4月お題/終わり『始まりは終わりから』
- カテゴリ:自作小説
- 2014/05/30 11:31:40
その仔が目を覚ましたのは、箱をがさごそと開ける音のせいでした。
暗い箱の中から一転して明るいお外にひょいとつまみあげられて、パチリと開いた目に、皺深く浅黒い老人の顔が映ります。
「ここはどこだい? お爺さん?」
「おう、生きちょるのか」
びっくりしたお爺さんが、きょとりと周囲を見回す仔を床に下ろすと、白いお腹がぐぅと鳴りました。
「腹が減っておるんか。ちぃと待っちょれ」
お爺さんは台所にむかうと、まな板に白いかたまりをポンと乗せて捏ね始めます。
「何だい? それは」
「うどんさぁ」
捏ねて、伸ばして、細く切ったらお湯で茹でられ、熱々のおつゆをかけられてとってもいい匂い。
刻んだお葱とカマボコ二枚。
「熱いきぃ気をつけて食えよ」
熱、ふぅふぅ、仔はうどんにかぶりつきました。
熱、美味しい。ふんわりいい匂い。
そこにお客さんがやってきました。
「爺さん手紙だよ」
郵便屋さんは手紙を渡しながらテーブルを見て『ぎゃ』と驚きます。
「こりゃぁ何だい?」
「さぁなぁ。さっき届いた荷物に入っておったんじゃが、何じゃろなぁ」
仔はちゅるりとうどんを飲みこんで、顔を上げました。
「あたしはペンギンの仔だよ」
「ほう、これは珍しい仔ぉが届いたもんじゃ」
お爺さんが笑うと
「ペンギンっちゅうたら、うどんを食うんか」
郵便屋さんも笑います。
そして郵便屋さんは仔の隣で同じうどんを注文して食べました。帰りにお金を払うのを見てペンギンの仔が「あ」と小さく声を上げます。
「どうした?」
お爺さんが聞くと「あたし、お金を持っていないよ」と、しょんぼり。
「かまわんよ。子供が金の心配なぞせんでえぃ」
その日から、ペンギンの仔はお山のてっぺんのうどん屋さんの仔になりました。
近くの村では郵便屋さんから話を聞いて、皆がペンギンの仔に会いにやってきます。
ご隠居婆さんはお菓子を持って、畑のおじさんはトマトを持って。
ちゅるりとうどんを食べる仔を「可愛いねぇ」と撫でてゆきます。
お爺さんのお店には村人だけじゃなく、通りすがりの人もやってきます。
皆、温かなうどんで疲れた体に一息つけてゆくのです。
「ここは県境の峠のてっぺんやき、あっちからこっちへ、こっちからあっちへ行く人らぁが通らい」
お爺さんはお店の窓から見える遠くの景色に目をやって、にっこりと笑いました。
広い空の下、薄い緑、濃い緑、枯れた緑、それらの合間を縫って散らばる季節の花の色。
ペンギンの仔も釣られて外を眺めたら、何だかお腹がいっぱいになるようなしあわせな気持ちです。
「お前もわかるか? えぃ景色とえぃ空気。これが最高のご馳走じゃ。わしのうどんは普通のうどんじゃが、この景色の中じゃけん美味くなるんじゃ」
特別高価な具も無い質素なうどん。ちゅるりと食べれば、広い空と山も一緒に食べている気分です。
「わしぁゃな、この景色を孫やひ孫や、わしが死んだ後にも残してやりとうてな」
「お爺さんは孫やひ孫がいるのかい?」
「おう。息子が都会で嫁を貰てな、ふたりの孫がおる」
「ここで一緒に住まないのかい?」
「さぁな、いつかは会いに来るやろうがなぁ」
そう言ってお爺さんが黙ってしまったので、ペンギンの仔は困ってしまって、
「そうだ、あたしにうどんを教えておくれよ」急に話を変えました。
お爺さんはまた笑って、「よしよし」と粉を混ぜる事から教える事にしました。
ぺちぺちと粉を叩く小さな手は頼りないけれど一生懸命です。
「お前はうどんの才能があるやらしれん。大事なのは一生懸命になる事じゃけんな」
うどんをぺちぺち叩くとお爺さんが笑う。
ペンギンの仔も嬉しくなって笑う。
二人の笑い声に釣られてお客も笑う。
けれどそんな笑い声を消してしまう手紙が届いたのは翌日の事でした。
一枚の便箋を読みながらお爺さんはペンギンの仔に言いました。
「ちょいと留守を頼まれてくれんか。食いもんはここにあるんを何食うてもえぃ」
