Nicotto Town



海の(さかな)と話した季節 2/2

           ・・・  (^‿​‿​^)η  ・・・

山を鮮やかに彩っていた花が散ってもうずいぶん日がたって、鮮やかだった緑は
かなり色濃さを増して来ていた。

「こちらから見ると、お日様の光がまただいぶ眩しくなって来たね」

いつもの笑顔を浮かべながら(さかな)が言った。

「ああ、こちらはこれから少しずつ暑くなって来る。・・・相変わらず、君の後ろの
岩にはいくつもアワビやサザエが張り付いているな」

「うん、こっちはもうすぐ、クラゲさんもたくさん姿を見せる様になって来る」

オイラと(さかな)は、その日もそんなのんびりとした話をして少しの時間を
過ごした。

次の日(さかな)は、姿を現さなかった。

その次の日も(さかな)は姿を見せなかった。

それから何日かの間、石を覗き込んで見ても(さかな)が姿を見せる事はなかった。

時々、そんな事があったりしたのでオイラはそれほど気に留めずにいた。

それから、しばらくしたある日、石を覗き込んでみると、石の向こう側に(さかな)の
友達の(あざらしちゃん)がいた。

「こんにちは。あざらしちゃん、ずいぶん久しぶりだね」

オイラは言った。

「こんにちは。・・・今日はここでアナタが来るのをずっと待っていたんだよ」

あざらしちゃんが口元に静かな微笑みを浮かべながら答えた。

「待っていた?オイラを?」

少し意外が感じがしてオイラは思わず聞き返した。

「うん。・・・伝えたい事があったからね」

「伝えたい事?」

「そう。実はね・・・(さかなちゃん)はもうここへは来られないんだ」

「来られない?」

あまりに突然の事だったのでオイラは驚いた。

「急な理由でね。(さかなちゃん)はここからずっと遠くの方へ泳いで行っちゃったんだよ」

「・・・」

少しの間、オイラと(あざらしちゃん)は石を通して、黙りこんだまま向かい合っていた。

「・・・もう、ここへは戻って来ないのかい?」

しばらくしてようやくオイラは尋ねてみた。

(あざらしちゃん)は何も言わず、ずっと静かに微笑み続けたままだった。

「そうなのか。・・・それはあまりに急だね。・・・出来れば(さかなちゃん)にちゃんと
お別れが言いたかったな」

オイラは急に心の中に寂しさが広がって行くのを感じた。

「(さかなちゃん)もその事は心残りにしていたんだけど・・・」

(あざらしちゃん)はそう言って口を噤んだ。

「それから(するめいかちゃん)もね・・・実を言うとワタシも今日これから遠くの方へ
行ってしまわなければならないんだ」

「キミ達もなのか?・・・そいつはずいぶんと寂しくなってしまうな」

「うん。・・・・今ワタシの目の前にある岩と、今アナタが覗き込んでいる石を通して
遠くの陸地にいるアナタとせっかく仲良くなれたんだけど・・・今までアナタと
いろいろ話せて楽しかったよ」

「オイラだって・・・今までオイラと仲良くしてくれた事はすごく感謝しているんだ。
本当に今までありがとう。・・・キミ達の事はずっと忘れないよ」

「こちらこそ本当にありがとう。ワタシ達もアナタの事は忘れないわ
・・・でもワタシはもう行かなくちゃ」

(あざらしちゃん)が言った。

「さようなら。元気でね」

オイラは言った。

「アナタもお元気で。さようなら」

(あざらしちゃん)がそう言って向こうの方に向かって泳ぎ始めた。

こちらに向かって前ビレを振りながら遠ざかって行く、(あざらしちゃん)を
オイラは手を振って見送った。

(あざらしちゃん)が見えなくなってしまうと石の向こう側にはずっと向こうに
小さなさかなが何匹か泳いでいるのと、岩場にいくつかのアワビやサザエが
張り付いているのだけが見えた。

オイラは何だか心の中に大きなすき間が出来た様な気分で立ち上がった。

日は少しずつ西に傾きはじめていた。

オイラは石を離れて薄暗くなりはじめた川上の方へ向かって歩き出した。

        
          
