Nicotto Town


つれづれと


夢バス ~ある神様の願い~



 

「こんにちは」

不意に声をかけられ、女の子は目を開けました。声の主は、女の子と同い年ほどの少年でした。

少年は、今度はほほえみながら話しかけました。

「こんにちは。ここがどこか、わかりますか?」

女の子は、ぐるりと一周、辺りを見回せました。女の子が立っていたのは、森の中のバス停でした。

「知ってるよ、夢の中でしょ?」

女の子はそう答えました。少年はそれまで読んでいた手帳を閉じると、意外そうな顔で首をかしげました。女の子はうでをふりあげ、ぐるぐる回しながら続けました。

「わたしがここにいるはずないの。ずっと入院しているんだもの。体がだんだん石みたいに動かなくなってく病気なんだって」

少年は申し訳なさそうにうつむきました。

「ところで、あなたはだれ?」

女の子はしばらく体を動かしてから、少年にたずねました。少年は少し考えてから答えました。

「…四かける二の半分です」

今度は女の子が首をかしげる番でした。

「ごめんなさい。わからなくていいですよ」

少年はバツがわるそうに、苦笑いをしました。

「わたしだってかけ算くらいできるわよ。ちゃんと習ったもん。病院で、だけどね。答えは簡単、しにが八よ」

「そうでしたか。ちゃんと勉強もしたのですね」

「でも、四かける二を半分にしたら、また四に戻っちゃうよ」

「そうですね。八をそうやって半分にしたら、四ですね」

女の子は、初めて少年をじっと見ました。黒いズボンに黒いシャツ。見事に全身真っ黒です。おまけに少年が持っている手帳まで黒一色でした。でも、それ以上に不思議なのが、笑顔を浮かべた少年の顔つきでした。

「ねえ、そのほっぺた… もしかして泣いてたの?」

少年のほおには、なみだのあとがうっすらと残っていました。少年は手帳を胸にしまうと、まっすぐに女の子を見て答えました。

「私はあなたに会いたくなかった。

でも、あなたは私に会うしかなかった」

女の子は何が何だかわからなくなりました。それでもすぐに、今は夢の中、と思い出すと、ずっとわからなかったことを聞いてみようと思いました。

「ねえ、教えてほしいことがあるんだけど」

女の子は話しかけました。少年は返事の代わりに、静かにうなずきました。

「…人は死んだらどうなるの? わたし、ずっと一人になっちゃう気がして…怖いの」

女の子はしぼり出すように話すと、真下を向いて目をつむりました。少年は、優しく答えました。

「大丈夫。あなたが思ってたようなことはありませんよ」

女の子は顔をあげて、またじっと少年を見つめました。

「本当にそうなの? わたし、考えれば考えるほど怖くなって。みんなに聞いても、すぐに治るよって言うだけで、誰も教えてくれないの。この病気は治らないって、わたしが一番わかってるのに」

少年は女の子の手をとって言いました。

「心配しないでください。私が神様にお願いしておきますからね。私の手をにぎると、元気が出ますよ」

女の子はクスッと笑いました。

「あなたが神様に。それじゃあ、お願いしますね」

女の子はほほえんで、少年の手をにぎりました。

「なんだか安心したわ。わたしね、ずっと入院してて、何もかもいやになって、泣いてばかりだったの。でも、ちょっと前に気づいたの。わたしが泣くと、みんなも悲しい顔をするし、わたしが笑うと、みんなも笑顔になるって。私はみんなと笑っていたい。だから私も、できる限り笑って生きようって決めたんだ。体はほとんど動かなくなっちゃったけど、顔はまだ動かせるの。わたしって運がいいのかもね。…話を聞いてくれてありがとう」

女の子は明るく笑って涙をふきました。

「死を考えることは、生を考えること。あなたは一生懸命笑い、一生懸命生きたのですね。これからも胸を張って生きてくださいね。さあ、ちょうどバスが来ますよ。次はどんなところでいきたいですか。あなたの願いをかなえますね。好きなところを言ってください」

女の子ははっと少年を見ると、目を輝かせてすぐに答えました。

「わたし、野原を思いっきり走り回りたいなあ。あと、みんなと同じように学校へ行って、友だちを作りたい。友だちといっぱいおしゃべりするの」

「わかりました。夢の続きにお送りしましょう」

「あなたも一緒に行こうよ」

「いえ。私はここで仕事ですので」

「そっか。また会えるかな」

バスに乗りながら女の子が聞きました。少年はバスの運転手と目を合わせると、笑顔で答えました。

「どうやら次に私たちが会うのは、ずっとずっと先になりそうですよ」


 少年の言葉を聞いて、女の子は静かにうなずきました。

「そっか。それじゃあ、さよならだね」

「そうですね。さようなら。幸せに生きてください」

バスは走り出しました。女の子が席に座ってから振り返ると、少年の姿は影も形もなく消えてしまっていました。

女の子は短く深呼吸をすると、すぐに前を向き、バスの行き先を見つめました。バスがどこに向かうのか、行き先でどんな出会いがあるのか、嬉しくて楽しみで仕方ありませんでした。

 


 バス停に残るのは、少年の落とした涙の跡だけでした。


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12歳くらいの子どもから、謎解きの要素のある物語を作ってほしいといわれてので、書いてみました^^

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2020/08/05 12:05
雨月さんこんにちは!
インしたら一分前にコメントがあったから、
びっくりして飛んできました笑

おともだちと遊ぶんや~( *´艸`) いいなぁ~(*´ω`*)
京都で久々の再開やと、どっかいったりするん?おうちでおしゃべり?

夏休み、たのしんでますよ~( *´艸`)
今日は妹のSwitchをかりてあつもりとかしてます笑
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2020/07/07 17:17
こんにちは^^
お久しぶりですね~!

そうなんですね!
今回はおともだちに会いに、とかですか?
結構ちょくちょく京都にも来られるんですか?
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2017/12/26 18:01
初めまして。
タウンでお見掛けして話してみたいなーって思ったので
勇気を出してコメントを残してみました。

もし気が向いたらお話してください(○´∀`○)ノ
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2016/12/14 15:40
お久しぶりです。
お元気ですか?

ずいぶんとご無沙汰をしてしまいました。
申し訳ありません。

やっとというか、ついにというか、戻ってまいりました。
またお話できることを楽しみにしていますね。
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2016/07/31 14:15
くぅみんさんだ~

訪問ありがとう
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2015/03/23 21:21
女の子の気持ちが神様を感動させて、、。なのかな?^^
謎なぞ^^



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