「どこに行くのだい?」
「都会の息子が用事があるやらで、切符まで寄こしてきちょる。
なぁに、すぐ戻るき、うどんの練習でもして待っちょり」
その夜からペンギンの仔はひとりになってしまいました。
お爺さんの言った通りに毎日自分の食べるうどんを叩きます。
心配して村の人も入れ代わり立ち代わり様子を見に来ます。
けれど、お爺さんは帰ってきません。
「しまったよ、こんな事ならお店の開け方も教えてもらっておけばよかったよ」
峠には通りすがりの人が訪れては去ってゆきます。お店が閉まっているのを見て残念そうに。
ペンギンの仔はそれを見ながら「ごめんなさい、ごめんなさい」としくしく泣いてしまいました。
皆ここまでお腹を空かしてやってくるのに。楽しみにしていたうどんを食べさせてあげられなくて、ごめんなさい。
そしてひと月が過ぎた頃、お店のドアがガラガラと開きました。
「お爺さんかい!?」
奥の部屋から飛び出そうとして、足が止まってしまったのは鍵を開けた人が見知らぬ人だったからです。
『お義父さんたら独りぼっちでいつまでもこんな山の奥で」
『転んで怪我をされたのは申し訳ないが、怪我の功名だね。もう店は出来ないだろうし、一緒に住んでもらうきっかけになったよ』
『お義母さんが死んでずっと独りぼっちにさせた分、これからは親孝行させてもらいましょう』
どうやら都会に住んでいるお爺さんの息子夫婦のようでした。
二人はこのお店を、明日には片付けてしまう話しをしています。
ペンギンの仔には二人の会話が理解できませんでした。
お爺さんは独りぼっちだったのかい?
村からは毎日誰かが来たし、郵便屋さんも村の皆もお爺さんが大好きなのに?
独りぼっちは悪い事なのかい?
山のてっぺんで独りで住んでいるのはいけない事なのかい?
大好きなお山を遠く離れなきゃいけない、そんな悪い事なのかい?
自分が何を考えているのかまで、わからなくなってしまいました。
けれどひとつだけ分った事があります。
お爺さんはもうここへは帰ってこないのです。
明日になればお爺さんの思い出の詰まった何もかもが片付けられてしまいます。
空っぽになってしまったお店を想像して、ペンギンの仔のお腹が『きゅう』と鳴きました。
お腹が減ってとても切なくなる時の音です。まだお腹の減る時間じゃないのに。
夜になって、ペンギンの仔はお爺さんが買い物に行く時使っていたリュックを引っ張り出しました。台所の棚から、ちょっぴりの小麦粉、ちょっぴりのお塩、お爺さん特製の出汁の瓶。リュックにみんなちょっぴりずつ詰めて、お店の前に引いている山水をペットボトルに入れます。
今ならまだお爺さんの思い出は片付けられていません。
だけど明日になって、思い出が無くなってしまってからでは遅いのです。
きっと、『きゅう』と鳴くお腹はもっともっと大きな声で泣き出して、動けなくなってしまうような気がするのです。
今ならまだ、たくさんの思い出とリュックに詰めたうどんの材料で……
「元気に歩いていけるよ。
お爺さん、うどんを教えてくれてありがとう。
ちょっぴりずつ材料をもらってゆくけど、許しておくれ」
ペンギンの仔は、ヨチヨチと小さな足で、県境を越えて独り暗い夜道をあるきだしました。
◇◆◇◆
続く……のだろうか……
いつも読んでくれてありがとう♡
哀しい別れの後には、幸せな出会いが待っていてほしいものですね^^
こういうのを繰り返して楽しい未来に繋がるんだと思います。
これはまた、少し切なくて涙が出そうです、この後どうなるのか知っているので、まだ出そうでとまりましたが。
マグロ…山菜族で一括りですかww
ペンギンの仔にはこれからいーっぱいおともだちを作ってやりたいと思います^^
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
次は蕎麦に目覚めるかもしれません(`・ω・´)ノ
それかいっそ、小麦から作る事に目覚めても良いかも!
