★　こたつとおでんと冷酒　★



やぁお客さんいらっしゃい。
とうとう十月も終わりましたね。これから冬本番ってとこでしょうか。
コンビニじゃおでんと肉まんが早々に売り切れてるようですね。
おでん、いいですよねぇ。
熱々の大根に卵、こんにゃく。
スジ肉はとことん柔らかく煮たのを味付て。
ダシで煮込んだおでん種にみがらしちょんとつけて。
それか、味噌おでんに七味ふってね。

あ、バレました？
へへ、実は仕入してるスーパーに行く途中の通りで
毎年おでんの屋台やってる爺さんが今年も元気に店出しましてね。
ちょっと晩ご飯代わりにつまんできたんですよ。
ついでに先着五名様程度に肴で出せるくらいお土産に買ってきてね、
今鍋に仕込んでたとこなんですよ。
あ、匂いでわかっちゃいましたか？
爺さんの今年の商売が繁盛しますように、って、景気づけに買い込んじゃったんですよ。
まぁ縁起物ってことでね、こいつはサービス。
はいはい、ちゃんとお出ししますって。本日一番乗りのお客さんですからね。
卵にこんにゃく、じゃがいも。
え？　スジがない？　そりゃ予算の関係ってやつですよ。

そうですか、外まで匂ってましたか。
何でこう、おでんだのシチューだのカレーってのは外まで匂うんでしょうねぇ。
日本の冬の美味しい匂いですよね。
アタシの子供の頃ってば、ちょっと路地に入るとあの家はカレー、この家はおでんって匂ったもんで
大抵は夕飯の支度の早い家の匂いがただよってくると、それが帰る合図だったりしたもんです。

あぁそうそう、呑む方はどうしましょう？　今夜は何で呑きますか？
おでんには酒だろう？
そりゃごもっとも。
何か適当に良さそうなのをみつくろってくれ？
うーん、そうですねぇ。
あ、いいのがあったあった。これで呑きましょうか。

「久寿玉」

いえね、十月の秋の高山祭り観光を兼ねてね、
飛騨に住む友人の家を訪ねたらこいつを出されましてね。
もう一口で気に入っちゃって、帰りに蔵まで行ってケースで買ってきちゃったんですよ。
ラベルに描かれた白川の合掌造りがまた何とも郷愁を誘うじゃないですか。
さて、呑み方ですね。
もちろんぬる燗、熱燗、どちらも最高ですけど、肴が熱いおでんですからねぇ。
この際だ、冷でどうでしょう。
冬でもね、外が寒くても暖かいもん食べる時にはちょっと涼やかな方がいいもんですよ。
ね？　いけるでしょう。
はい？　肴が足りない？
すみませんねぇ、やっぱりおでん種三つじゃ足りないですかね。
じゃあ……
「じゃこ天」
四国の友人が送ってくれたんですけどね、地元の小魚を練って揚げたもんですよ。
地元じゃ「てんぷら」て言うとコイツを言うらしいんですけどね。
コイツを軽くあぶって……と言いたい所だけど、あいにくうちには網が無くてね。
代わりにオーブントースターを使いますよ。
で、焦げ目が軽くついた所で食べやすく切って、大根おろしをたっぷり乗せて、はいどうぞ。
はい？　これまた酒に合う？
そうでしょうとも。

えぇ、高山の祭は最高でしたよ。
大きい山車が街中練り歩いてね。
食べるもんも呑むもんもみんな美味しくて。
そうですね。
お客さんも春の祭にでも行ってみるといいですよ。ぜひ奥さんとご一緒に。
情緒ある昔ながらの街並みは若い方から熟年の方まで、
カップルさんに女同士、学生同士でも十分に楽しめますよ。

あれ？　これじゃぁ飛騨の宣伝だなぁ。
まま、とりあえずもう一杯どうです？
えぇじゃこ天もまだまだいっぱいありますよ。
何でしたら大根、即席おでん煮にしちゃいましょうか。
あぁ、でもこういう酒と肴は……こんなカウンターじゃなくて、こたつでじっくり呑りたいですねぇ。

おっと、こりゃぁ呑み屋の主人の言う事じゃないですね。
失言失言っと。
ささ、もう一杯どうぞ。