Nicotto Town



復讐の鬼

銃夢(ガンム) Ⅳ 新装版
 木城ゆきと
  集英社



かつて、ガリィユーゴに想いを寄せている事を知った上で、ガリィにユーゴを犯罪者として狩る立場に追い込もうとした、ハンターウォリア、ザパン
その企みは失敗し、ガリィの反撃を受けて、ザパンはビルの谷間に落ちていった。

が、そのザパンは生きていた。
全ての記憶を失って・・・。

ザパンはホームレスに炊き出しを行うボランティアの女性サラの手伝いをしていた。

ある日、ふと目にしたテレビにジャシュガンに挑戦するガリィの顔が映る。
その瞬間、ガリィに対する恐怖の記憶が戻り、錯乱状態で暴れ始めるザパン。

そして、制止しようとしたサラを誤って殺害してしまう、という悲劇が起きる。

事故とはいえ、ザパンは自分の行ったことに呆然とし、何処かへ去っていく・・・。


一方、ガリィはモーターボール引退後、昼はハンターウォリア達へのトレーナー、夜はバーで演奏する生活をしていた。
穏やかな日常。

が、そこに復讐の念に凝り固まったザパンの影が迫る・・・。

ただ、ザパンの復讐は意外にあっけなく終わる
・・・というかガリィは、ほとんど関わっていない。
ザパンが殺したボランティア女性サラの父親であるハンターウォリア、「犬使い」マードックに仕留められるのだった。

割とあっけない。
・・・と思われたが、さすがに話は、ここで終わらなかった

ザパンは、ディスティ・ノヴァと名乗る教授に拾われて、脳だけの状態となって、生きていたのだ。
ノヴァ教授に死者の国から無理矢理、引き戻された、という方が正確ではあるが・・・。

ノヴァ教授は、イドと同じくザレム出身
マカクを改造し、ジャシュガンに脳改造をほどこしたと思われる人物で、専門は分子機械工学。
自宅で怪しげな人体実験を行っているマッド・サイエンティストである。

ノヴァ教授の究極の研究目的は「業(カルマ)の克服」
本人曰く
「果たして、人間は自分自身の"業(カルマ)"を克服する事ができるのか!?
 "業(カルマ)"を征服する方法を見つけださねば、人類に未来はない!」

ザパン(の脳)を生き返らせたのは、ザパンが自分の「業(カルマ)」とどう戦うか実験するため
そして、ザパンが望んだのは・・・「復讐」

ノヴァ教授は望みを叶えさせるため、「バーサーカー(狂戦士)ボディ」を与える。
この「バーサーカー(狂戦士)ボディ」は、以前、ガリィがマカクと戦う時に使用したものだが、訳あって売却されてしまい、ノヴァ教授の手に渡っていた。

「バーサーカー(狂戦士)ボディ」には強力なパワーがあるが、同時に「バーサーカー(狂戦士)モード」という危険な機能も組み込まれている。
このモードが発動すると、使用者の意思とは無関係に無差別破壊と増殖を行うように作られている。
(大昔の戦争の際、兵士の体にこのボディを使用し、兵士が戦死した場合、外部から「バーサーカー(狂戦士)モード」を発動させ、敵地の撹乱を狙ったものらしい。)

ガリィが使用していた時は、この機能は封印していたが、ノヴァ教授は、この封印を解除してしまう。
(何のための封印なのかも調べずに解除するあたりは、マッド・サイエンティストの面目躍如)

この危険なボディとザパンが一つになってしまったのだった。
その力は、ノヴァ教授の想像をはるかに超え、ファクトリー(空中都市ザレムの下部組織)のテロ鎮圧部隊の武力をも凌駕するものであった。

ガリィはノヴァ教授から渡された「バーサーカーボディ細胞破壊体」入りの銃を武器にザパンに立ち向かう。



ザパンは人生は「勝ち」「負け」の二者択一しかない、と思っているタイプの人物。
加えて「負け」の人には手を差し伸べる必要なし、とまで考えているフシがある

数年前、「勝ち組」「負け組」という言葉が流行ったが、いつの時点の何をもって「勝ち」「負け」とするのか、人によってバラバラなので、意味無いだろうと思っていた。
このエピソードは、「勝ち組」「負け組」が流行るより前に発表されたので先取りしていたのだろうか。

弱い立場の人達に優しく接するサラ、それができない(苦手な)ザパンはサラに「愛情」以外に「妬み」「劣等感」も感じていた。
サラを殺してしまった時、深い後悔の念と共に、心の奥底に「満足感」を感じたのでは?

その「満足感」を感じた事を「罪悪」に思い、それを消すために、ガリィをスケープゴートにした、とザパンは言う。
クズ鉄町の住人も暴れまわるザパンにガリィを生贄に捧げようとしていた。

自分の弱さと戦うよりも、目に見える自分以外のモノのせいにしてしまう方がラクなのだろう。

激しい戦いの後、ザパンが最後の最後に見たのは「サラとの夢」
不安に怯えるザパンにサラは、どんな事も素直に受け入れるようにと、やさしく言う夢を見る。

ザパンに半分、取り込まれていたガリィは、その夢を垣間見て、思わず叫ぶ。
「強さも、弱さも、善も、悪も!同じように受け入れろというのか!?」

そして、こう呟く。
「無理だよ・・・。
 ちっぽけな私の心では・・・。」

全く同感・・・。

ラスト、ボロボロになったガリィの目に入ったのは、スイートピーの芽。
花言葉は「優しい思い出」

銃夢のエピソードの中で、最も印象に残るラストシーンだった。




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