Nicotto Town



3月期未投稿小説

3/31のこと ニコットの小説サークルの締切 ネタは考えたものの 書いているうちに長くなり、しかも最初ハートフルな話のような気がしたのにいつの間にかダークなイメージが。。
あーもう少し早く書き始めるんだった。いっそ半分切って オチを取ってつけるか。。と悩んでいるうちに呑んだ酒が効いて寝てしまい気がついたら夜中の0時を回っておりました。
無理に4月用に書き直すのもなんだし、反省込めてここに投稿します。

『魔女の家』

「レイコさん。お茶の支度が出来たわよ」
声に驚いた少女が振り返ると白髪の老婆が微笑んでいた。思わず右手で握り締めた小刀の感触を確認したが、軽やかな足取りで少女に背を向け隣の部屋に消える老婆に毒気を抜かれた。逃げ出そうかと思ったが、甘い香りが鼻先をかすめると腹が不平の音を鳴らした。いいだろう、どうせ手ぶらでは帰れない。用心して、お腹を満たし、目的を遂げよう。
しかし、少女の思考は温かなパイやマドレーヌの前にあっさり崩れた。口一杯は頬張り、差し出されたお茶をゴクゴク飲んで大きな7切のパイと5個のマドレーヌが少女の胃に収まり赤いゼリーと3杯目のお茶が差し出されてやっと、目の前の老婆に視線を止めた。
なるほど、これが〈魔女〉か。森の奥の奥、裏庭に沢山のお墓を抱える古いお屋敷に魔女が住んでいるとみんなが噂していた。そんな婆さんはとっくに死んでいるだろうと思っていたが、目の前の〈魔女〉は血色も良く紫のドレスは着慣れているが古びてはいない。
「レイコさん、お疲れのようね。お風呂が沸くまでゆっくり休むといいわ」
言われるままに2階に追いやられる。「REIKO」とプレートのあるドアを開けると飾り気はないが女の部屋らしく鏡台が鎮座し、壁際にクローゼットが作り付けられている。
柔らかいベッドに腰掛けて考える。「レイコ」とはどんな娘だろう。魔女の娘?
クローゼットを開け、掛かっている服から黒のワンピースを手に取る。軽い違和感を感じて鏡台に向かう。
なんてことだろう。「あたし」にぴったりだ。これだけでなく他の服も、多分。
逃げるときにこれらの服を持って行けないかな。あたし自身のために、
少女はこの家を逃げ出した後のことを考えた。しかし、うまく事が運ぶ気がしない。あれこれと考えるうちに眠りに落ちた。
次の日も、また次の日も逃げることを考えつつ少女は屋敷に留まった。満ち足りた生活だけでなく、魔女に惹かれた。魔女がにっこり笑うと少女も笑い返す。
いっそこのまま「レイコ」になってしまおう。
もう一人の自分が囁いたかのような考えに喜びと興奮で背筋がぞくぞくした。
少女は辞典を調べてペンで白い紙に書く。「玲子」私の名前。

「おじさんがいらっしゃったわ」
ある日魔女が嬉しげに言った。ティーカップがひとつ増えて灰色の髪に片眼鏡の紳士がその前に座っていた。
初めて会う相手に少女が緊張して挨拶すると、紳士は魔女ほどではないが温和な笑みを浮かべて応じた。
ほっと席につくと手にウサギのぬいぐるみを持ったままだったことに気が付いて赤面する。今朝、引き出しを開けて見つけた。こんな子供っぽいものがどうしてあるのか魔女に聞こうと持っていたのだ。
少女はもう一度男を見る。男は楽しげに魔女に旅の話をしていた。

