【アリスサークル/シャギル短編】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/08/21 16:39:54
# - 痛みを感じない従順な玩具。
ボクが孤児院から引き取られたのは、4歳の頃だった。
あまり記憶は定かではないが、里親になったのは優しげな老夫婦だったと思う。
老夫婦は14の時に流行り病で次々に他界し、次にボクを引き取ってくれるはずだった、母方の妹は引き取りを拒否した。
遺産の相続はボクになっていたのだ。
とても愛してもらえていたのだろう。
だが、借金で首が回らなくなっていたその妹に相続権は剥奪され、ボクは孤児院に突き返された。
下っ端とはいえ役持ちだったらしく、家系としては悪くなかった。
元金持ちは、恰好のターゲットになった。
孤児院に戻ったボクは、孤児院に住む彼らから手厳しい歓迎を受けた。
遠慮や手加減というものを知らない彼らのいじめは中々のもので、2年もするとボクはただの根暗に成り果てていた。
助けてくれる人など居ない。
先生でさえ見て見ぬふりをする有様だった。
だが、ボクはもう一度里親に引き取られた。
1人の若い男だった。
16にもなった子供を今さら引き取ってどうするつもりだろうと思ったら、案の定「そういうこと」をされた。
何しろ、世の中は汚いのだと知った。
その男に連れられてやってきた、小ぢんまりした屋敷には他にもたくさんの少女がいたのだ。
けれども治安の良くなかったこの街でも抗争は起きた。
小規模だが爆弾は落ちた。
街は無残に吹き飛ばされ、容赦なく全てを灰塵へと帰す。
ぼんやりとそれを眺めていた。
これで晴れて自由の身だ。
鎖から解き放たれて、正直清々していた。
その気になれば盗みを働いてだってこの世界でなら生きてゆける。
が、
「ねぇ貴女、死にかけなら助けてあげようか」
ボクの薔薇色の人生は瓦礫によって邪魔された。
落ちた爆弾は我が家を直撃。
キャンプファイヤーの10倍も豪華に燃え上がり、思うさま黒煙を吸い込んで死を招く深淵をちょっとばかり覗き込んでいたら悪魔に声をかけられた。
無論、〝悪魔〟という表現が正しいかはわからない。
ただ、ボクはそう思った。
そう、この世界の全てを知っている気でいた。
下品で下衆なところも。
つまりは世の中全て、金だということも。
集団心理の中で動く人間たちは、大きな個には逆らえないということも。
「その代わり、〝なんでもやる〟って誓ったらね」
ボクは必死に頷いた。
命は惜しい。
こんな汚い世界だって、命だけは惜しかった。
でも、この時に一思いに死ねていたら。
後悔することも、これ以上の苦しみも痛みも、感じなかったのに。
思えばあの時、何故あの女がボクの住む街へ足を運んでいたのか、良く考えるべきだった。
ボクは、〝なんでも〟の意味を理解できていなかった。
*
「ッぎゃ――ああああああああああッッ」
20回目。
耐え切れず喉から迸った絶叫が小部屋に響き渡った。
ビシィ、と白い胸に一条、真っ赤な筋が刻まれる。
皮鞭と焼き鏝による拷問が小一時間続いていた。
これは、あの女によるただの娯楽にすぎない。
鞭を窯で熱していた鉄と持ち替えると、勿体ぶるように振りかざしては陶酔の高笑いを絶叫に被せる。
「痛ぃい?あはははははッ」
じゅう。
肉が焦げる。
香ばしくも鼻につく。
食いしばった歯の間から苦悶の声が漏れ、細い喉がのけ反った。
拘束された手足に震えが走る。
服に隠れて見えないのを良いことに、火傷の痕と鞭の傷が数えきれないほど上半身と下半身に溢れていた。
これでも見世物、顔にだけは傷をつけないだろうと思っていたら、油断した隙に鞭がうねった。
ビシャッと左目に直撃した鞭は、その日から左の視界を奪った。
「あらぁごめんなさいね、手が滑っちゃって」
悲鳴を上げる隙も無く、どろどろと鮮血は頬を滴る。
嗜虐と恍惚の笑顔を浮かべたまま、〝ご主人様〟は虚ろな目をした〝下僕〟に鞭を振った。
