ニュクスの天体観測 一話完結。
- カテゴリ:小説/詩
- 2013/10/22 11:50:57
肌寒さを感じたく無いわたしは、二重三重に厚着をして天体望遠鏡という呼ばれるモノを覗いている。
占術は嫌いだ。星を読み解き、予定調和を伝えるだけ。
わたしはハイヤーセルフの声が聞きたい。だから、オラクルカード、タロットをよく使い、ハイヤーセルフの導きに従っている。それなのにわたしと来たら、他人のために今日も星を読み解き、予定調和を伝えている。
それもいいものよ。なんて言う友人もいた。しかしわたしはどうも好きになれない。予定調和を伝えて何とする?
伝えなくてもそれは起こるのに。自然な事なのに。
それでも人はそれを知りたがる。
あら?あなたいつからいたの。無粋ね。
来たのなら、ひと言、声ぐらいかけなさいよ。
まあ、いいわ。バツとして昔話に付き合って。
星読みを北の大地と一緒に続けて、五年かしら。
わたしは星を見る事よりも、北の大地で見つけた魔王たちの方が気に入っている。あたらしいオラクルカードとして魔王が追加されたのも・・・これも予定調和のうちかしら。
いきなり魔王と伝えても分からないでしょ?そりゃそうよね。
魔王って言うのは、わたしの見てきた心かしら。
わたしには少なくとも五人の魔王がいる。
でもね。そのどの魔王もわたしには必要なの。
わたしの愛しい愛しい心なの。
あなたも星読みのはしくれなら「極性の法則」とかご存知というか、もちろん知ってるわよね。
え?知らないの。あなた、何年星読みやってるのよ。
え?まだ三ヶ月ですって。そんな新人がどうしてわたしの天体観測所に来ているのよ!
「タルタロスに言われて来ました。予定調和通りなら、極性の法則を教えてもらえるって」
あらそう。まあ、あの子に言われて来たって言うなら仕方ないわね。極性の法則の好きな部分だけ教えてあげる。
世界はね。半分は間違っているという真実よ。
「半分?どうしてその部分が好きなんですか?」
それを今から言うのよ。急かしなさんな。
いい?例えばよ。あなたがとんでも無く絶望してたとしたらどう?
希望を無くしてもうだめだーって思ってる。
あなたならどうする?
「え?どうするって言われても・・・。そのまま落ち込んで何もしないと思います」
あら、どうして何もしないの?それはあなたが間違っているから動きたくないの?
「そうですね。失敗した時って、過去に戻りたくなりますよね。戻って、気をつけろよって。でも、戻れませんよね」
そうね・・・戻れないわ。でも、あなたの選択と行動の半分を直せばいいのよ。どんなに絶望する事があったとしても・・・あなたを絶望させた事柄も「半分」は正しくないの。
だから人と人は「あなたの言うこともよくわかります」って言えるのよ。半分認めてあげればいいのよ。
わたしたち星読みもそう。
予定調和を伝えているけど・・・半分は外れているのよ。
それを知りつつ、伝えて行くのよ。言葉を選んでね。
占いの通り物事が起きるわけでは無いけれど・・・運命の三女神の手助けを。しいては宇宙の発展と進化を。
まあ、そんなところね。わたしからの講義は終わり。で、タルタロス・・・かわいい息子様から何をあずかってきたの?
「バラの花束です。完全冷凍していますので、北の大地でも飾れるだろうと、言われて持って来ました。どうぞお受け取りください」
そう。粋な事してくれるじゃない。ま、いいわ。ところであなたの名前は?
「リルル・ガランドです。それではボクはこれで」
そう、またね。いつでも来なさい。
わたしの星読みが聞きたくなったらね。
少年は振り返って一度敬礼をしてから階段を降りて行った。円形のステージにまたわたし一人。いいえ、魔王たちも一緒よ。
わたしはポケットから紫に輝くティアラを頭に付けてから天体望遠鏡を再び覗き込んだ。
オリオンが歌っている。ええ、ほんとに歌っているわけじゃないのよ。わたしには流星群のきらめきが歌っているように見えるだけ。
美しいわ。星読みは孤独を愛する人って言われているけど、そうでも無いのよ。わたしは人と話すの好きだし。
それにわからないかもしれないけど。
孤独に震えていた自分を愛するって言葉の本当の意味が理解できたら・・・孤独さえも消えるわ。
そうなった時。
ああ、生まれてきてよかったって思えるのよ。
まあ、このへんで終わりにしようかしら。
ありがとね、わたしの日常を見に来てくれて感謝しているわ
byニュクス
所詮人間が各々無力な存在であるからかもしれない。
星読みはその無力さを誰よりもよく分かっている者であるという気がしています。
なぜならば星読みは人の寿命をはるか超越した何億年という星の寿命の魅力に囚われた者だから。
おそろしいほどに長大な時間の長さを知っている星読みは、
だからこそ人の寿命がどれだけの奇跡であるか知っていると思います。
ありがとうニュクス。