カミサンの親戚のリーダー格で，
私をマザコンと言った話で先日のブログに登場した伯父が，
昨日亡くなりました。
マザコンの話はもっと前に書こうと用意していたのに，
実際に書いたのは先日で，書いた途端に亡くなるなんて，
何だか，伯父は私のブログに書かれるまで
死ぬのを待っていたような気がしてしまいます。

その伯父は，とっても話が上手な人で，
親戚が集まると いつも面白い話を喋り続けて，
親戚全員が深夜までゲラゲラ笑っていました。
私も，カミサンと結婚する前から親戚の集まりに呼ばれて，
いつもゲラゲラ笑って話を聞いていました。

伯父はそんな人ですから，結婚式のスピーチも随分頼まれたとのことで，
私たち若い親戚に，スピーチのコツを教えてくれたことがありました。
そして，ついでに，葬式の喪主の挨拶のコツまで教えてくれました。

最初に，葬式に来てくれたことへのお礼を言う。
それから，故人の元気な頃の様子や功績などを話す。
そして，病気や事故など，死に至る状況を話す。
この時，会葬者がホロリと泣けるエピソードを入れろ。
葬式に来る人は，喪主の挨拶で泣きたいものなんだ。
最後は，残された家族は力を合わせて生きていくという宣言だ。
…というような内容でした。

それを聞いた時，「なるほどね～」 とは思いましたが，
自分が喪主になることは 何十年も先まで無いだろうと思っていました。

しかし，その後，私は結婚し，長女が産まれ，死んで，喪主になりました。

告別式でお坊さんのお経を聞いている間，私は目をつむり，
あたかも娘の死を悲しんでいるかのような顔を作っていましたが，
頭の中では，その後の喪主の挨拶を考えていました。

経験のある方はお分かりでしょうが，喪主って，
決めるべきこと，やるべきことが たくさんあり過ぎて，
当日は悲しんでいる暇なんて無いんですよね。

出だしは，
「本日は，年末の大変お忙しい中，また，大変寒い中，
娘・なつみのために御会葬いただき，ありがとうございます」
という感じかな。
次に，娘は一見健康に見えたことを話して，
それから，しかし心臓が悪いことが判明したことを話して，
そして，順天堂医院で手術を受けるまでのことや，
手術に失敗した後も頑張り続けたことを話そう。
ここら辺が，泣けるポイントになるだろう。
そして最後に，私たち夫婦はこれからも頑張って生きていくので，
よろしく御指導いただきたいと締めくくればいいだろう。
…そんなことを考え，頭の中で何度も練習しました。

お経が終わり，棺に花を入れて蓋をして，
最後に，私から皆さんへの挨拶となりました。

何度も頭の中で練習したので，しくじることは無いはず。
実際，最初の会葬御礼部分は，落ち着いて滑らかに言えました。
病気発見より前の部分も，ここは悲しくも何ともない部分だから，
スラスラ言えるだろう。

ところが，「娘は一見健康に見えた」 と言おうとして
「娘は一見」 と言ったところで，声が出なくなりました。
突然，喉が，ソフトボールか何かが詰まったように苦しくなって，
全く声が出なくなりました。

自分でも驚いて，この後に何を言うつもりだったのかが分からなくなり，
やっと，「健康」 と言いたかったんだと思い出しても，
その言葉が，喉から出て来ない。
皆は，何が起こったのか分からず驚いて私を見ていて，
早く続きを言わなきゃと焦るのに，
「健康」 という言葉が，どうしても言えない。
言ってしまったら，泣いてしまいそうで，どうしても言えない。

長い沈黙の後，斜め後ろに立っていたカミサンが私の肘にそっと触れて，
小さな声で 「お父さんガンバレ」 と言いました。

それで，やっと，続きを言うことができました。

泣くポイントはもっと後のはずだったのに，
「健康」 という，ごく普通の言葉に，
私だけが激しく動揺していました。


伯父さん
あなたも娘の葬式に来てくれたけど，
下手な挨拶だと思ったでしょうね。（笑）
僕は伯父さんの葬式に行けないけど，
来週，千葉に帰って娘の墓参りに行った時に，
伯父さんもそっちに行ったから仲良くするようにって言っておきますね。