小学校1年生のとき、わたくしは最初の大怪我をしたのであります。
この当時、ジュースも牛乳も、まだ紙パックは登場しておらず、ビンが主流だったのでありました。

理由は非常にアホウな自分災害でございます。

虫取り娘だったわたくしは、その夏の日、自分の身長の倍あまりの虫網と、お約束の蛍光黄緑の虫かごをたすきにかけて、虫取りに出かけました。

そのとき、何を思ったかわたくしは、虫網を横にして首の後ろに乗せ、そこに両手を絡ませて、さながら十字架を背負ったごとき格好で、空き地に向かって走り出したのでした。
この姿は、何かを暗示していたのかもしれませぬ。

ところで、このポーズは、転倒時に、顔面衝突が避けられないのであります。
自宅から100メートルあまり行ったところで、アスファルトのヒビに足を引っ掛け、走っていた勢いもあって大地に思いっきりキッスをする羽目になったのでございました。
運の悪いことに、そこには割れたガラス瓶が飛び散っておりました。
すさまじい衝撃とともに暗闇に星が飛び散りました。

しかし、このときなぜか痛くは無かったのであります。
のろのろと絡まった虫網から腕を引っこ抜き・・・。
と、右手首がざっくりと切れてしまっているのでありました。

うあ～～、血がいっぱいでてる～

このとき思ったのは、怪我のひどさでも、ショックでも、恐怖でもなかったのでありました。
「うう～～～む。この血を服につけて帰ったら叱られるであろうな～」

そんなわけで、だらだらと血の流れ出る右手を出来るだけ体から離し、自宅へ向かってのろのろ歩き出しました。
このとき本人は気づいていなかったのですが、顔面衝突時に唇の左下もしたたか切っていたのでございます。
流血する腕に気をとられて、同様に流血していたであろう顔についてはノーマークだったわたくし。

帰宅後元看護婦であった母親との間に何があったかはまったく覚えていないのですが、即近所の病院へ連れて行かれたのは覚えております。
このとき、既に右手首の傷はふさがりかけていたようなのでした。

「う～む、こっちは消毒して絆創膏で大丈夫そうだねえ。しかし、顔の傷は深いし、口元だ。女の子だから縫っておいた方が良いねえ」
初老の小児科医は立ち上がって巨大ホッチキスのようなものを手に、戻ってきたのです。
というわけで、診察台に寝かされ、その巨大ホッチキスのようなもので、口元を一回ぱっちんされたのであります。（この処置も痛くなかったのでありました）

人様より傷の直りが異常に早い事は、このときに発覚したのであります。
しかしながら、傷はン十年たった今も、しっかりと残ってしまっているのでした。
右手首の傷は、手首に浮いた太い静脈の上を2本走っているので、さぞや出血したのであろう事は想像に難くございませぬ。
それが絆創膏でくっついてしまう自分の尋常の無さ。

そう。私の驚異のケガ治癒伝説は、このときから始まったのであります。