あの女に拾われてから、「逆らうとおしおき」というトラウマをしっかりと植えつけられた。
最初こそあの二つを気に入っていたようだが、当然飽きもする。
レパートリーは増え、例えば水責め。
飲めくなっても無理やり水を喉へと流し込み、妊婦のように膨れ上がった腹を潰して水を吐かせを繰り返す。
魔女狩りなどに使われていたもののようだがあの女は割と気に入っていた。
自白などが目的ではないため、単に反応を楽しむために行っていたのだ。
けれども見世物以外にも仕事ができれば話は別だ。
些細なミスは、20倍になって帰ってくる。
そして大きなミスは――――
「――がッ」
自分の武器、鋏で背中を強打された。
いとも簡単に吹き飛ぶ身体、視界がめちゃくちゃに回る。
そして感じる、〝痛み〟。
息もできないほどの激痛に、芋虫のように丸まった。
主は手際よく不出来な犬を首輪に繋げ、吊し上げる。
そしていつものように拷問が始まった。
「ッごめ、なさい、許し――ぁがッ」
ぎりり、首枷が身体を持ち上げる。
「それで?どうして失敗しちゃったのぅ?」
どうして、という問いには答えられなかった。
あの日。
路地裏で彼に逢って、何もかも話してしまったあの日。
強いていえば、失敗はあの森へ立ち寄ったことだ。
けれどもそのこと事体を失敗とは言えまい。
見つかったことや、迂闊だったことも原因だ。
総じて、警戒の甘さ。
許して、としか言えなかった。
「あの眼鏡の子に誑(たら)し込まれたくらいですぐ調子乗っちゃうから
こんな目に合うのよ?わかってる?」
「わか、って、」
「わかってない」
ぎりりりりりり。
爪先が宙に浮く。
全体重を掛けて引っ張られた鎖はピンと張り、またも息ができなくなった。
「ねぇ、そんなに嫌?今の生活。
これ以上裏切るなら貴女のこと殺したって別に良いのよ?
ユウくんには替えがいくらでも居るし……」
「ッれ、だ、けは、ぁ、かはッ、ッ――ッぁ゛、ぁうぐあああああああッッ」
「このナイフの痛み、よく覚えといてね」
ぐり、と酸素を求めて喘ぐ身体にナイフが突き立つ。
潰れかかった喉の隙間から迸った絶叫は獣の咆哮のようだった。
いや、それよりももっと、汚い。
背中から薄皮を剥ぐように、あるいは皮膚を撫でるようにナイフが滑る。
やがてシャギルの反応が酸欠によって鈍くなってきた頃、失血で青白くなった頬におまけの傷を一つ入れ、ようやくナイフが下ろされた。
だらりと垂れた手足の先は、わずかに痙攣している。
虚ろな目から溜まった涙が一筋流れ落ちると、不意に鎖が緩められた。
乱暴な音を立てて自らの血だまりに落ちる。
そのショックで覚醒すれば、突然入り込んできた大量の酸素に喘ぎ涙を流してむせ返った。
女は満足そうにそれを見届け、鎖を引っ張ってシャギルを無理やり引き寄せる。
その右手には、大きなアイロン。
「じゃあ、明日からもよろしくね、シャギル」
「……ッはい、ご主人様」
涙と血でぐしゃぐしゃになった笑顔。
胸を掻き毟るような絶叫に代われば、主人はまた、玩具で遊ぶ。
*****
はい。シャギルの過去ダイジェストと後日談でした。
我ながらひでえ!これなんて外道?(
でっ、でも、シャギル一人だけが苦しむのってかわいそうだよn(
ところで無痛症って脊椎強打すると一時的に治るそうです。
それを含めて次回w
楽しんでいただけたなら幸いです。
ではお次は拷問フルコース(祭りの後編)にて!←
シャギル単純でお馬鹿さんだからすぐ騙されちゃうんだ……その裏に何があってもいいって思ってるから(
いいや!そこは遠慮せずいじめたって!←
ロムくん期待(/・ω・)/!(((
フルコースだよおおおおお
お祭りのあと森に遊びに来た時はどっか無くなってるかも★(
シャギルを幸せにしてやり隊発足。
ロムなんてやめなよ、シャギちゃん。
もっと優しい人がいるよ、シャギちゃん。
ぁあぁああぁあぁあぁあ
フルコースうぅぅぅうううう