星と闇と、終わりの物語。【4】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/08/25 18:24:29
Story - 2
そこだけぽっかりと切り取られたように、それはそこにあった。
「大火」の惨劇のあと、まぬけな灰色のパレット(地面)に浮かぶ赤い屋根の家は、「大雨(たいう)」にも濡れることなく、あった。
無傷で。汚れさえもなく。完璧に、ある意味不気味に。
消えた黒煙は、空に広がる暗雲と混じって空にも灰色の筆を走らせていた。
空も地上も森さえも灰色に塗りつぶしてなお、その家はそこに、ある。
*
大火が消えたのを見届ける前に、再び走り出した。
立ち止まり、「大雨」を呼ぶまでにもかなり走ったのに、また走った。
消耗は自分の想像以上で、でも止まるわけには絶対にいかなかった。
脚がガクガクして、それこそ産まれたての小鹿よりひどかったかもしれない。
既に悲鳴を上げている筋肉を無理やり動かして、無様に走ってまで行かなくてはならないから。
もとより失うものなんて何も無い。……サーヤ以外に。
きっと大したスピードも出ていないのにあっという間に上がった息の苦しさを無視して、頭の芯をもたげる鈍い痛みも、目眩も、定まらない足元も無視して。
走れ、走れ、走れ。
地面を踏みつけるたびに、びしゃびしゃと灰と雨の混じった汚い水の飛沫が上がる。
白いローブは重く濡れたまま、その飛沫にもっと汚れていった。
そんなことはどうでも良い。気にしない、気にならない。
大切なことは一つだけ。早く。早く早く早く。
もっと勉強していれば、速く走れるまじないだって翼を生やすまじないだってあったかもしれない。
でも手遅れなんだ、今更悔やんだって仕方ないんだ。
悔やむくらいなら走るしかない、それしか出来ないんだから。
平和なんて、こうやって一瞬にして壊される。
この世に「まじない」がある限り。
*
足が棒のようだ、とは良く言ったもの。
ほとんど呼吸困難のような状態でたどり着いたサーヤの家は、感じているよりももっと遠かったように思えてならない。
感覚までもまじないに侵されていたのではお話にならない。
せめてそうでないことを願うしかなかった。
「…………サーヤ」
気力だけで呟いた。
声を発し、息をするだけで喉と肺が焼けるように痛んだ。
死よりも苦しい時間が、サーヤの家の扉までの距離を遠くする。
だが、異変に気付くのに遅すぎた。
まじないでなく、すっかり黒煙に侵されまともな思考ができなくなっていた。
森の大部分が消えるような大火事に見舞われたにも関わらず、どうして小さな一軒家は無傷で居られよう。
病的なまでに思考は一人の少女のことで埋め尽くされていた。
彼女さえ、彼女さえ居てくれたら。
もう世界なんて要らない。
こんなどうしようもない世界なんていらない。
「――ッぃ゛」
――バチン。
鈍色のドアノブに触れた瞬間、電流が走った。
遅れて右腕が捥げそうなほど痛んだ。
ぽたり、ぽたりと指先を伝う液体。
ほとんど感覚のなくなった手のひらを見れば、地割れのように剥けた皮が右手を真っ赤に染めていた。
ぎりぎりと、折れそうなほどに歯を食いしばっても漏れる苦悶の声に顔が歪んだ。
滲んだ涙を振り払うように一度目を固く瞑って大きく息を吸い込む。
そうだ、この中に、サーヤが――――。
助けるんだ、そうだ助けるんだ。
今すぐ、この扉を壊して君を。
ゆっくりと、息を吐き出した。
「…………目覚めよ」
地の底から、別の誰かが喋っているようだった。
身を沈め、既に自分のものなのかも怪しい右腕の曖昧な感覚を無視して膝をつく。
両手を地面に付け、唱えるべきまじないをそっと思い浮かべた。
触れることさえ敵わないなら、力ずくで壊してやる。
その程度で退けられたと思わぬように、木端微塵に砕いてやる。
「 祖は星空の神、暗闇を統べる夜の神よ。
天かける星々のように煌めき、煌々と明るい月のように輝け。
濃紺の夜空穢すは果てしなき人々の思い。欲求。
我の聖なる願い聞き届けよ。強きを打ち砕く一時の破壊を。
貸してくれ、愚かな思い消し飛ばす力を。
