はやく人間になりたい
- カテゴリ:日記
- 2014/12/29 19:31:02
人造人間 キカイダー(1巻~4巻)
石ノ森章太郎
秋田書店
キカイダーというと特撮ヒーローもの、という認識しかなかったが、これはその原作版。
登場人物の名前こそ一緒だが、ストーリーの方は大分、違っているらしい。
・・・というのは、特撮の方は個人的に特に思い入れのある作品、というわけではなかったので・・・。
興味をもったのは、原作版は「ピノキオ」をモチーフにしている、という話を聞いたからだった。
主人公のジロー(キカイダー)は、ロボット研究者の光明寺博士に作られたロボット。
光明寺博士はプロフェッサー・ギルという人物の援助を受け、他にもロボットを作り上げるが、プロフェッサー・ギルは実は悪人。
そのことを知った光明寺博士はジローに「良心回路」を取り付け、逃がす。
「良心回路」とは、悪い事をする命令には従わない事ができる回路。
ピノキオではコオロギのジミニー・クリケットがピノキオの「良心」役を任されたが、ジローにとっては、この回路がその役目を担う。
(良心回路は作中、"ジェミニ"とも呼ばれる)
ところが、この「良心回路(ジェミニ)」は不完全なもの。
プロフェッサー・ギルがロボットに指令を与える時、特殊な笛を使うが、その笛の音はジローにも影響を与えてしまう。
この「良心回路(ジェミニ)」のために、「良心」と「悪い心」の間で苦しむジロー。
しかも戦う相手は、ジローにとっては「兄弟」にあたるロボット。
自身の「悪い心」に逆らいながら、「兄弟」と戦わなければならない苦悩。
「良心回路(ジェミニ)」など無ければ、苦しむ必要もなかったのに・・・。
この苦悩が、ジローの戦闘形態にも現れる。
その姿は、左右非対称の上に、部分的にスケルトン。
これがジローの「不完全さ」を象徴している。
(別の所で、学校の理科室にある人体模型がモデル、とも聞いた事がある。)
人間の姿をしている時も、どこか哀しそう。
最初はジローもミツコ(光明寺博士の娘)も「良心回路(ジェミニ)」を完全なものにしようとするが、「絶対に悪い事をしない」と言える人間はいない以上、「良心」と「悪い心」の間で苦しむジローは、その状態が一番、人間に近いのでは?と思った。
・・・と思ったら、2巻でジローが、まさにその通りの事を言うシーンがあった。
「人間に近いロボットを"完全なロボット"と呼ぶなら、"不完全な"良心を持っていた方が人間らしい、と思う。」
ただ、この「良心回路(ジェミニ)」も、ジローの「兄弟」、ゴールデンバットに言わせれば、
「人間のために良い事をさせよう、という下心があるからじゃないか!」
という事になる。
ゴールデンバットは、さらに続けて言う。
「人間の持っている"良心"こそあてにならないくせに・・・!!」
中盤からジローの「兄」、イチロー(キカイダー01(ゼロワン))が登場するが、イチローには「良心回路(ジェミニ)」は取り付けられていない。
対して、ゴールデンバットはジローのものより、さらに不完全な「良心回路(ジェミニ)」が取り付けられていた。
彼も「良心」と「悪い心」の狭間で悩んだ過去があった事が語られるが、その点を考えると、ジローの「兄」は、イチローではなく、ゴールデンバットの方の気がする。
(ちなみにゴールデンバットの方は、「良心回路(ジェミニ)」があまりに不完全だったため、「悩み」はすぐに「解決」したらしい。)
ところで、本作品で最も印象的なのはラスト。
仲間のロボット共々、敵につかまったジローは「悪い心」である「服従回路(イエッサー)」を取り付けられてしまう。
が、そのために、今まで「良心回路(ジェミニ)」のせいで、できなかった事が、できるようになる。
それは、
「相手を騙す事」
と
「(自身に装備された)強力な武器の使用」
ジローは、この2つを用いて、「服従回路(イエッサー)」を取り付けられた、かつての仲間を破壊する。
それまで繊細だったジローが、かつての仲間をためらいなく破壊するシーンがショッキング。
そして、そのまま敵のボス、ハカイダーも破壊する。
その時のジローのセリフ
「俺はこれ(「良心回路」と「服従回路」を持ったこと)で、人間と同じになった・・・!!
だが、それと引き換えに、これから永久に"悪"と"良心"の心の戦いに苦しめられるだろう。」
それは人間も同じだと思うが、ジローはロボットのため、「心の戦い」が半永久的に続く。
どこか哀しそうなジローの表情は、最初と変わらないが、その内に込められた哀しみは、さらに深くなったように見える。
繊細なジローが耐えられるのか・・・。
しかも「兄弟」は、もういない。
最後のナレーションが重い。
「ピノキオは人間になりました。
メデタシ。メデタシ。
・・・だが、ピノキオは人間になって、本当に幸せになれたのでしょうか・・・?」
イナズマンのマンガ版、見かけたら読んでみます。
イナズマンの最終巻に収録されてますが、現在手元に残ってなくて・・・
ニコニコにもアニメ版が挙がってましたが、
ジローが"服従回路"を克服する形になっており、若干解釈が変わってました。
"服従回路"を破壊したら、イチローや零、ビジンダーを「殺した」記憶に苛まれそう、
と思ってしまいました。
キカイダーは少年サンデーで連載されましたが、
その後の連載のイナズマンで『ギターを持った少年』というエピソードがあり、
イナズマンを暗殺に現れたキカイダーの服従回路を、イナズマンが破壊して彼を開放します。(漫画版)
"不完全な良心回路"と"服従回路"は、実は我々人間そのものを指しており、
本作で人間に対する警鐘を鳴らし、後日談を持って
ジローを『キカイダー』という物語から開放したのだと私は思いました。
初めて読んだ時、子供向けなのに、こんな事を描くのか、とビックリしました。
「ウルトラマン」とかも、社会的な問題をテーマにした話とかありましたね。
石ノ森章太郎作品では、他に「サイボーグ009」も結構、重い内容が描かれている
らしいですね。
(部分的なら読んだ事があります。)
作中、ゴールデンバットが、まさにそんな事を言ってました。
それに、イチロー(キカイダー01)にも似たような事を言うシーンが・・・。
>MOGさん
原作にもハカイダーは登場します。
最初は、キカイダーのライバル、というか天敵のような存在で、最後は「ラスボス」に
なってました。
>四季さん
「良心回路」なんていらない、むしろ「服従回路」が欲しい、という人の方が
多いような気がします・・・。
キカイダー、雑誌掲載されているのを見たことがあるような・・・
でもテレビも原作もどちらも見ていませんでした。
結構重たいテーマを扱った漫画だったんですね。
ここ20年ほどは漫画雑誌を買っても読んでもいませんし、
それ以前に少年漫画は好きになれないのですが
30-40年前の漫画やアニメって結構社会的な問題を取り扱ってたんですね。
原作にはハカイダーはいないのー?
幸せになったかも・・・。
人間の小賢しい見識に基づいて、
色々な心の回路を付加する事は、かえって問題を重いものに・・。