リザードマン討伐2 標的の変更
- カテゴリ:自作小説
- 2015/04/29 13:22:07
宿の入口から黒い服を着た紳士が二人、やって来る。
二人の紳士はほぼ同時に頭を下げて、下を向いたまま話し出した。
「お待ち申しておりました。王様、まことにお逢いできた事、心より感謝申し上げます。部屋は最高級のスゥートルームをこの日ために増築しました。どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」
「この者はわたしの給仕を担当する人間なの。この者の泊まる部屋も用意してくれるかしら」と、レティは言う。
「はい、王様。そう言う事でしたら1階に空き部屋がありますので、そちらを使って頂くよう手配します」と、まだ紳士たちは顔を上げない。
ボクはよく分からないまま紳士の1人に1階の空き部屋に案内され、宿泊代の事を聞くと「御代はいただけません」と、あっさり断られてしまった。
ボクはふかふかのベッドに横になり、頭を整理しようと思った。
都の北、トカゲ湖にいるリザードマンを討伐に来た・・・しかし、そこから来たという人魚の王様、レティ。そう言えば魔力のある人魚は足を人間の
足に変化させられると聞いた事がある・・・ここの黒服の紳士たちもそうだろう。そしてレティも・・・。まあ、今は服を乾かして、明日に備えるか。
明日はここのエリス市長たちと一緒に北のトカゲ湖に行くんだ。それでリザードマンを退治して終わりだ。寝よう、寝よう。
エリス邸にて・・・。
「市長、大変です」と、黒服を来た秘書が跪く。
「どうしたの?」と、市長エリスは銀髪をかきあげ、家の窓を開けた。
「女帝レティーシア・アヴァロニアが侵入しました」
「何ですって!そんな馬鹿な!港の名簿のチェックを怠るなとあれほど言っておいたでしょう」と、市長エリスは怒鳴る。
「そ・・・それが。北のトカゲ湖からやって来たのです。目撃者は多数います。わたしを含め」
「あっありえない。何を言っているの?あそこには300を超えるリザードマンがいるじゃないの。それに唯一の陸路である東の黒き森には氷の狼フェンリルがうじゃうじゃいるのよ。人間の通れる道なんて無いんだから!」と、市長エリスは怒鳴った。
「しかし、やって来たのです。リザードマンが漕ぐカヌーに乗って堂々とやって来たのです」
「・・・リザードマンが漕ぐカヌーですって・・・。そんなリザードマンは女帝の支配下にあるって言うの」
「それだけではありません。人魚たちの様子もおかしいのです」
「どうおかしいの?」
「人魚の涙が増築していたのはご存じの事と思います。その増築していた部屋に泊まっているのが・・・女帝です。まるで王のような扱いです」
「・・・・・・この日ために、彼女のために6カ月も前から部屋を造っていたというの。ありえないわ。そんな事、ばかげている・・・」
「市長、魔法使いギルドに依頼していた件、取り下げてはいかがでしょう」
「・・・リザードマンを討伐する事は女帝を敵に回す。かつ、人魚たちさえも敵に回す。そうね、取り下げましょう。代りに別の事を頼むわ」
「別の事と言われますと?」
「どうして1人で来たのか知らないけれど・・・飛んで火にいる何とやらよ。女帝様に喧嘩を売りましょう。人数は10対1・・・勝てない戦さじゃないでしょ」
「それはたしかに。こちらには市長エリス様を含め、2人の上級者がそろっております。その上、魔法使いを極めし者と呼ばれるセシル様もおられます。女帝を懲らしめる事が出来れば北のリザードマン、東のフェンリル、この地の人魚たちもわれらに従う事でしょう。そうなれば北の大商業都市カエサルとの貿易も現実味をおびてきます」
「ふふふ、天はわれに味方したのよ。これはチャンスだわ」と、市長エリスは胸の前でガッツポーズを取る。
「それでは変更の件、伝えてまいります」
「ええ、頼むわね」と、市長エリスは秘書が去るのを見てから窓を閉めた。
次の日、ボクは変更の報せを受けて宿を1人出た。集合場所の変更とある。人魚の操るカヌーに乗って行き先をサンクトゥス海岸と言えばわかる・・・と書いてあるので、その通り伝えた。降りる時に運賃もしっかり取られた。やはり、昨日は王様であるレティと一緒だったので特別待遇だったのだろう。
いい塩の匂いがする。石畳の道を少し歩くとすぐ砂浜だ。
砂浜を水平線を見ながら歩いて行くと、ボクを含め黒ずくめのローブを着たギルドのメンバーと緑のローブを着た市長エリスたちがいる。