Nicotto Town


グイ・ネクストの日記帳


革命1


「サルマ様!サルマさまー!起きてくだされ!一大事。一大事ですぞ」

「何だ?どうした、ヴィヨン。今、何時だと思っているのだ?時計を見ろ!まだ7時半を回ったばかりだぞ。世の起床は10時と前から言っておろう」

「サルマ様!だからそれどころではないのです!それどころでは!」

「ああ、落ち着け。仮にも宰相だろ?ヴィヨン、ゆっくり順を追って話せ」

「サルマ様、そ、そ・・・それが。ええっと」ヴィヨンは深呼吸をした。

「で?」と、サルマはパジャマを脱ぎながら、正装に着替えている。
「はい、それが・・・革命軍です。奴らとうとう動き出したのです」

 サルマは苦々しい顔で、ヴィヨンの白髪と、広いおでこ、銀縁の眼鏡を順番に見て行った。

「なあ、ヴィヨン。まさか革命軍?革命軍ごときで世を起こしたのか?」

「だからそれだけじゃないんです。サルマ様。あのアヴァロニア帝国が国境付近に来ているのです。これは明らかに我が国を滅ぼそうと企んでいるに違いありません」

「ほほう。あの女帝様が・・・国境付近に軍を?あの女帝様が・・・このブルラを落としに来たと?」

「そうなんですよ。だから、サルマ様。早急に手を打たなくては」

「ヴィヨン。何もするな。国境の兵は罠だ。兵力を分断させる罠だ。わが国の兵力は8万。それを全て革命軍にぶつける。精鋭部隊であるフェンリルの魔法部隊にも用意させよ」

「・・・兵舎の兵を全て出動させるのですか。その上、精鋭部隊まで。」

「ヴィヨン。言われた通りにしろ・・・それと革命軍の数は?」

「わずか3000です。国境付近のアヴァロニア帝国兵は10万以上。ほんとに無視するのですか」

「ああ、そうだ。あちらは囮。一手目はフェイク。二手目が本物だ。そのわずか3000こそが、本命だ」

「分かりました。サルマ様の言われる通りにします。鎮圧には30分もかかりません。出動には二時間はかかります。何せ人数が人数なので」

「それでは昼頃に戦果を報告せよ。楽しみに待っている」

「はは。では失礼します」

あの女帝レティーシア・アヴァロニアは、国を滅ぼして手に入れるだろうか。
「あなたとの事はよい勉強になりました。あなたとの婚約はいたしません。お帰りください」

そう・・・世とヴィヨンの話を立ち聞きしおって。

世が騙した事を腹いせに国を暴力で滅ぼしに来るか。答えは来ない。

アヴァロニアは奴の交渉術のうまさで領土を拡大していった国だ。

というか・・・調べさせたデーターではそうなっている。

単独、国へ乗り込み、どういうわけか国民から英雄として慕われて、その国の王を倒して帝国領としている

・・・データーは嘘をつかない。

レティーシア・アヴァロニア。今までの王は騙せたのだろうが、世は騙されん。

世は革命軍に絶望をあたえ、そなたの策略を見事に砕いてみせる。

ふふふ、そなたの悔しがる顔が今から目に浮かぶわ。くくく、はーっはっはっは


場所は変わって、革命軍アジトでは。

「エッセンハイム、どういうことだ!8万の大軍が全軍こちらへ来たぞ。我々は終わりだ」
「エッセンハイム・・・降伏しよう。戦う前なら許してもらえるかも」
「エッセンハイム!」

 エッセンハイムは頭をかきあげ、下を向いてから「諸君、我々は包囲された。逃げ道は無い。どうせ散るなら華々しく散ろうではないか」

「・・・」3000の市民たちは黙り込んでしまった。

みな、とても嫌な顔をしている。

その顔には絶望が見て取れる者もいたし、すでに意識が飛んでしまっている者もいる。

そんな聴衆の中でただ一人だけ、いつもと変わらぬ目つきの剣士と目があった。

「レティ・・・」エッセンハイムはお立ち台を降りて、レティのところまで走った。

「はあ、はあ・・・レティ。一緒に最後まで戦ってくれるか。いや、君は傭兵。逃げてくれてもいい」
「エッセンハイム、こういう時は笑うのだ。われ一人でこの戦いを覆す!魔力の差というモノを今、見せてやる」レティはニコリと笑うと腕を広げ、高らかに笑いだした。

エッセンハイムは突然の冷気に、自分の腕で身体を抱きしめる。

腰を抜かしてしまったのか、立つ事もできない。絵本の中だけで見てきた氷狼フェンリル。

赤き目をした黒き狼。

今、見えているのはわずかに首から上の部分のみ。

なのに自分たち3000人を一口で飲み込むほどに大きな顔をしているのだ。

まさに魔王が今、目の前に降臨していた。

レティは歩き出した。その後を魔王、氷狼フェンリルも一緒について行く。

8万の軍勢?500の精鋭部隊?

そんなモノが彼女の敵になるはずがない。

そもそも人間では太刀打ちできない。

レティ、彼女はただ歩いて近づくだけでいい。

兵士たちはすでに逃げ出している。

混乱。恐怖。失神。

レティは相変わらず、高らかに笑い歩き続けている。

レティの後ろについて行く者たちが現れ始めた。

エッセンハイムもついて行っている。

絶大なる魔力という蜜に蜂が集まるように。

ぞろぞろと行列ができている。




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