シュリハンドクとサラ(言霊の導き)
- カテゴリ:小説/詩
- 2013/07/24 23:01:49
ワタシを見ただけで人は逃げて行く。
それもそのはず・・・。ワタシは元盗賊にして人食い族だったのだから。
友と呼べるのはお釈迦様だけ。ワタシはぶーちゃんと呼んでいる。それも他の皆は気に入らないのか、ワタシを睨んでいるように感じる。
今日もワタシは丘の上から寺院を眺めて、夕日を眺めるだけ。一人ぼっち。寂しい。いつまでこの孤独は続くんだろう。
あれ?あの広い庭を掃除している人がいる。寂しくないんだろうか?ずっとしているわけじゃないよね。今日だけたまたましているんだわ。
しかし、次の日も、またその次の日も同じ人が掃除をしていた。名前はシュリハンドクと言うそうだ。ぶーちゃんが教えてくれた。
ワタシは正直、怖かった。どの人もワタシを見て逃げた。
きっと彼も逃げる・・・。
その気持ちをぶーちゃんに相談したところ・・・。
「おやおや、目の前に逃げない者がいるよ。サラ・・・人とはなかなかに相手をありのまま見れないモノだ。それを許しておやり。わかるかい」
そう訊いて・・・「ゆるします」と、つぶやいた。
そうすると不思議と心は定まり、静まって行く。
その次の日、ワタシは意を決して話しかけた。
「シュリハンドクさん!お話があります」
「ああ、サラか。久しぶりだね。あっ、覚えてないかな。一緒に饅頭を食べたの。いや、別にいいんだけど。それよりもう少しで掃除が終わるからそれまで待ってくれるかな。そしたら丘の上で話そう」と、ワタシの目を見てにっこり笑ってくれた。
ワタシはその反応に驚き、立ち止まってしまった。
「あっ、あの手伝ってもいいですか」と、ワタシは訊いていた。
「助かるね・・・頼むよ」と、シュリハンドクさん。
「はい」と、ワタシは答えると箒を取ってきて手伝った。
「塵を払う。埃を拭わん」
「塵を払う。埃を拭わん」と、ワタシも同じ言葉を唱えた。
不思議と心がすぅーっとしていく。
繰り返し唱えた。
ワタシはいつしか泣いていた。
「サラ・・・大丈夫かい?今日はやめとこうか」
「違います!嬉しくて泣いているだけです。」
「うん、そうか。それならいいけどw」と、シュリハンドクさんは笑った。ワタシもつられて笑った。
ワタシたちは丘の上に移動した。いつもはワタシ一人なのに今日はシュリハンドクさんがいる。
「それで話したい事って?」
「はい。ワタシ、ワタシ・・・」
「サラ、まだ気にしているのかな」
「だって、ワタシは殺人者ですよ。それに悪鬼羅刹なんですよ・・・ほんとに罪深い人間なんですよ」
「お釈迦様は12歳の女の子らしくなったと、言われてたし、僕もそう思うよ。サラ・・・今の君は仏法を学ぶ12歳の女の子だよ。わかるかな」
「でも・・・ワタシは・・・」
「サラ、塵を払う。埃を拭わん・・・一緒に唱えて掃除をしてどうだった?」
「不思議と気持ちよかった。ぶーちゃんに「ゆるします」を教えてもらった時と一緒。言葉に導かれた」
「そう。ボクはこれを二十年続けてきた。ただこれだけを」
「続けてきたから・・・悟りに出会えた?」
「不思議とね。僕がしてきた事はほんとに小さな事だけど・・・お釈迦様は小さな事でも続けていけば大樹となるって言われていた事がやっとわかったよ」
「小さな事を続けるだけでいいの?」
「明日から一緒に掃除をするかい」
「はい!」
サラは次の日から一緒に掃除をするようになった。
彼女は孤独ではなくなった。
お釈迦様、シュリハンドクがいなくなっても・・・
彼女を慕う人間が後を絶たなかったからだ。
大勢の人間に看取られて彼女は死んだ。
元盗賊で人食い族であったにも関わらず・・・。
「塵を払う。埃を拭わん」
言霊には不思議な力がある。
聖書にも・・・最初に言葉ありき
言葉を唱えて行くと・・・どういうわけか、不思議な事がおきる。災難の真っ只中であっても、「ついてる」と、唱えてみれば・・・「ついてる」事柄が見えてくるモノだ。
そんなわけないと思う人間がいる事も知っている。
しかし、ボクは思う。
「塵を払う。埃を拭わん」
ただ唱えてみる事だ。
そこにいろんな理屈をつける人もいる。
実際に唱えて・・・「何も起こらない」と文句を言う人もいるだろう。
しかしながら「心」は間違いなく変化している。
あい
読みました
アリガトウ
このお話、もっと、多くの人に読んでもらえると、いいな。短い物語ですが、とても深いです。
そのことに、気がつく人は、気がつくでしょうね。素敵なお話、ありがとう。