『戦う司書と絶望の魔王』
- カテゴリ:小説/詩
- 2009/08/28 01:14:40
『戦う司書と絶望の魔王』(山形石雄/集英社スーパーダッシュ文庫刊)
なかなか入手できなかったシリーズ最新刊をやっと購入・読了。
近所のライトノベルに強い本屋さんが閉店してから、そっち系の本は売れ筋からちょっと外れているだけで、入手しずらくて困る。
もっとも、このシリーズはアニメ化されて秋からオンエアされるらしいので、残った店にも再入荷があると踏んではいたんだけど。
人が死ぬと『本』になる世界。人々の人生を伝える『本』はバントーラ図書館に納められ、様々な能力を駆使する武装司書たちによって守られる――
シリーズの魅力は、容赦なく進む展開と、『本』が伝える想いが世界を動かしていく様、だろう。
とはいえ、前巻のラストではさすがに茫然とした。
どーすんだ、これ?
世界は動きを止め、終末の魔王と対峙した館長代行ハミュッツ=メセタは斃れた。
普通なら完全にバッドエンドだよ?
で、最新刊。
世に終末をもたらそうとする絶望の魔王、ルルタ=クーザンクーナの過去が語られる。
……こりゃ、こんな世界滅びてしまえ! と思うよなぁ。
ルルタは絶望を否定してくれる全き幸福を求めつつ、待つことに倦み、ついに終末を求める。
切ない、ひたすらに悲しい。
でも、この過去『楽園時代』の有り様があまりにも極端なディストピアで、いわば「戦時」で特殊な状況であるにせよ、そんなに続かないのじゃないかな~と思う。
この作家さん、文章はそっけないというか、淡々として描写が薄い。
なので、こういう極端な社会を書くとリアリティがやや後退してしまう。
ちともったいない。
作中の「現在」時間は前巻の終わりから大して経っていない。
が、最後のひとりとして、あの、「彼」が登場したのには驚いた。
「彼」が、ルルタを止める、絶望から救うことができると思いたい。
でもって、現状をざらっとまとめると、
ハミュッツ=メセタがアップをはじめました。
になるんだろうか?
ハミュッツは、強敵が自分を斃しに来るのを待っていた。
今まで彼女を白馬の王子を夢見る姫君の、戦闘狂方向に歪んだバリエーションだと思っていたが、違う、そんな可愛いものじゃない。
この巻のラストを読むと、ハミュッツが殺しに来る者を待っていたのは、自身の有り様を決定づけたルルタへの憎悪・敵意・殺意の形だとしか思えない。
チャコリーと違って、ハミュッツは『魂の自由』までは奪われていないように見えるけど、どうなんだろう?
ルルタを殺すこと、ただそのために『作られた』彼女が制作者の意図どおりに行動すること、してしまうことは、傷ましく感じられて、出来れば回避して欲しいところなんだけど……
やっばり「彼」に期待するしかないのかね?
次回、最終巻、大切な存在を守ろうと苦闘した人々の住まう世界に、やさしい未来の訪れんことを。
……やっぱり、マイナーなんですかね。アニメ化されるのにな〜w
ハミュッツは、シリーズ通しての中心的人物ではありますが、主人公(読者が感情移入しやすい人物)は各巻で違います。
人が道半ばで斃れても、『本』から読み継がれた『想い』が物語を動かす様が心打ちます。
『本』と読む者の話なこと、作中に出てくる『追憶の戦機』の名前をエンデの『はてしない物語』から採っていることで、メタ的な方向に着地するかもと思っていたのですが、ストレートに進みそうです。
全10巻と手頃なところで終わりそうで、お薦めです。
ハミュッツ=メセタが、シリーズ主人公なのかな?スペインのメセタを連想しました。
”メセタ=大地”と名付けられた高原は、見渡す限り荒涼とした大地が続いているそう。
地平線は遥か遠く。