無法バンドマン 音の商標登録に悩む。
- カテゴリ:音楽
- 2015/04/05 07:12:47
特許庁が今月から運用し始めた、音や色などの商標登録。
正露丸の会社がラッパのメロディーをさっそく登録したらしい。
グリコの会社もグ・リ・コのフレーズを登録。さて、こりゃ困ったことになった。
ヘッポコギター弾きの私は完全独学、耳で覚えて練習してきた。
どんなにオリジナリティを追求しようが、あらゆる先人の偉業に影響を受けている。
ヘボな演奏を録音され分析されたら、そこら中が名手、名曲の模倣、剽窃。
楽曲(主に歌メロ、インスト)は著作権対象でしたが、フレーズはお目こぼしされてた。
チャックベリーの有名なフレーズを初めとして、シグネチャーリックは山とある。
これらをミュージシャンが競って商標登録したら……どんなことが起きるか考えた。
私のヘボライブ中、いきなり背広の客が立ち上がり演奏中断。
「実は私、特許庁のものです。あなたの演奏は大勢の商標登録を侵害しています」
ステージに上がってきて、スマホで隠し録りしていた我が演奏をプレイバック。
「まずイントロ部分の白玉ボリュームペダル、ビル・フリーゼルですね?」
いや、俺はヤン・アッカーマンのつもりだったんだけど。世代の差だな。
「それから付点八分ディレイのシーケンス、間違いなくU2ですな」
いやいや、それはマニュエル・ゲッチングのつもりだぞ。エッジは好きじゃない。
「さて旋律の導入部です。このクロマチック、ホールズワースのパクリですね」
ワーイ、分かってくれてアリガトー。ちょっとだけウレシイ。
「その後のスクイーズタイプの音色はアルバート・コリンズ、フレーズは阿部薫」
音色はロイブキャナン、フレーズはアイラーのつもりだったが、まあ近いな。
「そしてインプロヴィゼーション部分、音色が全面的にクラプトンに依存してますね」
そりゃそうだ、59タイプのハムを球アンプにつなげば似るのは仕方ないだろ。
「アウト感に関しては各部でスコフィールドの商標を侵害してますね」
え? そこはアレアのパオロ・トファーニの暴走シンセのつもりだ。断固異を唱える。
「後半のネックベンドとアンプへのギター押し付けは……モントレーのジミですね」
いや、俺はピートタウンゼントのつもりだったが……まあ似たようなもんだ。
「さて、以上5分の演奏の商標侵害の慰謝料合計予測は以下の通りです」
電卓に表示された金額はゼロがひとつ、ふたつ、みっつ……ウヒャー!
……架空の話なのか? いやいや、おそらくこういう世の中になるんだろうな。
ミュージシャンが争って自分のフレーズを商標登録する。侵害されたら金よこせ。
ああ素晴らしい21世紀。音楽学校の最初の授業も商標権の講義とテストから。
金と経済と権利が絡むと、常にこうした話になる。あーバカバカしい。
政治経済人権を一切顧みぬ無法者の私、今後もスタイルを変える気はない。
腹が立つから最後に6行だけ毒づいて終わろう。
専門家と素人を区別する唯一の定義は歴史認識の差である。
専門家は自己の携わる分野の歴史を熟知せねばならず、
自己の作業が如何なる歴史背景の上に成り立つか自覚して、発展させる。
専門家はあらゆる先人の作業から影響を受け、そこからの飛翔に生命を賭ける。
自らの仕事の価値は金銭ではなく、歴史として残るか否か、それだけである。
こうした道理の分からぬ馬鹿共は『創造』という営みに一切関わるな。