ペンギンの仔 『うさぎうどん』
- カテゴリ:自作小説
- 2014/06/28 22:57:17
まんまるよりほんの少し痩せた月の明るい夜でした。
誰も居ない河原で、遠い川下に見えるお里の灯を見つめながら、ペンギンの仔は丼に出汁を入れて茹でたうどんを流しながら呟きます。
「あそこまで行けば、今までよりもっとたくさんの人が居るんだね」
ちゅるりとひとくち、うどんをすすり
「うん、今夜も美味しくできたよ。それに……」
今夜のうどんはちょっと特別。
麺だけの、何もない素うどんに、まぁるい黄色い灯がひとつ。
「おじいさんのお店には月見うどんっていうのがあったけど、あたしは卵を買うお金を持ってないから、本物のお月様で卵の代わりだよ」
お月様がぼんやり白いうどんの上で揺れると、とろとろに甘い卵の味を思い出して、ほんのり気持ちが温まります。
「それは何て言う食べものなの? とても美味しそうな匂い」
不意に後ろから声が聞こえました。
振り返ると草むらから、黒い艶々の毛並みに長い耳をぴょこんと跳ねる小さな仔が、ガラスのような黒い瞳で見つめていました。
「これはうどんだよ」
「美味しそう。私にも食べさせてちょうだい?」
いいよ、とペンギンの仔はにっこり笑ってマグカップに半分分けて、小さな仔に丼を手渡しました。
小さな仔は自分の名前を『うーちゃん』だと言いました。
可愛い優しい家族と暮らしていたのだけど、ちょっと前の満月の夜に窓から差し込む光に誘われて、外へ出たきり帰れなくなってしまったのです。
「カナちゃんはお月様に私のお友達が居るのだっていつもお話ししてくれたの。
だから私、あのお月様を追いかければお友達に会えるって思ったの」
けれど、走れど走れどお月様には追いつけません。
気が付けばお家と全然違う景色の中に居て、夜は怖いし、食べる物は雑草ばかり。
「こんなに美味しいもの、ずっと食べていませんでした。ありがとう」
ふたりはぺろりとたいらげたうどんを見下ろし、「あ」と同時に声を上げました。
全部食べてしまった器に少しだけ残されたお汁の上、ゆらり黄色いお月様。
「卵がまだ残ってる」
「私のお友達のお里がここにあるわ」
今度は「え?」とお互いの顔を見つめ合い、くすくす、と笑って最後のお汁まで全部飲み干しました。
不思議だね。
はんぶんこに分けたうどんなのに、卵は丸いままだよ。
割れないで崩れないで、まるっと一個のまま増えたみたいだよ。
ちょっと得した気分だね、不思議でお得で嬉しいね。
二人はその日から、一緒に旅を始めました。まず向かうのは川下の里。
人が暮らす里に行けば、ちょっと畑を手伝ったりして、うどんの材料を分けてもらう事ができます。
「この小麦粉はね、山に住むお婆さんから、草刈りのお礼にもらったんだよ」
えへん、とペンギンの仔が自慢すると、うーちゃんは
「凄いねぇ、ペンギンちゃんは何でも出来るんだねぇ」
と、目を丸くして褒めてくれます。
月がどんどん丸くなり、本当のまんまるになった夜も、ふたりは並んでうどんを食べました。
ペンギンの仔は、里に出たらうーちゃんの為に丼をどこかで分けてもらおうね、と言い、うーちゃんは、そしたら私も何か出来る事を探して、もうひとつマグカップを譲ってもらいましょう、とお返事をします。
丸くなったお月様は、今度は少しずつ痩せていきます。
けれどふたりは変わってゆくお月様を見ている間も、幸せなのです。
ふたりで食べるうどん。いつでもふたり。
「いただきます」と言えば「いただきます」と返ってきます。
「美味しかったね」と言えば「美味しかったね」とこだまします。
人里にやっと辿り着いた時も、月の明るい夜でした。
いつも通りにペンギンの仔がうどんを作り、うーちゃんがマグカップと丼にお出汁を注ぎます。
お腹がいっぱいになったら瞼が重くなってきました。
明日になったら、お手伝いを探そうね。そして新しい丼と、マグカップをひとつ……
むにゃむにゃと眠るペンギンの仔の耳に、人の声が聞こえてきました。
『うーちゃん、うーちゃん』
誰でしょう、うーちゃんを呼んでいます。
誰かしら、とペンギンの仔は薄く瞼を開けたけれど、お月様の光が反射して、見る事ができません。
『うーちゃん探したよぉ、急に居なくなって心配したよぉ』
『良かったわねカナちゃん。毎晩探して歩いた甲斐があったわね』
眠っているうーちゃんの体が、するすると宙に浮いて、まるでお月様に吸い込まれてゆくようです。
そして遠くへ、その姿は小さくなっていき、やがて完全に見えなくなってしまいました。
どこへ行くんだい?
