Nicotto Town



変な土曜日、都会少女の憂鬱


11月23日(土曜日)、東京

「じゃあ、帰ったらメールするね」

親友の美春がそう言って手を振りながら夜の人混みの中を池袋駅の方に
歩いて行こうとしている。

「気を付けて帰ってね」

福沢加奈も手を振って答えた。

美春の姿を見送った後、加奈は週末の黄昏を過ぎて賑わっている
ラウンドワンの前から、都電に乗って王子の自宅に帰る為に
サンシャイン60通りをサンシャインビルの方に向かって歩いていった。

東急ハンズの前から地下道に降りてメトロの東池袋駅や、都電の停留所の
方へ出る事も出来るのだけど、それ程、寒さを感じなかったので
外を歩いて行こうと思った。

サンシャイン・シティーの手前の交差点を渡ってサンシャインビルに沿った道を
西友の手前まで歩いて行ってそこから右に曲がった。

(それにしても今年高3で同じクラスになってから、すっかり美春と一緒に
 過ごす事が多くなったなあ)

すっかり暗くなった空を見上げながら加奈は思った。

前方にアウルタワービルとエアライズタワービル、背後にサンシャイン60と
高層ビルに取り囲まれているのでこの場所から見渡せる夜空は
すごく限られている。

途中にあるファミリーマートに寄った。

入り口付近に並べて売られているスポーツ新聞に、今日本中を騒がせ
怖れさせている、清音 美実(きよね よしみ)の名前と清音の顔写真が
大きく出ているのが目に入った。

過去に2度、女子中高生へのかなり悪質な暴行事件で少年院、刑務所に服役
今年の9月に出所したが、その2週間後に練馬区で一人暮らしの21歳女性宅
に侵入して暴行を加えた後、惨殺した。

すぐに清音の犯行と判明して全国指名手配されたが、その手配中にもかかわらず
清音は10月に同じ練馬区と大田区で同様の犯行を繰り返し世間を
凍り付かせた。

連日、ニュースやワイドショーで報じられ、警察も全力で行方を追っているが
未だに捕まっていない。

加奈はテレビなどで、爬虫類を思わせる、冷たく鋭い目をした、清音の顔を
見る度に思わずゾッとした。

(それにしても美春のお父さんは今頃、大変なんだろうな)

と加奈は思った。

美春の父親は警視庁で捜査1課の刑事をしている。

(大変だろうけど、何とか頑張って清音を捕まえて欲しい・・・)

加奈は心からそう思った。

コンビニを出てから、また都電の停留所の方へ向かって歩いた。

途中にある、小さな公園の前に差しかかり掛けた時、前の方から
歩いて来る若い女の人が驚いた様な表情をして、私の顔を
じっと見つめながら近付いて来るのに気が付いた。

何だろう?誰か知り合いだっただろうか?と思って私も相手の方を見て
歩きながら考えたけど、何だか会った事の無い人の様な気がする。

若い女の人は、私の顔をじっと見つめたまま、どんどん近付いて来る。

私はその人と視線を合わせたまま歩きながら内心ドキドキしていた。

「あの、ごめんなさい。ちょっとだけいいかしら?」

私のすぐ側まで来てその女の人は言った。

年齢は22,3歳位だろうか? とてもキレイな人だと思った。

「急に声をかけたりしてごめんなさいね。 ただ、私はあなたを見て
どうしても、そのまま素通りする事が出来なかったのよ。

・・・実は私はこう言う仕事をしている者なの」

女の人はそう言って、私に名刺を差し出した。

(占い師 空野 瑠奈)

名刺にはそう書かれていた。

いきなり占い師を名乗る女性に呼び止められて、私は正直、面倒な人に
引っ掛かったんじゃないかと言う気がした。

「あの・・・変に誤解しないでね。 別に私はあなたからお金を貰って
何かしようとか、あなたに何かして貰おうとか、そう言うのは
一切無いのよ」

占い師の瑠奈さんは、私の不安を見透かした様に言った。

確かに何か企んでる人には見えないけど、アヤシイ人って言うのは
最初、そんな事を言って接近して来るんじゃ無いかとも思った。

「ただ、私の目から見て、あなたには明らかにあなたの存在に
係わる危険が迫っているのを感じるのよ」

空野瑠奈さんが言った。

(私の存在に係わる危険?)

