Nicotto Town



伏見稲荷 その6-京都スピリチュアルツアーー

透明な力がひゅるひゅるとらせんを円錐状に描きながら空へ舞い上がっていく峰の道が終わると、谷に下る細い階段の上にでた。
ここからは渦巻き石はなく、階段の右側に小さな社がぽつんぽつんと建っている。峰の道にはなかった赤い鳥居もぽつぽつと建っていた。
さっきまで前後に歩いていたにぎやかなグループが一人もいなくなって、実留と佳たち三人だけになっていた。

空気が変っていた。
谷を見下ろしながら少し火照った顔を鎮めるように立ちどまったまま休んだ。
鳥の啼く声が聴こえる。
遠くからでも近くからでもなく、聞こえる。
「鳥の声が・・・違う」
「音が・・・変わったね」
自分たちの声がどこからかこだましているように聴こえる。
耳を澄ます。
実留は、今までに感じたことのない大氣の弾力を感じていた。
「何か感じるわ。なんだろう?からだが包まれていく。」
階段をゆっくりと降りはじめる。
ときどき止まっては確かめる。
「とっても強くなっていく」
実留は階段を速足で降りる。
右手に注連縄の張ってある巨岩があった。
「これだわ。」

巨岩からまるで泉が湧きだすように目に見えない力がこんこんと湧いてくる。
実留は、岩肌に触れるか触れないかのところで両手を置き静かに確かめる。まるで岩がうねっているかのように水が湧き出ているかのように力強いエネルギーが溢れていた。
掌の中から、同じ力がらせん状に上がってきて、磁石が反発するかのようにクッションを作っていく。岩が出す力と同じ力が自分の中を満たしていくと、大氣と同化した皮膚には違和感がなくなっていった。
佳が確かめるように巨岩の脇に掘られた足がかりを駆け上がると岩にからだを添わせた。
「わたしはただ気持ちいいだけ。他は何も感じられないけど、まだ感じている?」
「力が私の中にいっぱいになったみたい。もう、何も感じないわ」

実留は、皮膚で感じた渦巻きの迫力と、全身が包まれていく大氣の弾力を思い起こすように回り始めた。
恍惚を感じるスーフイーダンスのように同じ場所でくるくると回転する。
薄紫のオーガンジースカーフが首からほどけて蝶の羽のようにからだのまわりでふわりと舞った。
からだが地球に引き込まれるように感じた。土の中が透明になって、地表にいるかのような錯覚があった。からだの回転をゆっくりと緩める。
実留は今歩いてきただろう谷の上を見上げた。幻覚のなかで大きな円錐の屋根が見えた。足元には円錐に掘り下げていく大きな穴があった。
円錐の屋根から足元の円錐の中心に水が流れていた。自分が大きくもあり、小さくもあった。

巨岩の横には社がたっていた。
「この社は小鍛冶という謡になっている伝説のある社だわ」
「それは何?」
「刀鍛冶が夢で狐に助けられて刀を打つ話よ。」
経丸は階段に腰かけて二人を見守っている。
「経丸、流れる水が見えたわ。あれが深草の水だね」
経丸は黙ったまま先に立つ。
真っ赤な鳥居が重なり合って何基も並ぶ中を飛ぶように進む。
鳥居が切れると、左に回り込む細い小道に入るように腕を伸ばした。実留が先頭にたって人ひとりしか歩けない小道を一列に進む。
空気中の水気が濃くなっていく。

丸い水場の内壁いっぱいに、緑の苔がびっしりと水滴を蓄えていた。
片腕をあげればいっぱいになりそうな円空間だ・
苔の葉の先に水玉が今にも零れ落ちそうなほどの重みで垂れ下がっている。
光が零れ落ちず、水滴の中できらきらと光っていた。
声もあげられないほどの美しい透明の緑の中に実留と佳は進んだ。
正面から細い一条の水が流れ落ちてしぶきが二人の肩を濡らす

ここは清い山水で打たれ、修行をする場だ。
経丸が大切にしまいこんでいた石を取り出し、両掌に乗せると水を受けた。
実留たちも一条の水を掌で受けて飲む。冷たく甘い水がからだ全体に浸みわたっていった。

ー続くー














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