Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(101)

 「…どんな仮面が用意されることになるやら」
 国王が自分の妻が出て行くのを見送ってそうつぶやく。
 「それでいいって言ったのはアレクなんだから、アレクに異存がなければいいんじゃないかと思いますわ。…ねえ、セシリア?」
 「あたし?…わたしはすごく楽しみですけど。今までこういう行事に参加した事がないので」
 「さっきも言ったけど、熱が出たら、部屋で待機だからな」
 このところずいぶん丈夫になったセシリアだが、無理しないよう、念のため釘をさしておく。
 「…医師は、こちらでお世話になってかまわないんですよね?」
 「むろん。常駐しておる医師もおるし」
 「あの…なるべく、お医者様のお世話にならないよう、気をつけますから…」
 「…セシリア?」
 「お役目、頑張りますっ!」
 病弱なせいで、何かを任される、という事があまりなかったので、妙に張り切っている。興奮しすきて、むちゃしてる事に気付かないような事がなければいいが。…と、そういえば。
 「…ああ、しまった。警備の事とかも聞いておけばよかった」
 「警備?」
 「セシリアが…要するに、トラブルになったときに、誰を頼ればいいか、と」
 「その辺は十分に考慮してあるはずだが。何なら、担当の者を呼ぼうか?」
 国王が手を上げかけるのを制して、クリスが言う。
 「セシリアには、ボディガードが付いてるでしょ。呼べばすぐに来るのが」
 「あ、リンちゃん?」
 「セシリアの場合、何かあったらあれを呼ぶのが一番早い、でしょ?それに、あれが出てきたら、確実に騒ぎになるから、セシリアの居場所もすぐに判る。外から幻獣を持ち込む事はできないけど、何かに封じてある幻獣を解放する事はできたはず、ですわね?」
 クリスが父親の方を向いて確認する。
 「そうだな。警備兵の中には、そういうモノを使う者もおるからな」
 随身のナヴァル伯の例を持ち出すまでもなく、武官の中にもかなりの割合で魔法を使う者がいる。
 それに、確かリンドブルムを呼ぶのに、声は必要ない、と言っていたと思う。実際にセシリアがそうやって呼ぶところは、見た事がないが。確認の必要があるな。
 「さて、そろそろ切り上げないと官僚どもがなだれ込んでくるやもしれんしな。そなたたちはもう少しゆっくりしていくがよい」
 国王が名残惜しげに席を立つ。
 「ああ、そうだ。あす以降の事で何やら伝達事項があるそうなので、食事の後は、なるべく部屋にいてくれると助かるな」
 まあ、あまり出歩く予定もありませんでしたが。
 「…ところで、お二人は、ダンスはできますか?」
 食事を終えて戻ると、部屋の前で、下級官吏と女官の制服を着た二人組が待ち構えていた。二人は、――二つの部屋を見比べて、散らかり具合がまだおとなしい、という理由で――俺達の部屋の方で、冬至祭の行事の説明を始めた。そして、一通りの説明を終えた後、俺とクリスの方を等分に見てそう言った。
 「えーと…ダンス、と言うと、男女で組んで踊る、あれの事ですか?」
 「もちろんですとも。この状況でほかの踊りの事をお伺いすると思いますか?」
 とぼけようとして発した問いは、涼しい顔の女官にあっけなく叩き返された。
 「…知識として、足の運び方くらいは」
 実践する機会は、何度かあったと思うが、ことごとく避けてきた。こんなところでそのつけを払わされることになるとは。
 「結構。姫の方は?」
 「去年、妃殿下に一通り教わりました。でも、踊れるかどうかは、保証の限りでは…」
 「わかりました。やはりお二人とも、一度レッスンを受けていただかないと」
 「えーと…それは、どこかでダンスを披露しなくてはならない、という事でしょうか?」
 「そういう事です。冬至祭の期間中、会場の中に在る広間のどこかしらで舞踏音楽が流れます。曲目は、古典宮廷舞曲が三種類七曲、近代舞曲が四種類十五曲です。相手を乞われることもあるかと思いますが、なるべくお断りしないよう願います」
 「…断ってはいけない、という訳ではありませんよね?」
 「そうですね。ですが、あまりお断りするのも、興が削がれますので、ほどほどに」
 「はあ…」
 拒否権は、ないに等しい、という事か?
 「それから、冬至の翌日の仮装舞踏会ですが」
 う。それもあったか。なんだか軽くめまいがしてきた。
 「最低でも一曲は舞踏に参加するよう、全参加者に通達が出ております」
 「仮装舞踏会の曲目も、同じ曲でしょうか?」
 「そう聞いておりますが。」
 「練習期間は十分ある…な」
 「期間と時間は等しくはありませんが」
 「で、そのレッスンは、いつ、どこで?」
 クリスは俺の抗議を無視して担当者にそう訊ねた。
 「時間の方は、はっきりとはしませんが、まあ、今日中に。場所は、舞踏室が使えると思います。はっきりしたらお迎えに上がりますので、こちらで待機していてください」
 …ところで、舞踏室って、どこにあるんだ?

#日記広場:自作小説




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