            ・・・  〈ニ:ミ ・・・


それから何日かして、空が厚い雲に覆われたかと思うと激しい風が吹き始め
大粒の激しい雨が降り出した。

山のあちこちから、太い木の枝が折れて下に落ちて来る大きな音がした。

たちまち川の水があふれ返って物凄い勢いで流れ出した。

いつも寝ている川の中の岩陰にはとてもいられないのでオイラは川から離れた
岩に開いた大きな穴の中で丸まって夜を過ごした。

夜が明けて空が明るくなり始めた頃には外はもうすっかり静かになっていた。

やがて青空が見え始め、強い日差しが降り注ぐ様になった。

日が西に傾きはじめた頃には川の水もだいぶ引き始めたのでオイラは
川に沿って川下の方へ歩いて見た。

あの石があった所まで来て見ると、石は流されてなくなっていた。

オイラは川下の方まで歩いて行ったけど石を見つける事は出来なかった。

日が大きく西に傾いた頃、オイラは再び川上の方に向かって歩きながら
一つの季節がもうすっかり終わって、遠くに過ぎ去ってしまったのを
感じた。

          
          ・・・ (・)))K ・・・


強い日差しが真上から照り付けて、蝉が鳴き始める様になった。

オイラは見晴らしのいい場所から、ふもとを曲がりながら流れて
ずっと先の山並みの方に続いている川を眺めている。

そのずっと先の方にあるどこまでも青く広がった海を想像してみる。

あれから、まだそれほど日にちはたってはいない。

海の(さかなたち)と話した季節。

それは今ではオイラの心の中にある楽しい思い出だ。

オイラは顔をあげてくっきりとした青さの空を見上げ、それから
ゆっくりと目を閉じた。

(さかなちゃんたち)がこちらを見て笑っている姿が目に浮かんだ。

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2015/03/09 22:21
また読みに来てしまいました。
今、母のブログを一時的に非公開にしているのですが、
母ブログを読むと、いつもかいじんさんのこの物語が読みたくなります。

月日の経つのは早いものですね。
今春、妹も高校を卒業して就職も決まり、来月からはアパートでひとり暮らしを始めます。
6人家族から母が減り、私が減り、妹が減り、自宅は以前の半分の3人(父と弟と祖母)に
なってしまう予定です。

ついこの間までみんなが賑やかに暮らしていたような気がするのにと思うと切ないです。
かっぱちゃんとさかなちゃんのお話、また読みに来ます。


おやすみなさい。




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2015/01/26 18:50
何度読んでもほんわかした気持ちになれるお話を、
どうもありがとうございます。

七回目の月命日も過ぎて、母の不在にも少しずつ慣れてきました。^^

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2015/01/20 19:14
<^))>< 〈ニ:ミ (^)))K (^‿​‿​^)η 

さかなちゃんだけではなくて、するめいかちゃんもさくらだいさんもあざらしちゃんも一緒。
そう思うと気持ちがやわらかくほぐれていくのを感じます。

今日も読み返してしまいました。^^




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2015/01/19 21:37
<^))>< 〈ニ:ミ (^)))K (^‿​‿​^)η 

かっぱちゃん、ありがとう。
きっとそうみんな言っていますよね・・・。

また読みに来させて下さい。

あざらしちゃんだけ、コピペしないと私には書けないんです。
母、どうやって入力していたのかな。。。


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2015/01/18 21:34
初めまして。やあの長女です。
遅くなりましたが、拝読させていただきました。

母が読んだらとても喜んだと思います。。。
生前の母が大変お世話になり、どうもありがとうございました。
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2014/11/25 10:49
全く無関係な場所と繋がる、ってある意味、奇跡ですよね。
そして何事もなく受け入れる両者(あちらには他にもいろいろいますが)
石には、不思議な力があると私も思います。
両者を繋いでいた季節、素敵な思い出でした。
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2014/07/30 23:45
不思議な石で、本当だったら出会えるはずのない人たちと出会える。
本当にとても素敵なことですね^^
お別れはとても寂しいけれども……
思い出は永遠に心の中に残りますよね。
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2014/07/19 23:37
なんかこれよんだらかいじんたまの ロマンティックな一面をみたような・・・・
よしもとばななさんみたいな世界観ですよね ✿。(◠‿◠)。ღ.:*・゚。
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2014/07/19 22:38
読み終わった後の とても不思議な感じ
なんでしょ・・・・
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2014/07/16 16:10
海を知らないオイラと川を知らないさかなちゃん達
出会いは驚きだけど 思い出はそれぞれ持って行くんね
カッパの周りには 不思議な事が起こるんだなぁ^^
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2014/07/15 01:53
まさにこんな感じでしたね
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2014/07/14 20:30
感想文はまたのちほど述べるとして、私がみるかぎりにおいて、表現に問題なしと思いました
執筆ご協力に感謝いたします



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