Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(100)

 部屋ではセシリアがリンドブルムを「散歩」させているところだった。
 「おかえりー。ごゆっくり、って言ったのに」
 「向こうは荷物整理の真っ最中だったから。邪魔するのも悪いだろう」
 「荷物整理?」
 「どうやら、畳み皺の付いた服で目の前に出られると、王妃様が機嫌を損ねるらしいぞ」
 「…それは大変。…ハウス!」
 荷物整理の邪魔になりそうなリンドブルムは、ひとまずしまっておいて、荷物を収納するために、部屋に造りつけのクローゼットを開ける。と、驚いた事に、そこにはもう三分の二ほどのスペースを服が埋めていた。よく見ると、服の一枚一枚には、ご丁寧にいつ着る服かを指定したカードがつけられている。
 「…おにーちゃん。ここに、恐ろしい事が書いてあるんだけど」
 セシリアが指さすカードには、「昼食」という文字とともに、いくつかの日付が書かれている。一番上の日付は…今日だ。
 昼食の時刻は、何時だったろうか?
 「セシリア。とにかく、これに着替えて。えーと、もしかしたら俺も着替える必要があるのか?」
 セシリアの服の後ろに掛かっていたのが、どうやらそれだ。赤茶色のベルベットの上下。…とりあえず、今着ている服に比べれば、ずっとおとなしい服だ。…こんな服、試着した覚えはないが。

 昼食時間、というのは、どうやら執務の合間の息抜きの時間のようだった。何しろ、国王は食卓に腰を下す瞬間まで書類に目を通しているし、夏に来た時はお茶会ばかりしていたように思われた王妃までもが、食事室の出入り口で何やら指示を飛ばしている。
 「忙しなくてすまないな。招いておきながら、申し訳ない」
 「いえ…逆にお忙しいのにお邪魔したようで申し訳なく思うんですが…」
 クリスが申し訳なさそうに応じる。
 「よろしいのよ。息抜きの時くらい、安らげるものを目にしたいもの」
 食事が運ばれてきた。スープのほかは、プレートに盛られた主菜と付け合わせの温野菜だ。テーブルの中央に大量に置かれている、薄くスライスしたパンに載せるか挟むかするらしい。
 当たり障りのないやり取りをしながらの食事が終盤に差し掛かったころ、王妃が本題を持ち出してきた。
 「ところで、あなた方にも祭りのイベントを提供する側にまわっていただきたいのだけど…よろしいかしら」
 よろしいも何も、そのつもりで準備を進めてきたんでしょうに。
 「かまいませんが…セシリアは、体調を崩したりしたら参加できませんが」
 「その辺の事は考慮してありますわ。要員はほかにも用意しておりますし」
 話を聞くと、要するにスタンプラリーのチェックポイントをやれ、という事らしい。冬至祭の前半の一週間、スタンプを持って会場――王宮内の特定の範囲――に散り、あらかじめ指定されたキーワードを言った者のカードにスタンプを押す、というもので、冬至の日に集めたスタンプに応じて賞品を出す予定、との事。
 「期間中ずっと会場にいる必要も、会場の外でまでお仕事をする必要もありませんわ。いかがかしら」
 セシリアはすごく乗り気だが。…学生のうち、毛並みのいい連中に見つかるかもしれない、と思うと気が重い。
 「妃殿下。一つ提案が。知り合いに見られるのを非常に嫌がっている者が約一名おりまして…「お仕事中」は仮面をつけておく、というのはどうでしょう?」
 俺の溜め息を聞きつけたらしいクリスが言う。約一名、とぼかす意味はあまりなかったようで。
 「まあ、アレクは知り合いに会うのが嫌なの?」
 「知り合いが厭、というより…嫌な絡み方をする者が何人かいて、その者たちと顔を合わせるのは避けたい、と思いまして」
 「あらまあ…もったいない」
 もったいない、とは何を指しているんだ?今の話のどこに「もったいない」要素が…
 「私もかねがねそう思っているんですけど。素顔を人目に晒すのが厭なようで、何度言ってもむさくるしい頭にしたままなんです」
 「でも…そんなもの着けると…逆に目立つのではないかしら?」
 「どうせ目立つ格好になるのでしょう?要はスタンプを持っている者の素性が判らなければよいかと思うので。用意してあるという他の要員の方に異存がなければ、考慮願えませんでしょうか」
 「…目印、としてはいいかもしれないわね。考えておきますわ」
 言いながら、指先をナプキンで拭う。
 「その件だけクリアすれば、了解したと取ってよろしいかしら?」
 こちらを見て確認してくる。女性陣二人の方を窺うと、セシリアはいかにもやりたそうに目をキラキラさせてるし、クリスの方は、肩を竦めてみせる。やりたくないなあ、と心底思ってるのは、俺だけ、か。
 「そうですね。及ばずながら、ご協力させていただきたいと存じます」
 しぶしぶそう言うと、マルグレーテ妃がにっこり笑いながら席を立った。
 「では、検討すべき項目ができましたので、お先に失礼させていただきますわね。…ごゆっくりどうぞ」

#日記広場:自作小説

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2009/10/19 22:08
遅ればせながら、100話 お疲れ様デス (m*´∀`)mペコリン♪
じっくり読ませていただきます♪
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2009/08/23 20:26
100話Up おめでとうございます☆
これからも頑張ってくださいね^^
楽しみにしています
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2009/08/23 01:04
記念すべき100話ですね♪。
今後も楽しみにしてます^^。
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2009/08/22 11:03
連載100話 オメデトウゴザイマス!!
イツモ 楽シク読マセテイタダイテオリマス
コレカラモ ガンバッテクダサイ☆



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