4月期小題「はじまり/復活」
- カテゴリ:自作小説
- 2014/04/30 08:07:40
ワールドエースは、最終コーナーを3番手で回ると目の前に広がる緑の絨毯を力強く駆け上がった。
一瞬、エースの右目の端にそれまで先頭争いをしていた2頭の姿が映った。だが、エースがそれまでの鬱憤を晴らすかのように大きく四肢を伸ばすとあっという間に視界から消えていった。
それでも初めてエースの手綱を取ったジョッキーは、一瞬も気を抜かせないようにとエースの左腰にムチを叩き、ゴールまでの残り200mを必死になって追い続けた。ジョッキーの耳には、後ろから迫ってくる馬蹄音が響いていたのだ。
馬蹄音はエースの耳にも届いていた。
「よっしゃ!思いっきり行ったるでぇ!」
エースは、手綱から伝わってくるジョッキーの必死さにこれまで経験したことのない充実感を覚えていた。
過去、エースが全力で走りたいと思った時にこれほどタイミング良くGoサインを出してくれたジョッキーがいなかったからだ。
競走馬とは、人間に優るとも劣らない賢い生き物である。それだけに、いくら走ることだけ訓練されていても気性を知らないジョッキーの手綱には決して全力を出そうとしない。生命の危機でも訪れない限り、少しでも余力を残そうとするのは生き物全てに刻み込まれている摂理だからだ。
エースは、初めてジョッキーの手綱と一体になって全力で走る喜びを感じていた。
「おうりゃ、抜けるもんなら抜いてみい!」
エースがケガを忘れて緑の絨毯に四肢を叩きつけると、それまで間近に迫っていた馬蹄音が小さくなった。
エースが先頭でゴールを駆け抜けた時、掲示板のタイム表示の上にレコードの赤い文字が点灯していた。
「オルフェあにさん、見てくれたか。でも、ワイの復活は始まったばっかりやで!」
優勝の記念撮影が行われる中、エースは静かに空を見上げた。
-おしまい-
昨日6月24日にやあさんが、長年わずらっていた癌のため、永眠なさいました。お嬢さんのご報告により、知った次第です。つきましては、 やあさんの追悼集起案をサークル掲示板にあげておきました。ご意見をお聞かせください。
独特のムードがありますね
前回までのピンチからの復活はうれしいところです^^
臨場感があって読みやすくて一気に読ませていただきました
ありがとうございます。
関西弁と共に関西人には独特の心意気がありそうです
大阪弁と関西弁は、自分の心の中では区別してますけれど
また読ませてください( ´ ▽ ` )ノ
●BENクー様 151アクセス
Sianさんに次ぐ高得点。擬人化というのがどう評価されるかと私は考えましたが、顧客の皆さんには、真面目に描かれたこの作品を好ましく読まれたようです。
中場さんの作品を初めて読んで、そのあまりの暴力性に驚くとそのあまりの面白さに感化され、今では何度も読み返すほどです。
何でも元野球選手の清原さんがその地の出身らしいですが、「さもあらんや」と今では大いに納得してます!笑
それに至るには、走る意思が不可欠だったのです。
なにげに前の作品の続編のところにマニアックな楽しみ方ができました。
コーナーを駆けてゆく姿が雄雄しく読みれました。
節理というリミッターを破って駆け抜ける快感ですね>▽<
この快感を知ったエースの今後の活躍が楽しみです^^
擬人化路線
爽やかにゴールを決めたのでありました^^
今後の活躍が期待出来そうです^^
>全力で走る喜び
これ、めちゃめちゃ気持ちいいでしょうね^^
競馬はとんと無知な私にもわかりやすい地文で楽しめました。
大阪に実家がある私には、お馬さんのセリフが「めっさ濃ゆく」感じました。
「かつおぶしと青海苔とソースとマヨネーズをずももんとぬたくったお好み焼きみたいやわ~」と。
でもその味の濃ゆすぎなところがかえって面白くて、オルフェあにさんやエースくんがものすごく活き活きして見えました。
TVに出てらっしゃるコテコテ関西弁の芸人さんとおんなじ効果でしょうか。
味つけは、濃厚すぎるぐらいがいいんだと思います。