接待プレイ(前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2013/07/31 23:29:52
あーあ、面倒臭えええええ!
成績ってのは学生で終わりかと思いきやまさか社会人になってもこいつに
縛られるとはなぁ・・・。しかも追試じゃ戻せないし、生活にも関わってくる
ということは学生の時よりも全然タチが悪い。
今、俺は就業時間をとうに終えた会社で明日の会議資料を作っている。
バラバラになっている数字から必要なものを選んで、並べるだけの簡単な作業だ。
簡単な作業なら俺じゃなくてもいいだろうという抵抗は実行する前に駆逐された。
もういいや、帰っちまおう!
帰り道、飲み屋からおそらく仕事仲間と思しき集団が皆顔を赤らめて楽しそうに
出てくる。本当にいい気なもんだ。
俺にも楽しい時期があったなぁ。
学生の頃、気の合う仲間同士でよく夜を明かすまで語り合ったもんだ。
そういや、あいつとよくゲームで対戦してたなぁ。
あいつとは後輩のアサミのことだ。女だが男勝り、街なかでも出会い頭で
尻キックしてくるとんでもない奴。決して男女の仲にはなりえないとお互い
思ってたし、本当に想像すら出来なかった。
そんなあいつがまさか、
この世からいなくなるなんて思いもよらなかった。
死因は心不全らしい。
本当に急で、今もなお信じられない。突然、”ドッキリ大成功!”なんて描いた
プラカードをもってゲラゲラ笑いながら目の前に現れるんじゃないかと期待して
いるのだが、数年たった今でも現れてはくれない。
よくゲームセンターで対戦してたっけな、面白かったなあのゲーム、あれなんて
タイトルだっけ、えーと・・・。
「デンジャラスファイター」
そうだ、それだ、あの格ゲーは仲間内で流行ってたなぁ。
アサミともよく対戦していたけど、わざとあいつの攻撃を受けてあげたりする、
いわゆる”接待プレイ”をしたことに、もっとまじめにやれって怒られてたっけ。
俺なりの親切心というか愛情表現というやつなんだけどなー。
あいつが亡くなる前に、
「練習するから、今度やる時は絶対に真剣勝負する、接待プレイなんかするな」って
約束したっけな。ついには約束は果たされることはなかったか。
「デンジャラスファイター」またやりたくなってきたな。でも古いゲームだから
さすがにその辺のゲーセンにはおいてないだろうな。
家庭用に移植されてなかったっけ?
夜でもビデオレンタル店ならまだゲーム売り場は開いている。探すと意外に
簡単に見つかった。古いゲームだから案外安い値段で売ってたから即買い。
ゲーム機は持っている。これでも自称ゲーマーなのだ。
コンビニで晩御飯の弁当を買い、急いで帰宅した俺は早くプレイしたくて
弁当を広げながらゲーム機の電源を入れた。
ディスクを挿入すると、一瞬画面が暗くなり、おもむろにメーカーロゴが
浮き出る。この間がわくわくする。
さあ、始めるかと思いきや、アップデートのダウンロードが始まる。
アップデートとは発売された後にネットワークを介してのゲームの不具合を
修正したり、ゲームバランスを調整するための追加プログラムを配信することだ。
パッチともいう。つぎはぎのパッチワークと意味は同じ。
くっそー、バグなら最初から直しとけ!!
その間に弁当を胃に流し込むことにしよう。あれだけ慎重に弁当を選んだのだが
食べるときはさして味わうことはない。結局どれも慣れ親しんだ味なのだ。
ちなみに「特選おろしカツ弁当」が好み。七味をかけるとさらに旨くなる。
さて、アップデートのダウンロードも終わり、いよいよゲームが始まる。
なんと、昔のゲームだったが今ではオンライン対戦モードなんてものがあるのか。
フフフ、ゲーマーの俺に抜かりはない。当然オンライン環境は整えてる。
その前に。
もぐもぐ・・・。ごぎゅごぎゅごぎゅ・・・ぷはーっ
コンビニ弁当とペットボトルのお茶コンボを華麗に決める。
この場合”決める”なのだ。
練習はいらねえ、昔取った杵柄だ。このゲームのルールも
操作法も完璧に習熟済だ。マイキャラも決まっている。
マイキャラの名前はジョーイ。
インファイター系だが飛び技もあるので間合いが取りやすい。
コマンドやボタン配置もだいたいわかるので取扱い説明書はスルーして、
いざゲーム開始。慣れているゲームではあるが、操作感覚を思い出すために
対戦はやめてCPU戦で慣らすとする。
1キャラ目。
一見、弱そうなおじさんキャラだがHPが残り少なくなると急に
怒り出し、口から炎を出す。超必殺技では画面全体を火の海に
してしまい、一度食らうといくら防御してもHPが削られてしまう。
しかし、キャラごとの攻略法はすでに頭の中にインプットされているのさ。
常に相手の頭を超えるジャンプで背後を取り、攻撃を与えては逆方向に
ジャンプし、また攻撃を与えるというパターンで確実に仕留められる。
ただし、これがCPUではなく、対人戦だった場合、卑怯な技としてみなされ、
リアルなパンチ飛んでくるとも限らない。いわゆるハメ技というやつだ。
簡単に1キャラ目を撃破。
大丈夫。腕はそれほど鈍ってない。
さてと、次のステージ。
キャラクター選択画面が現れ、次の対戦キャラがパラパラと本のページを
めくるように移り変わる。止まったところが次の対戦キャラとなる。
ピロピロピロ・・・ピコーン。
相手キャラの選択が終わった瞬間、画面の中央にいきなりデンッと
New Challenger Comes here!
と表示される。あれ?対戦者現る?
なるほど、最近のゲームはオンライン対戦ができるようになっているんだ!?
家にいながらゲームセンターのように突然向こう側から対戦相手から挑戦状を
受けることもあるってことか。
『アサミさんからの対戦を受けますか?』
え!?
まさかさっきまで考えてた子と同じ名前のプレイヤーが乱入してくるとは。
あいつが生きてたらこのシチュエーションはありうるだろうなー。
当然この世にはもういないし、それほど個性のある名前でもないから
同じ名前のプレイヤーはゴマンといるはずだ。もしかしたら女の名前で
登録したネットオカマかも!いわゆるネカマってやつ。うへえ。。。
俺は騙されないぞ。
すでに俺の中ではこの対戦相手の姿はネカマで刷り込まれてしまった。
よっしゃ。受けて立とうじゃないかネカマ君よ?
答えはYESだ、きたまえ。
つづく
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- ひーさん
- 2013/08/01 23:31
- 後半ちょっとマニアックです。
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- 穂夏
- 2013/08/01 21:01
- なんか不思議な展開ですね~(〃д〃)
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