
佐和子を見つめていた瞳が、流れるように沖に向けられた。
帰る。うん、帰るよ、もうすぐ。
続く言葉を呑み込んで、静かになってしまった少年の横顔を盗み見るように、うつむいたままそっと隣を覗きこんだ。
やっぱり、この少年はよくわからない。
灯台からずっと手を繋いで歩いた。冷やかな薄い掌。彼の事を何も知らない佐和子だったけれど、あの僅かな時間、手を繋いでいる間だけ佐和子は彼の謎めいた不確かな部分を忘れた。
あの自然に触れ合ったひとときが、今はもう無い。
あのひとときを思い出しながら佐和子はじっと掌を見つめ、思い出していた。
もう一度、手を繋いでみたい。それで少年の何が解るというわけではないけれど、あの、とても身近に思えた瞬間をもう一度感じてみたい。この謎の多すぎる少年の、解らない部分を飛び越えて通じ合う何かを感じる気がした。
掌から意識をずらして、もう一度少年を振り向く。
目と目が合った。
どきりと、佐和子の胸が鳴った。
「手、どうかした?」
真っ直ぐに問いかけてくる彼の唇の動きに、じっと見つめてくる瞳に、どきまぎして言葉が詰まる。
「別に」
戸惑いを隠すように慌てて堤防の上に立ち、スカートの後ろをぱさぱさと叩きながら細かい砂利を祓った。
「私、もう帰る」
「そう? また明日もここに来るよね?」
「しばらくは来れんよ。お盆の間は」
「もう? 来ないの?」
「うん。お盆はね、ちょっと……家をあんまり空けたくないんよ」
盆には死んだ家族が帰ってくる。その為の迎え火、その為のご馳走。その為の花。その為の掃除。
盆の間は帰ってくる懐かしい人たちの為だけに、家中が廻る。
「私もなんだか、お盆の間はお父さんや爺ちゃん婆ちゃんたちがおるような気がして、何とはなしやけんど、よう留守にできんのよ」
「そう……」
「今時の若い子の考えることやない、てお母さんは笑うけんどね」
照れて笑いながら喋る佐和子の言葉を、一言一言噛みしめるように彼は聞いた。
「じゃあ、そのお盆が終わったら、またここに来る?」
「え?」
少年の黒い瞳の奥が、懇願するように揺れて見えた。
佐和子はその表情をどう解釈していいのか解らずに、「うん、まぁ」と曖昧に答えるしかできなかった。そしてそれは、盆の間の僅か数日間、彼女の胸を悩ませ続けた。
あそこへ、行こうか。
行けば少年が居るかもしれない。自分を待っているとは限らないけれど、独りでぽつんと沖を眺める少年の姿を想像すると、やりきれなく切なくなる。
しかし久々に連休を取った母親と共に過ごせる貴重な数日でもある。
二人で父と祖父母の思い出に浸りながら、のんびりと過ごせるのはこの盆と正月の他には無い。
昨日会った少年の様子では、本来彼の住む街へ帰る様子は、少なくとも夏休みの間は無いのかも……自分で自分に言い聞かせながら、けれど家の前の海を見れば、やはり彼の事が気にかかる。
気がかりにしながらね、過ぎてゆく三日目。それは静かな雨の日だった。
軒下で焚いた送り火の煙が昇る夕暮れ。
「もうお父さんも皆、帰ったかねぇ」
夕食の後、佐和子の母親がテレビの画面をぼんやりらと眺めながら呟けば、
「そうやねぇ」佐和子の返事はこの盆の間中そうであったように、どこか上の空であった。
「ねぇ佐和子」
「うん?」
二人とも視線はテレビに注がれていたが、番組の中身は頭の中に入ってこない。流れてくるアイドルの歌声と客席の甲高い声も、宛なく宙に漂い消える。
「お父さんが死んでから、あんたには家の事やらせてしもうて、遊びに行く事もでけんと、苦労ばっかりかけたなぁて思うてる」
「……ん」
「ありがたいなぁて、思うてる」
「…………」
覇気のない生返事に、一言くらい母親らしい事を、と話しかけてみたが、言葉がうまくまとまらないで、諦めた。
年頃の娘なのだから、いろいろ考える事もあって当然、と。
そういえば自分も、この年頃には母親に内緒で交換日記のひとつもした男の子が居たものだ。そう思えば、娘の思春期らしいぼんやりも、懐かしく、可愛く思えなくもない。
「あのね、佐和子」
「ん……」
「好きな男の子とかできたら、どんな子が教えてね」
「何それ!」
唐突な話題の転換に、呆れて驚くやらで、母親をようやく振り返った。
そして反論しようとして、思い当たる事がまるで無いわけでは無い事を思い出した。
そういえば昨日、ヨシ婆と母親が畑で立ち話などしていた。もしかしたら澤田のじっちゃんから流れた噂を耳にしたのか。
