幻影の中で
- カテゴリ:小説/詩
- 2014/08/21 09:07:06
段々と日暮れが早くなる
それは秋の訪れを告げる
まだまだ太陽は眩しいけれど
夏の花も黄昏がやってきて
季節の変わり目を教えてくれる
部屋に花を飾って
明るさを取り戻す日曜日
誰に見せるわけじゃなくて
あなたに見せたかった
花が好きだったあなた
二人で植物園に行って
夏の花を見ていた
高く高くそびえる向日葵
あなたと辿りつきたかった
幻影の向こうには
あなたと私がいる
どこ向かいたかったのか
それは一緒だと思っていた
一本の道しか見えなかったのに
森の魔女が言っていた
あなたは歩く木
私はとどまる木
一緒にはいられない
意地悪な魔女の言う通りになった
あなたはどんどん歩いて行った
私に何が止められたろう
ここにいたままでその背中を
見つめることしかできずに
いつもいつも二人だと
思いこんでいた夏の日
太陽に照らされて
幻影が私たちを破って行った
とどまることを知らない私達の道
時も知らないうちに回っていく
その回転に引き込まれるように
私達が向かっていたなんて
悲しいという言葉ではあまりに辛すぎる
一度離れた道は戻らない
眩しかったあの日々も戻らない
いつかあなたの背中も見失うだろう
幻影から抜け出して私は
どこに歩いて行けと言うのだろう
(松谷みよこ:著「ももちゃんとぷー」
一部引用)