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
お手手…だってフリッパーとか羽って書くと
可愛く読めないんだもんww
これからの季節おそうめんも良いですねぇ
でも手延べそうめん、難しそうだなぁ…ww
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
私もこれを入力している時、文字の大きさがまちまちになってるなぁと思って
何度も修正していたんだけど
UPしてみると落ち着いて見えるし…
何だったのでしょう(^_^;)
ペンギンの手は意外にも器用なのかもしれません^^
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
いつかペンギンの仔が
お腹を空かせて鳴かない世の中になるといいな…と…(^_^;)
次はラーメンに目覚めるかもしれませんよ~(・∀・)
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
ほぉーらおうどんだよ~♡
(´▽)ノ ~~~~~~~~っ←針
かかるかな…刺身かかるかな…ドキドキ…
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
次は蕎麦に目覚めるかもよ…?(・∀・)
そうそう、ペンギンうどんはペンギンさんが小さなお手手で
ぺっちんぺっちんと生地を叩いて作るうどんの事でした~^^
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
家族がいつまでも離れずに暮らすっていうのは難しい時代ですからねぇ^^;
でも、案外お爺さんも子供の所でうどん作って
ご近所でちょっと人気者になるかもしれない…ww
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
間違っても妻ちゃんに
「君はペンギンのように愛らしい」とか言っちゃダメだよ!
ペンギンどんなに可愛くてもそれ褒め言葉にならないから!
あのおうどん、手で捏ねてるのか~
てっきり機械捏ねかと思ってた><
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
山クジラや山クラゲや丘ヒジキや丘マグロもいるから、
仲間には不自由しないですね♪
次回、本場・讃岐編?^^
ちゅるりと食べれば、広い空と山も一緒に食べている気分です。
という部分で、私の腹も鳴りました!!最高のうどんだろうなあと思います。
あと、4月のお題もすくい上げるちょみさんに、スゲー!って思いました!!
可愛すぎます
子供ぺんぎんの冒険は続きますね^^
文字化けで、文字が大きくなったり小さくなったりしてみえます
ワードから、フォックスやクロームを介してニコのブログに移すとこうなるのですが
直接インターネットを介してやったら、ならなくなりました
こちらのエクスプロラ異常だったら申し訳ありません
今度はペンギンの仔がお店屋さんひらくのかなぁ~
ぺんぎんさん、やあまぐろにもおうどん作ってぇ^^
)・))>< (←あーんして待つやあまぐろ^^)
続く……のだろうか……
もしかしてちょみさんのニコみせの「ぺんぎんうどん」って、
ぺんぎんが材料のぺんぎん入りうどんじゃなくて、
ぺんぎんが作るうどんって意味でした!?
お腹が『きゅう』と鳴るというのが、とてもかわゆらしく、とてもせつないです。
お爺ちゃんは決して孤独じゃないと思うけれども、
都会の家族にしてみれば、今まで放っておいたっていう罪悪感があるんだろうなぁ。
おうどん食べたくなりました。
ぺんぎんうどんやさーん、おうどん一丁~(・ω・♪
ストレートな上中下の体型はぺんぎんと言えなくもない
ぺんぎんとうどんは縁があるのかもしれない。。。
の何気なく続き。
4月のお題を今頃書いているということは、5月のお題は6月の後半になるのだろう…(・∀・)