童話風「子狐と少年」
- カテゴリ:自作小説
- 2014/07/17 16:01:26
とある森には狐がたくさんおりまして、彼らはみな人を化かすのが大好きでした。人に化けたり、幻を見せて道に迷わせたり。化かされたことに気づきあわてる人間を見て狐たちはそれはそれは楽しげに笑うのでした。
さてこの森に一匹の子狐がおりました。まだ人を化かす練習中でしたが、この日に初めて人を化かすこととなりました。
この子狐には父さまがいませんで、母さまがいつも化かし方を教えておりました。どうもこの子狐は人に化けるのは上手いのに幻を見せることは全くできませんでした。このことを仲間はみな不思議がりましたが、母さまは何か知っているようで、このことが話題にあがるたびに悲しそうになるのでした。
仲間に協力してもらったおかげで、初めて化かす人間が森の奥へと迷い込んできました。それはまだ幼い少年。不安げに歩いています。
子狐はその少年と同じくらいの子供に化けて、案内してあげる、と近寄っていきました。少年は驚いた様子でしたが、ありがとう、というとおとなしくついてきました。
「この森には狐がいっぱいいて、人をだますんだってねえ」
少年が言い、子狐はどきどきしながら、
「ぼくのこと狐だと思うの」
「ううん」
「狐、怖いと思うの」
「ううん、ぼく狐好きだもの」
狐を好きな人間なんて珍しいものですから、
「どうして」
と子狐は聞きました。
すると、少年は言いました。
「ぼくの母さん狐なんだよ。本当の母さんじゃないけど。
本当の母さんは病気で死んじゃったの。しばらくして新しい母さんがきてね、
もうすぐ妹か弟ができる、って言ってたころに、母さんどっかに行っちゃったんだ。
私本当は狐なのです、って」
「妹か弟は」
「ぼく知らないよ。
産まれる前にどっか行っちゃったんだもの」
森の外で少年と別れて、子狐は母さまの元に帰ってきました。
母さまは子狐に
「どうでしたか、お前ちゃんと化けられましたか」
と聞きましたが、子狐はそれに答えず、
「ぼくの父さま人間なの」
と聞いてみました。
「そんなことがあるものですか。
それよりお前しっかりやれましたか」
と母さまは言いました。
子狐は、本当かしら、やっぱりあの子ぼくの兄さまなんじゃないのかしら、と思いましたが口には出さず、
「ぼくしっかり化けたよ」
と言うのでした。
・・・ ・・・
2014/07/17 公開。
2020/12/28 ちょっと改行等、文章調整。