うーちゃん、お月様のお友達の所に行ってしまうのかい?
声にならない声を喉の奥でぎゅうぎゅうさせながら、眠気に逆らえないままぐっすりと深い暗闇に瞼を閉じてしまいました。
「あぁ、怖い夢を見ちゃったよ。うーちゃん、君が居なくなるんだ」
朝を迎え、ぽん、と隣に寝ている黒い毛皮を撫でようとした小さなお手々が、ぽすんとお布団代わりの雑草を叩きました。
「うーちゃん?」
ご飯を食べる事も忘れて、ペンギンの仔はうーちゃんを探して走りました。
誰かうーちゃんを知らないかい?
黒いきれいな艶々の毛並みの、大きな長い耳を持っている女の子だよ。
けれど皆首を横に振るばかり。
とぼとぼと、うーちゃんが消えた河原に戻ってきました。
ぽつんと座って、やがてお月様がまた明るく輝きだす頃に、お腹の奥がきゅうっと鳴いて、あぁ、あたしお腹が減っているんだね、と気が付きました。
今夜ははんぶんこじゃなくて、まるっとひとりぶんのうどんです。久しぶりに持ったひとりぶんのうどんの丼はとても重く感じました。そしてその中には……
何でかな?
半分のお月様。
ふたりで分けてもお月様は減らなかったのに、ひとりで食べる今夜は片方が欠けているよ?
「ちゃんとひとり分なんだから、お月様は増えてもいいんじゃないのかい?」
ぽたりと、お出汁の中に小さな滴が落ちて、半分のお月様を揺らしました。
このうどんを食べたら、今夜のうちにこの里を出てゆくよ。
夜通し歩いて、遠くに遠くに離れなきゃ。
うーちゃんを連れて行った半分のお月様を追いかけて、うーちゃんが居なくなったこの、もぞもぞする気持ちを忘れる為に。
ペンギンの仔が歩く小道、通り過ぎたひとつのお家の窓が『こんこん』と、ペンギンの仔を呼ぶように叩かれたけれど、その音はとても小さくてペンギンの耳には届きませんでした。
ペンギンちゃんごめんなさい。だけど私は懐かしいお家に帰ってしまったの。
大好きなカナちゃんと家族が居るお家。
もっとペンギンさんと旅をしたいと思ったけれど、このお家も私にとっては大切な宝物なの――
そして小さな黒兎は、半分の月を仰いで、早くまた、まんまるのお月様に戻ってペンギンちゃんのお腹をいっぱいにしてあげてください、と祈るのでした。
お月様に住んでいる黒兎のお友達が、彼女の代わりに一緒に旅を続けてくれますように、と……
半分のお月様が照らす道、走って、走って、次は誰と会うのでしょう。
できれば、また、うどんをはんぶんこにしても、美味しさを増やしてくれる誰かがいいな。
◇◆◇ 続く? ◇◆◇
ご飯は皆で食べるとやっぱり美味しいですよねぇ^^
カナちゃん、本当、何でペンギンに気付かなかったんだろう
…書いた人間がそれを言うかww
あと三つほどネタが転がっているので、あと三回は続きますww
読んでくださってありがとうございます~(´▽`)
あぁぁお返事遅くなってごめんなさい~><
ちょっぴり切なくなった分、次に誰かと出会えた時の喜びもまた倍増なのでしょう^^
ぺんぎんちゃん頑張ってまた歩き続けております!
読んでくださってありがとう~(´▽`)
だって 時間がある時にじっくり読みたいんだもんwww
かわりに 何度も読み返しましたですよ!!!
やっぱ 食事は1人より2人がいいですよね
カナちゃん 珍しいペンギンに気づいて 一緒に連れてってくれたらよかったのに~~~
新たな出会いが待ってるぜ!!
まだまだ続く!!!
・・・・だな?( ̄ー ̄)ニヤリッ
ひとりぼっちは寂しいですよねぇ、心がそれを感じる時が一番なんとも言えない。
だけど、頑張ってペンギンちゃんは進む、そしてまた出会い楽しい事が起こる!
勝手に期待しております!
