眠りにつく前に。レティーシア・レンレン
- カテゴリ:小説/詩
- 2013/10/05 01:51:31
レティーシア・レンレンという名前を聞くのは、これが初めてじゃない。サンマルコ大聖堂パティシエ通り五番地の裏にボクとジェコはやってきている。レティーシア・レンレンという女性なのか、男性なのか、分からない人物を追って。
ジェコはボクの相棒で、長年一緒に刑事をしてきた仲間だ。ボクたちは二手に分かれて、ボクは通りの南側からジェコは北側からレティーシア・レンレンを追い詰めている。
写真を見る限り、長い黒髪のストレートで、黒いワンピースを着こなしている事から女性と推測される。
これで男だったら、逆にびっくりだ。
さて、ボクたちは写真の人物、レティーシア・レンレンを目の前にしている。とうとう追い詰めたのだ。
相棒のジェコの姿も見える。ジェコは拳銃を持っていて、彼女と何か話している。
ボクの周囲に警官が複数後ろに現れる。
地面に押さえつけられたのはボクだった。
え?ボク???
レティーシア・レンレンは女性だった。
彼女はにっこりと笑い、ボクの顔を見て話しかけてきた。
「いい夢は見れました?相棒のジェコは私の相棒ワトソンです。彼は偽名を使っていたわけではありません。あなたは私の催眠に見事にかかってくれたのです。銀行強盗から刑事になって出て来てくれてありがと。さあ、おまじないを解いてあげる」
そう言って彼女はボクの左耳を触った。
ボクは酒場で銀行から巻き上げたお金で、上等のお酒を飲んでいた事を思い出した。そしてそこでレティーシア・レンレンです。と、名乗る美しい女性に左耳をキスしてもらったところまで思い出した。ああ、あの酒場でボクは自分の事を刑事と思い込んでしまったのか。
そう、ボクはただの盗人だったのだ。
本当の刑事は彼女だ。
酒場のマスターはジェコだった。全ては仕組まれていた。
なんて事だ。いきつけの酒場まで調べられていたとは。
念入りに計画を練っていたのが、バレるとは。
自分に悪だくみの才能が無い事に失敗してから気づくとは。
ボクの才能は「根拠無く何かを信じる」才能だった事に今、気づくとは。
「やり直せますかね?」
ボクは間抜けな事を聞いてしまっていた。
レティーシアはまたにっこり笑い、「もちろん」
「あなたは見所があるから・・・裁判所へ申請しておくわ」
司法取引?
言葉の意味が分からないまま、ボクは連行されていった。
何ごとにも遅いという事は無い。
生きていれば、やり直せる。