Nicotto Town


胎児よ 胎児よ 何故躍る


しらゆきひめ

私はこまっしゃくれた子供でした。
例えば御伽噺。
全て物語の中ではハッピーに物事は収まるのですが、私はそうではない現実を知っていました。
だから嘘で塗り固められたような御伽噺がどうしても好きになれなかったのです。
だから、私は自分の名が好きではありませんでした。
私の名前は白雪と言います。父がつけました。
父は一応職業は作家ですが少し精神を患っており、妄想中毒者です。
私とは正反対で童話やら小説やらの世界が大好きで、こうしてじつの娘にかの有名な御伽噺の姫の名をつけてしまった程です。
若い頃はこんなに妄想に入り浸っていなかったようなのですが、今はかなりの重症で母にも見捨てられ、私と父は二人で暮らしていました。
そんな父から新しい母が出来る、と聞かされたのは半年ほど前のこと。
父と付き合うだなんておかしな人だなあ、と私は半ば他人事程度で考えていました。
そんな父に連れられ私達の家にやってきた新しい母はとても美しい人でした。
健康的な肌色、落ち着いた茶色の長くウェーブを描いた髪、整った顔立ち、スラっとした女性らしい体つき。
まるで童話に出てくる優しいお妃様の様なひとだったのです。
「よろしくね、白雪ちゃん」
微笑む彼女の美しいこと!優しげなこと!
大人の品格、まさにそんなものを持った彼女に私も惹かれ、そうして二人+一人の新しい生活はスタートしたのです。
私は彼女の事が大好きでしたし、彼女も私の事が大好きでした。
私は彼女を母と呼び、彼女も私を娘の様に愛してくれました。
二ヶ月間は。
私は先程も言いましたが、御伽噺は好きではありません。
なぜなら現実は全部ハッピーで終わらないからです。嘘だからです。
これもまた悲しき現実。私が母と呼び愛した彼女は妃の仮面をかぶった悪しき魔女でした。

彼女が家に来て二ヶ月が過ぎたある日、自室で物書きをしていた父が突然倒れました。
自室に篭っていたため発見が遅れ、夕食の準備が出来たと報告に行った私が扉を開けた時にはもう息をしていませんでした。
私は慌てて救急車を呼びましたが時既に遅く。父はそのまま息を引き取りました。
そうなれば彼女はもうお妃様の仮面を被っている必要なんてありません。
彼女は父の遺産で遊び始めました。
勿論、父は確かに妄想中毒者でしたが大きな病気をしたことなんて一度も無く、だからこうして呆気なく急にいなくなってしまう事なんて誰も予想できるはずもなかったはずですし、それは私は勿論彼女にも当てはまるのでしょうから父に対して財産があるわけでもないですし金目当てで父に擦り寄ってきたのではなかったのでしょうが、それでもやはりお金というものは人を狂わせます。
父にかかっていた保険や父の少ない遺産は全て彼女の衣類、香水、化粧品、バッグ、財布などなど、娯楽品へと変わって行きました。
次第に彼女は私の存在が億劫になったのか優しかったあの頃は嘘の様に私に辛くあたりはじめるようになりました。
それは、最初は愚痴や罵声程度でしたが、暴力、折檻、監禁と徐々にエスカレートしていきましたし、与えてもらう食事すらも日毎に減って行き、私は死の淵まで追いやられました。
そう、私は憐れな白雪姫。
意地悪なお妃様に虐げられ、殺されてしまう、白雪姫。
物語の中では白雪姫は王子が助けてくれたけれど、ここは悲惨な現実。
誰も助けになんて来てくれないのです。
ですから、例えばかの白雪姫なんて三度も生き返ったようですけれど、こんな脆弱な私は一度死んだらそこでおしまいなのです、バッドエンド。
私は死にたくありません。すると私が取るべき選択肢は一つしかなかったのです。
ですからこれもある意味定められていた運命なのでしょう。
現実は御伽噺程甘くないのですから。
私は隠し持っていたバタフライナイフを逆手に持って食事を届けに来た彼女に不意に飛びかかりました。



床に転がった彼女はもう動きません。
一ヶ月ほど前から何も言わなくなりました。
少々臭いは気になりますが、幸いなことにヘンデルとグレーテルの”おかしの家”を模して作ったこの家は立地までこだわられていて森の奥深くにあるので周りに家はなく苦情が来ることもありません。
そのお陰で買い物に行くのにも一苦労なんですけれど。
知っていますか?御伽噺は原作は非常に残酷なものが多くて、子供達の手に渡るものとしては余りに不適切なので内容が子供向けに変えられているのです。
実際の御伽噺は残酷で無慈悲で、かつ人間の欲望がありありと躍動感や真実味をもって描かれている、素晴らしい作品なのです!そう、芸術なのです!
中でも白雪姫という作品は妃の狡猾さ、妬み、嫉妬、羨望、それから白雪姫の憎悪、復讐、王子が死体愛好家(ネクロフィリア)であったというのは有名な話ですが、なんて欲望に塗れているのでしょう!これこそが人間なのです!
それなのに私達はありのままの人間としての本性を隠し、欲望などこれっぽっちだってないなんて素振りを見せながら生きているのですから疲れてしまいます。
でも、それが世の中というものなのです。嘘をついて、欲望を隠して、人間関係を上手く取り繕わなければいけないのです。
ですから、嘘で固めたような現実を私はどうしても好きになれなかったのです。
ところで、白雪と名付けた私の娘は少し頭がおかしい様でした。
特に最近酷くなってきていまして、自分で自分を殴ったり暗い部屋に鍵をかけて閉じこもり始めた時は正直私もどうしたら良いのかわかりませんでした。
部屋から出るように、暴力をやめるように説得を何度も試みましたが、彼女の瞳には私は写っていない様子で何を言っても反応はありませんでした。
食べ物も日に日に手をつけなくなり、最後はバタフライナイフで自分の心臓を一突き。
今も私の白雪はこうして王子様が来るのを待っているのです!

#日記広場:自作小説

アバター
2015/01/01 08:14
ついに悟りをひらいたのか!!?
アバター
2014/12/31 20:23
どうしたwww

tk最初の一文www



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