ある夜中、少女は目を覚ました。布団も枕も心地良いが瞼は閉じない。何か物音を聞いたような気がする。
のろのろと起きて廊下に出ると階下に明かりが点いている。
「おばあちゃん?おじさん?」
階段を半ば降りて、下に若い男が立っていることに気がついた。男も少女に気付き見つめる。
「テルじゃないか。何やっているんだ」
ぞっとするしゃがれ声で男が言った。
あなたの事何て知らないわ。
少女は叫ぼうとしたが声が出なかった。
知っている。この男は煙草もドラッグもやって、喧嘩で何本か歯を無くしたからこんな嫌らしい声なんだ。喧嘩で倒れた相手を何度も殴る野獣のような男、その時あたしは耳をふさいで見張りに立たされていた。
「金目の物を盗って来ると言って出て行って、こんなところに隠れていたのか」
立ちすくむ少女に男が近寄る。と、床に老婆が倒れていることに気付く。
「おばあちゃん!!」
その時、物陰から飛び出したものが男に衝突した。少女しか見ていなかった男は意外なほどあっさり昏倒した。
「おばあちゃん」
駆け寄ると老婆の顔は白く動かない。激しい絶望と混乱で少女はその身体にすがりついた。
「悲しむことは無い。これがこの人の寿命さ。役目を終えたんだ」
優しい声で話し掛けてきたのは、おじさんだった。差し出されたハンカチを見つめて、さっき男を殴ったのがおじさんだと気が付くが、言葉の意味がわからない。
「あ、あたし、おばあちゃんがいないと、どうしたらいいのかわからない。玲子でいられない」
つっかえながら混乱した心から言葉を拾い上げる。
「君はもう「玲子」さ。自分の思う人間になればいい。この家にいる限り願いは叶う。この人とは随分長い付き合いだが、孫どころか子供を持った事もないんだ」
おじさんは老婆を見下ろして言った。老婆の顔は微笑んでいるように見えた。
「それじゃあ、玲子って誰?」
「君が望んだ名前だよ。この人は魔女でここは魔法の家だからね」

「その時すべてを理解したわ。子供のころ、大きなお屋敷の表札を見たことがあった。家族の名前がすべすべの石に彫ってあってね、最後の子供の名前が『玲子』、こんなお屋敷の子供に生まれたかったって思った。それからウサギのぬいぐるみも、あたしが子供の頃にどうしても欲しくて手に入らなかったものだった」
「それはお婆さんが用意してくれていたもの?」
「違うわ。あたしもおばあちゃんも『魔女』と呼ばれるけど魔法の力があるのは家なのよ。この家は森に迷い込んで来た人間の望みを叶えて引き留めるの。甘い甘いお菓子の家よ」
「家を作ったのは『おじさん』なのかな?」
「さあね。30年に一度くらい訪ねて来るけど正体はさっぱりわからないわ」
30年と言ったのをまるで『3日』と言ったように感じた。僕の前でケーキを食べている魔女は落ち着いているがどう見ても二十代の若い女性だ。それにこの家はいつから存在するのだろう。一見洋館だけどレンガの外壁が途中で同じ色のタイルのなっていたり、ちぐはぐだ。
「こちらのケーキもおいしいわよ。……さん」
魔女が『僕の名前』を呼んだ。

アバター
2015/04/09 23:09
実は 『玲子』は女の子のイメージで書いてました。

言われてみるとはっきり女装子にしたほうが面白くなってたような。

『テル』 と呼ばれるのは地味な名前のほうがいいと思うものの思い付かず、
童話の女の子の方 (グレーテル) から取ったのです。
アバター
2015/04/09 02:19
不思議な話です
意外なオチ
女装子だったのですね
アバター
2015/04/07 17:41
ここにでてくる
お菓子の家が本体で
魔女はアバターのようなものと感じました
毎度奇抜なアイディアですね^^
アバター
2015/04/07 17:03
家族構成・性転換も思いのまま…
魔性の家
いったい対価はなんなのでしょう

アバター
2015/04/07 08:21
何でも望みが叶うおうち。不老不死さえも。
おばあちゃんが亡くなったのは……おうちが家主交代させたかったのか、
それともおばあちゃん自身の意志なのか……
おうちが人を選んでいる感じがしました。
神隠し的要素もあって、とても面白かったです^^
アバター
2015/04/06 21:22
「僕」の望みは何なのでしょうか?

家に魔力があると言う設定に唸りました^^
アバター
2015/04/06 19:09
↑ だから、四月キーワード一語を適当にぶちこんで、今月の作品として再提出しましょう^^



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