私は思わずその(私の存在に係わる危険)について考えてみた。

ふと、清音 美実の顔写真が目に浮かんでゾッとしたけど、すぐに
まさかと思った。

「私の言っている事を、信じろって言っても無理なのかも知れないけど
私にはあなたの悪い運命を変える手助けをする力があるのよ。

もちろん、あなたの運命は最終的にはあなた自身でしか切り開く事が
出来ないのだけど」

空野瑠奈さんが真剣な眼差しで私を見ながら言った。

「だから、私にその手助けの時間をくれないかしら、・・・大丈夫、一分もかからないわ」

空野瑠奈さんがそう言って、私の返答を待つ表情をした。

・・・

私は占い師の空野瑠奈さんについて行ってすぐそばにあった小さな公園に入った。

公園の中に入ると空野瑠奈さんは、振り返って私と向き合った。

彼女の背後には52階建てのアウルタワービルが夜空に向かって聳え建っている。

「両手を出して私の手を握って」

瑠奈さんが両手を差し出して言った。

何かこんな宗教だか何かの会があった様な気がしたけど、私はとりあえず
何も考えない事にして言われた通りにした。

「目を瞑って、それから私の手の感触に意識を集中して」

目を瞑った。

相手が女の人だと言っても向かい合ったまま目を瞑っていると言うのは何だか
ドキドキする。

20秒か30秒位たった時、周囲の街中の雑音が切断された様に瞬間的にずれて
肌に感じる空気がいきなり冷たくなった。

そのあと両手に瑠奈さんに手を握られている感触が無くなっているのに気がついた。

私は目を開けたが、目の前には誰もいなかった。

目の前には公園の上に夜空が広がっているだけだった。

目の前にアウルタワービルが見えていた事を思い出すまでにすこし時間がかかった。

何が起こったのか、よくわからないままに周囲を見回した。

右手に見えていたエアライズタワービルも見えなくなっている。

後ろを振り返るとサンシャイン60ビルが聳え建っているのが見えた。

(まったく、都会と言う所はいろんないろんな人がいて、いろんな事が起こる)

と、私は思って大きくため息を吐いた。

でも何故だか、私は何と無く清音の魔の手からは逃れられた様な気がした。

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2013/12/14 17:40
不思議な物語
はらはらしました
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2013/12/13 01:49
人が多いと
こういう不思議な人というか
魔性も存在するのでしょうね
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2013/12/05 00:05
映像にして観てみたいですねぇ
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2013/12/03 04:52
美麗な文章。しかし、物語としては未完成な印象を受けました。村上春樹がいうところの未完成はインパクトに残りやすいという効果を狙ったものでしょうか。

 転載先 『小説家になろう』サイトにおいて、42アクセスを記録しました。読者様40以上の支持をもって優・良・可でいうところの優と判断しております。ご協力に感謝いたします。
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2013/12/02 22:56
う~む、都会っぽいお話でしたっ!

不思議な気分に浸れて楽しかったです♪
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2013/12/02 00:19
転載します、感想文はまたのちほど
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2013/12/01 23:52
かいじんたまの文章なかなか緻密でびっくりです。 上手くまとめておられますね

都会の喧騒のなか気が付かない間に色々なことが起こっているのでしょうね
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2013/12/01 22:14
まず、読んで最初の解釈はー
ラストちかくの
【私は目を開けたが、目の前には誰もいなかった。

目の前には公園の上に夜空が広がっているだけだった。】
という部分から、主人公が地面に仰向けに倒れてるのかと思っちゃいましたw
別の事件に巻き込まれたという、皮肉な感じなのかなーと。
でも、サンシャイン60が聳え建っているのがみえてるから、あ、倒れてるわけじゃないんだ。と、読みを修正しました(#^^#)
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2013/12/01 14:34
このサイズでは少し勿体ないようなお話ですね。
事件の記事ももう少し書けるだろうし、簡単にしか書いていないから、これをやらなかったら…という仮想の部分もないし、読み手が想像するしかないのでもう少し読みたいという欲求が残るという意味では成功です^^
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2013/12/01 12:10
再編集されましたか^^

瑠奈さんは清音から加奈を救い出すために登場したんですね・・・^^

都会、、、僻地の暮らしから見ると対人面等で暮らしやすそうに感じるのですが、

それって隣の芝生は青いという意味なのかもしれませんね。
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2013/11/30 20:45
うーん、パラレルワールド的なお話しにゃん♡(ΦωΦ)
作家スイッチオン!にゃん♡



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