「違うわよ、そんなんじゃないんだから」
「そう?」ふふ、と笑う母に、更に慌ててしまう。
「そうよ、絶対にそんなんじゃないんだから」
「まぁ、そのうちお母さんに紹介してね」
最後にそう言い残し、
「明日からまた仕事やけん、先に休むね」と、隣の部屋へ逃げるように消えた。
「もう……そんなんじゃないのに……」
半ば呆れ、怒りながら、ぶつぶつと文句を言いながら湯呑に残った麦茶を飲み干した。
あれが母親の言う事だろうか。
台所を片づけながら佐和子は呟いた。
親なら年頃の娘が知らない少年と仲良くしている事を知ったら、心配になるものだろうに。それを、「紹介してね」とは。
後片付けも終わってふと時計を見ると、針が十時過ぎを指している。
「私ももう寝なきゃ」
最後に玄関の鍵を確認して休もうと、サンダルを足先に引っかけて土間に降りた。
ちゃぽん
目の前の海から、聞こえたような気がした。
そして七夕の夜を思い出す。
まるで佐和子を誘っているかのような水音。
◇◆◇ 続くんだにゃ ◇◆◇
最終話までしっかり書きあげてる話なので、
のんぴり読んでやってください~(´▽`)
読んでくださってありがとうございました♡
気持ちよく読めていいですねぇ^^
この先、もうちょいありそうなので、今日はここまで^^
続きをお楽しみに♪
夏の終わりは切なくもあるけれど、我が家の夏の終わりは
終わってない坊の自由課題と読書感想文で戦争になります…
読んでくださってありがとうございます^^
四角いビニールの塊、知っているのはもう常識でしょう(´▽`)
カレーとか野菜の残りを入れて冷凍できるアレですよ^^
ウィンナーの袋の空気、ポテトチップなんかと同じ原理だそうです。
安全な窒素ガスを満たし袋内を真空にして腐ったり細菌が増えるのを防いでるんだそうです、
by伊×ハムよくあるご質問ww
四角いビニールの塊、しってます♪ してその答えは~
ズバリ♪ スーパーで特売しているウインナをー二袋ごと、
テープでひとからげにした、パンパンのあれです!
なんで空気が入れてるんだか@@、、遊びでしてるのかな?
どうです、ちかいでしょう ~~;
小出しにするつもりはないんだけど、文字数制限の罠がww
どうもね、wordで書いたら空白とか入ってニコに移すと字数が増えるんだよ~;;
四角い塊ーうーん、ところてん♡
あ、ビニールが抜けたww
ええええ(ヽ(;ω;)ノ) あと四・・・、五って・・・。
やあん。 小出しにするのね~^^;
ちょみさんの地元も、やあ嫁ぎ先もめちゃ似てるぅ。
誤変換はあって当たり前だよ~^^
手書きの頃とは時代が違うもん。
ほほーーーーーー。
四角いビニールの塊。
そういえば、あたしもなんだかわかんなーい^^ ほほほ^^
ごめんねぇぇぇぇぇ! 超!超ごめんなさいー><
wordに書いた文字数計算したら9話くらいで終わるはずだったのに、終わってません(・∀・;)
あと四…や、五…?(^_^;)
あ、無理して一気読みとかしないで、体調優先でー><
お話の舞台は実はあたしの地元です(´▽`)
子供の頃は自転車で10ほど走って作中にもある海水浴場に行ってました^^
もちろん見晴らしのいい灯台もありまーす^^
きっと日本のあちこちに、こういう風景ってあって、誰が読んでも
あ、これうちの地元っぽいと思えるんじゃないでしょうか(´▽`)
誤字脱字ってゆーか変換ミス…直しながら更新してるつもりなんだけど、
うーん、見落としがあってスミマセン><
四角いビニールの塊…うーん、なんだろう、ちょみちゃんわかんなーい(´▽`)
とりあえず坊にそういう相手の出来る気配が視えたら、
自分で買え、と小遣い増額くらいはしてやってもいいと思ってますww
できれば親から渡されるんじゃなくて、
自分の小遣いで初めてのお買いものをしてくれるといいなぁ、
と思ってるのだけど、無理かなぁww
だってあたし買うの恥ずかしいんだもん♡
続きがまだない・・・・・・・・・・。
全部UPされてから一気に読めばよかった・・・。
続きを・・・。 早く続きを・・・。
ここまで書いて、つい下のコメントを見ちゃった。 ごめんね^^;
うはははは。
あたしもそう思う~^^
坊が年頃になったら、ちょみさんはそっと手のひらに四角いビニールの塊を渡しそうww