月満ちて美しい星々は己が身を焦がす」
少年を包み込む濃紺の闇が、開いた眼を赤く見せる。
刹那、渦を巻いて天へと迸った真紅の輝き。
雷のように黒い雲を切り裂き、生まれる静寂が。
やがて、どこからか耳鳴りのような音を響かせた。
風が泣いているような、不思議な音が。
だんだんと近づいてくる。
曇った空を駆け、焼け焦げた森を走る真紅のかすかな煌めきが。
「 流星となって――――!! 」
全てを焼き焦がすほどに、少年の背後から飛来した。
*****
半年とちょっと過ぎのせいで話の流れ思い出すのにしばらくかかった←
でも、やっぱりあまりに前なせいで文章がかなーり残念な感じに……
うん。
時間って怖いね。
お久しぶりなタイトルで覚えていない方も多いでしょうが、
他の小説と一緒にぼちぼち連載再開しようかなって思ってます。
気に入っているので。
コメントとかもらえると嬉しいです。
久々に書いたので。
それでは。
*
足が棒のようだ、とは良く言ったもの。
ほとんど呼吸困難のような状態でたどり着いたサーヤの家は、感じているよりももっと遠かったように思えてならない。
感覚までもまじないに侵されていたのではお話にならない。
せめてそうでないことを願うしかなかった。
「…………サーヤ」
気力だけで呟いた。
声を発し、息をするだけで喉と肺が焼けるように痛んだ。
死よりも苦しい時間が、サーヤの家の扉までの距離を遠くする。
だが、異変に気付くのに遅すぎた。
まじないでなく、すっかり黒煙に侵されまともな思考ができなくなっていた。
森の大部分が消えるような大火事に見舞われたにも関わらず、どうして小さな一軒家は無傷で居られよう。
病的なまでに思考は一人の少女のことで埋め尽くされていた。
彼女さえ、彼女さえ居てくれたら。
もう世界なんて要らない。
こんなどうしようもない世界なんていらない。
「――ッぃ゛」
――バチン。
鈍色のドアノブに触れた瞬間、電流が走った。
遅れて右腕が捥げそうなほど痛んだ。
ぽたり、ぽたりと指先を伝う液体。
ほとんど感覚のなくなった手のひらを見れば、地割れのように剥けた皮が右手を真っ赤に染めていた。
ぎりぎりと、折れそうなほどに歯を食いしばっても漏れる苦悶の声に顔が歪んだ。
滲んだ涙を振り払うように一度目を固く瞑って大きく息を吸い込む。
そうだ、この中に、サーヤが――――。
助けるんだ、そうだ助けるんだ。
今すぐ、この扉を壊して君を。
ゆっくりと、息を吐き出した。
「…………目覚めよ」
地の底から、別の誰かが喋っているようだった。
身を沈め、既に自分のものなのかも怪しい右腕の曖昧な感覚を無視して膝をつく。
両手を地面に付け、唱えるべきまじないをそっと思い浮かべた。
触れることさえ敵わないなら、力ずくで壊してやる。
その程度で退けられたと思わぬように、木端微塵に砕いてやる。
「 祖は星空の神、暗闇を統べる夜の神よ。
天かける星々のように煌めき、煌々と明るい月のように輝け。
濃紺の夜空穢すは果てしなき人々の思い。欲求。
我の聖なる願い聞き届けよ。強きを打ち砕く一時の破壊を。
貸してくれ、愚かな思い消し飛ばす力を。
月満ちて美しい星々は己が身を焦がす」
少年を包み込む濃紺の闇が、開いた眼を赤く見せる。
刹那、渦を巻いて天へと迸った真紅の輝き。
雷のように黒い雲を切り裂き、生まれる静寂が。
やがて、どこからか耳鳴りのような音を響かせた。
風が泣いているような、不思議な音が。
だんだんと近づいてくる。
曇った空を駆け、焼け焦げた森を走る真紅のかすかな煌めきが。
「 流星となって――――!! 」
全てを焼き焦がすほどに、少年の背後から飛来した。
*****
半年とちょっと過ぎのせいで話の流れ思い出すのにしばらくかかった←
でも、やっぱりあまりに前なせいで文章がかなーり残念な感じに……
うん。
時間って怖いね。
お久しぶりなタイトルで覚えていない方も多いでしょうが、
他の小説と一緒にぼちぼち連載再開しようかなって思ってます。
気に入っているので。
コメントとかもらえると嬉しいです。
久々に書いたので。
それでは。