自作小説倶楽部6月投稿
- カテゴリ：自作小説
- 2015/06/29 22:38:20
『二つの殺意』
紅実〈くみ〉のことをどう思うか？ 嫌な女よ。あんな女が双子の妹なんて、人生ついてないって本当に思うわ。子供の頃から自分に都合が悪いとすぐに泣くの。弱々しく母にすり寄って。生まれつきの才能ね。大人になるにつれて男にその手を使うようになったわ。ピンクの口紅に長い髪をカールさせて。仕事もナースってどこまでも男に媚びるつもりなの。私はとても真似出来なくて中学で陸上を始めて男の子みたいに短い髪で真っ黒に日焼け。紅実とはまったく違う人生を歩こうって努力したのよ。
それを彼が台無しにした？ いいえ、あんなつまらない男、外見が良かったから少し遊んだだけ。それを紅実が勝手に私の彼氏だと勘違いしたのよ。
彼は沢山の睡眠薬を飲んでいたんでしょう？ あの子、職場で少しずつ薬をごまかしては溜め込んでいたの。面白半分に他人に一服盛ったこともあったみたい。だから紅実がやったのよ。力がないからその後の犯行に時間がかかったの。
珠実〈たまみ〉のこと？ 大嫌いよ。３０分早く生まれだけであんな乱暴な男おんながあたしの姉なんて。口より先に手が出るの。子供の頃何度泣かされたかわからないわ。ずっと体育会系でもうどこまで女捨ててるのって感じ。
彼のこと？ あたしからじゃないわ。彼から誘って来たの。顔だけのつまらない男だったわ。珠実は夢中だったみたいだけど。
彼、ボコボコにされていたんでしょう？ やっぱりね。珠実のやりそうなことよ。あたしが薬を用意した？ とんでもない。珠実の交友関係をちゃんと調べてよ。怪しい人とよく遊んでいるわ。
「まったく何なんでしょうあの双子は、口を開けばお互いの悪口ばかり」
聴取を終えた若い刑事は疲れた顔でため息をついた。
「捜査を混乱させているんだろう」
黒衣の刑事は自分の手元に目をやったまま口を開いた。 机の上に赤いものを入れた大きな銀色のボウルを置き、さらに左右に置いた二つの白い皿に赤いものを一つ一つ摘んで移し替える。
「何やってるんですか？ 獏田さん」
「祖母がさくらんぼを送ってくれたんだけど、どうも熟れすぎでね。食べられそうなやつを分けている」
「その毒々しい赤はアメリカ産ですか？」
「いや、国産高級とラベルには書いてあった。そんなことより話を事件に戻そう。僕らは目撃証言と防犯カメラの映像から犯人は女一人で午後１時に被害者のマンションを訪問し、午後５時に立ち去ったという仮説からスタートした。しかし視点を変えて午後１時に訪問したのが紅実で午後５時に出て行ったのが珠実だとしたらどうだろう」
「どういう意味ですか？」
「いまどきカメラは常識だし、覗き趣味の隣人も想定内だよ。二人分のアリバイのために別々に目撃『させた』んだ」
「それじゃあ、あの二人は共犯ということになりますよ」
「その通りさ。被害者の周辺をよく知っているのは姉で薬や変装を用意出来るのが妹だ。共犯じゃなければ犯行は成立しない。妹の紅実が一服盛って被害者を昏睡させ、秘密ルートで現場を立ち去る。数時間後入れ替わった姉の珠実が秘密ルートを通って現場に入り、眠り込んでいる被害者を撲殺する。ほかに小細工や取り決めがあっただろうけど大まかにはそういうことだと思うね」
「あの二人は男のことだけじゃなくあらゆることでいがみ合っているんですよ」
「積極的にそうしていたんじゃないかな。比べられるのが嫌で」
「喧嘩は〈ふり〉で実は仲がいいというんですか？」
「喧嘩は本気さ。しかし被害者はやってはいけないことをした」
言いながら二つの実をつなぐ軸をつまみ上げる。
「この二つのさくらんぼのどちらが甘くて、どちらが赤いか食べ比べるみたいに二人を比較した。二人が殺意を抱くには十分さ」
一層高く吊り上げられた熟すぎの二つの実は軸から外れて落下した。机に衝突し二つとも潰れる。真っ赤な汁がそこにあった双子の少女の写真を濡らした。
若い刑事は声にならない悲鳴を上げた。
動機がそんな感じで完全犯罪にはならない
という意味でしょうか
大変興味深く拝見させていただきました＾＾
さくらんぼとの掛け合いも面白かったです。
事件そのものは無理かもしれませんが、この刑事さんシリーズで何本かは書けそうですね。
サスペンスのエッセンスが入りすごいと思いました
面白かったです
互いを嫌いあう双子の心理、なるほどです。
強いてネックになるとすれば秘密ルートを刑事がどう解明するかって事なのかな？
とても面白かったです。