読んでくださってありがとう~^^
食べる量は減っても分け合いこできる幸せですね^^
ここ数年飽食の時代なのだけど、こういう気持ちは皆持ってるんだと思うと
ちょっと嬉しい気もします^^
ひとつ分にしたら、半分の卵。
さみしくなってしまったんだねえ。
実は最後は『もう二度とお月様の入ったうどんは食べないと心に誓うのでした』
で締めくくろうかと思ったのだけど、
食い気が走ってるキャラだけにそんなの嘘くさくて、こんな終わり方になりました(^_^;)
哀しい思い出ばかりだと逆にひねくれちゃう仔に育ってしまうような気がするので
嬉しい事もそれなりに入れていきたいと思います^^
読んでくださってありがとうございました^^
今度ふたりが偶然にでも再会できたら、きっと一生の友達になれるような気がします。
真実を掴むためには、一度離れる事も必要なのかなぁ、とかちょっと考えます。
うどんには『たぬきうどん』『きつねうどん』があるのだから
月見うどんも『うさぎうどん』でいいんじゃないのか、
と言っている人が実は結構居たりします^^
読んでくださってありがとうございました^^
目が覚めたら隣に居た人は居なくなっていて
代わりにうどんの材料が一式おいてあったら嬉しいと思う……(マテ)
うさぎちゃんに家から卵の一個でも持ち出させる芸当をさせればよかった!
読んでくださってありがとうございました^^
お褒めの言葉ありがとうございます^^
そして…サークルのお題さぼりっぱなしでスミマセン~><
読んでくださってありがとうございました^^
もう、思いっきりこのメガネかけたペンギンの絵柄で想像してくださいww
今回お月様と合わせた背景でアバターを貼ろうと思ったのだけど
うっかり忘れてしまいました(^_^;)
今回も読んでくださってありがとうございました^^
読み返しまでしていただいて、ありがとうございました!><
月の形が変わっていく様は、私達にも不安や期待を感じさせてくれますね。
今度は幸せな出会いがあるように、がんばります^^
おじいさんは……当分出番……(^_^;)
読んでくださってありがとうございました^^
ずうっと一緒の相棒……
探していた青い鳥はずっと隣に居たんだよ、
的なラストを目指しているのですが、ほんとにそう書くと
ベタになっちゃって逆に恥ずかしいかも…(^_^;)
読んでくださってありがとうございました^^
読み返しまでさせてしまってすみませんというかありがとうございますというか><
最初は冗談半分でブログの片隅にちょこっと登場させていたペンギンの仔ですが
妙に存在感が出てきたのでちょっと続けているのだけど
そろそろネタが切れそうです(^_^;)
皆さんのコメントを参考にしてもう少し続けていけたらなぁと思ってます~
読んでくださってありがとうございました^^
この仔は育ちざかりで、まだまだ食い気しかない仔なので(^_^;)
すてきなイケメンキャラが出てきてもきっと
相変わらずうどん作る方が大事だったりするのです(^_^;)
読んでくださってありがとうございました^^
喪失感を埋めるために、ペンギンの仔は新たな旅にでるのです。
うどんには『たぬきうどん』『きつねうどん』があるのに
『うさぎうどん』が無いのが不思議ですよね^^
いつかあたしがうどん屋さんを始めたら、放し飼い地鶏の卵を使って
『うさぎうどん』という名前のお店にしたいです^^
読んでくださってありがとうございました^^
悲しい思い出は心を優しくさせるのでしょうか?
またいつか出会えたらその後の違った道を語り合えたらいいでしょうねー。
お月見たまごの表現がとっても美味しそうで、綺麗で、二人の心情も表わしていて、素敵だなと思いましたv
文字だけだからちょみさんのよさがでてるんだなあと
今日もほんわか余韻に浸る俺なのです
月の形がペンギンの仔の気持ちになぞらえていて、せつないです。。。
いつかペンギンの仔がおじいさんに会えたらいいのになぁと思いました。
突然、何も言わずにいなくなっちゃうのは寂しいですね;ω;
ペンちゃんにずうっと一緒の、相棒みたいな旅の仲間ができるといいなぁ。
それを見つけるための旅なのかも。
半分でもまん丸で、一人きりだと半分で…
誰かとわける半分は、心で足りない分を補っちゃうんですね。
すごく暖かくて、寂しいうーちゃんのお話でした。
待っててくれるかっぱちゃんと違って、うーちゃんはもう会えないのね。
出会いと別れ、ペンギンちゃんは強くなりそうです。
次は誰に出会えるのか、楽しみにしています。
でも今まで通りの流れだと1話で出会いと別れを同時に体験してしまいそうで。
ペンギンちゃんは女の子ですよね?
大好きなものを一緒に味わえる存在、その喪失感がすごくて、なんだか泣けました(TOT)