紅蓮狐姉妹のお茶会。【2】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/09/30 23:33:05
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「ふぅん?」
ひとまず気に入ってもらえたようで、翳籠は気づかれないように溜め息を吐いた。
彼女ほどの妖怪になると耳や尾を隠すのは簡単だが、中途半端に力を持っていると不便なことのほうが多い。
特に自分のように、彼女から力を分け与えられて九尾として顕現している身であれば尚更。
翳籠は比較的弱い部類の妖に入る。3段階あるとすれば中の下くらい。
ひょんなことで彼女に拾われなければ今の自分は無い。それ故に、自分よりも力のある強い妹たちが時に恨めしい。
上の上、最高位に腰を据える彼女の傍に居るのが、こんな、九尾になり損ないのみそっかすで良いのか。
未だに誰にも打ち明けてはいないが、最近は少し、考えることが多い。
「翳籠」
「あ、は、はいっ」
「……ほどほどにね」
「え……っ、あ」
先ほどもそうだったが、たまに彼女には読心術でもあるのではないかと思う。
……それは恐らく、自分がわかりやすい顔をしているのが悪いのだとも思うが……。
「ところで翳籠」
「はい」
「耳がないと不便ね。小さい音が上手く聞き取れないわ。人間てこんな生活をしているのかしら」
「信じられませんね」
「尻尾がないと落ち着かないわ。足元がスースーするったらないわね」
「寒いですね」
「このスカートとやらの丈はどうにかならないならかしら」
「妖糾姉様がどうにも出来ないのなら僕にもできません」
「人間ってよくわからないわね」
全く同感です、と答えようとすると、森の中を歩いていたはずが、いつの間にかそこは現代社会――人間たちの暮らす、都会の街並みだった。
*
人間たちの多く住まう都心に出てきたのは久しぶりだ。
何世紀かぶりかもしれない。
それゆえ自分が現代の世情を把握するのに時間がかかったのだが。
というのも、妖糾の命でここ何百年(正確には把握できていない)の間、乱れ始めたこの地の妖力を土地神である彼女を軸にその体内に蓄え直し、彼女に続く妹たちへその力を新たに注ぐため長きにわたって眠りについていたのだ。
要するに、わかりやすく今の言葉を使うなら「メンテナンス」というものだ。
要らなくなったメモリーを消去し、土地を綺麗にしたということ。
土地神なしでは土地はその姿を保っていられないし、その妹たちも然り。
長女である妖糾を中心に、今現在、姉妹は二十近く存在している――が、その多くが空席だ。
つまり、存在していない。
何故そのような序列があるのかというと、長女である彼女曰く「そのくら余裕があったほうが仲間にしやすいでしょう?」とのこと。
全くもって理解できない。
それでは使い捨ての乾電池か何かと同じ扱いなのではないだろうか。
それとも彼女なりの配慮の結果なのか。
姉妹を創りだした彼女のことは三女である自分でさえ良くわかっていない有様だ。
今はいない、彼女と歳の近かったらしい次女との間に何があったのか、訊く勇気もない。
「妖糾姉様、極力その口調でお話されるのは避けてくださいね?」
「平気だわ、翳籠。奴ら無神経だもの。私たちがどんな会話をしていたって大して聞いてなんかいないわ」
高層ビル街、そのスクランブル交差点のど真ん中で人ごみを掻き分けて歩く。
余裕で人間たちの世界へと紛れ込むことに成功した。
妖糾はともかく、自分の姿は他の人間たちには姿は愚か声さえ届いていないのだろう。
こういう時にだけは、弱いという決定的な穴は塞ぐことができる。
ところで、いつの間にか人類は恐るべき進歩を遂げていたようだ。
電光掲示板とやらの明かりは目を焼くほどに煌々と輝き、アスファルトという名の人工の地面に覆われたそこは歩きにくいことこの上ない。
ただ歩くだけでも目が疲れてしまいそうだ。
それに空気も汚い。
そのうえ、この人ごみと人々の服装の変化。
口調も変わっているのかもしれない。きっと、必死にかき集めた今の知識だけでは足りないほどに、彼らは変わった言葉を話すのだろう。
この薄っぺらい箱(携帯電話端末)――スマートフォンと言うらしい――がいかほどに信用できるかしれないが、これだけが今は頼りだ。
ちなみに入手ルートは、特別に妖糾に許されに眠りにつかず、ずっと世界の変容を見てきた七女から。「今はこれが便利なのですじゃ」と渡され、使い方に至るまでなんとか一週間ほどで覚えたが、人類の科学技術の発達力だけは侮れないらしい。
これほどまでに便利な機器があるのなら、姉妹の全員に所持を強制させたいほどだ。電話とやらでいつでも連絡が取れるらしく、メールという機能も実に便利そうだ。まだ使ったことはないが。
ただ、このスマートフォンは八女が使用料を払ってくれているので、まだ完璧に自分のモノではない。八女はバイトとやらにも手を出しているらしく、自分の金は自分で稼ぐのだそうだ。それだけは今も昔も変わらないらしい。
液晶画面を指先でタップし文字を入力すれば、書物を開いたかの如く様々な情報が手元に流れ込んでくる。これほどまでに度が過ぎるのなら、化学というモノも、案外自分たちの使う妖術と変わりがないのかもしれない。
「ところで妖糾姉様、今回は一体、どのような御用で――」
「あの子よ」
ふと回想を終え、今さら湧いて出た疑問を口にした途端、間髪入れずに彼女は答えた。
スクランブル交差点を抜けて人通りの途絶えた大通りの隅っこ、薄暗く、陰気くさい路地裏への入り口に、その少女は座り込んでいた。
*****
どうせなら続きも書いちゃおうかと悩んだんですが切が良いのでここまで!
思ったより読んでくださってる方が多いみたいで良かったです。
よろしければ参考までに、コメントいただければ嬉しいです。励みになります。
それでは。
P.S.
七女を八女だと勘違いしてたので七女に訂正しました。
あざっす!!w
現代慣れしていない表情を描くのが難しいッス(´-ω-`)