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中国「不沈空母」戦略にくさび、米国の決断

70年代から始まった中国の実効支配
 米国がようやく重い腰を上げた――。10月27日、米海軍は横須賀基地配備のイージス駆逐艦「ラッセン」を南シナ海に送り込んだ。中国が「領海」と主張し、他国海軍艦艇の航行を拒否しているスプラトリー(南沙)諸島の人工島12カイリ(約22キロ)の内側を航行し、哨戒活動を実施するためだ。中国の主張を拒否する姿勢を示すためで、沖縄・尖閣諸島に続いて南シナ海でも、国際秩序を破壊し、自国の海にしようと画策する中国との終わりの見えない長い戦いがはじまった。
 南シナ海では、1970年代に海底油田が見つかるなど豊富な天然資源の存在が明らかになると同時に、中国やベトナム、フィリピンなどの沿岸国の間で、岩礁などの領有権をめぐる対立が顕在化した。中国は74年と88年、ベトナムに対して軍事力を行使し、パラセル(西沙)諸島のウッディ・アイランド(永興島)などの実効支配を確立、その後は南シナ海に面した海南島に大規模な海軍基地を建設した。そして、チベット・ウイグル・台湾だった中国の核心的利益に南シナ海が加えられ、2012年には南シナ海のほぼ全域を管轄する三沙市を制定、海洋法執行機関に所属する「海警」など政府公船を使った警備活動が日常的に続けられている。
 その上、13年末ごろからは、スプラトリー諸島に点在する7か所の岩礁や満潮時に水没する暗礁で、周囲のサンゴ礁を大規模に破壊し、人工島を建設するといった暴挙に出た。南シナ海の島々に歴史的な権益を主張する中国は、自らも批准する「国連海洋法条約」を無視、もしくは都合よく解釈し、埋め立てて造った人工島を「領土」と主張、南シナ海の80%を占める海空域で主権を行使すると宣言している。

人工島を「不沈空母」に
 ずばり中国の目的は、南シナ海に不沈空母を造り上げることだ。人民解放軍の孫建国副総参謀長が今年5月、人工島の建設は軍事目的であると明言しているが、ベトナムから奪ったウッディ・アイランドを造成し、2700メートルの滑走路を持つ海空軍基地にしたように、すでに、7か所の人工島のうちファイアリー・クロス礁など3か所で、3000メートル級の滑走路の建設が確認されている。
 国産空母の建造を進めているのもその一環だが、米海軍のように空母を運用できるようになるには、まだまだ海軍としての技術も技量も未熟であり、何より莫大な予算が必要となる。それよりは岩礁を埋め立てて人工島を造った方が手っ取り早いという計算にほかならない。中国が台湾の統一をあきらめず、沖縄・南西諸島を重要視しているのも、第1列島線をバリケードに見立てて、海空軍の前線基地として活用するためだ。

航行のタイミングは「最後のチャンス」だった
 こうした中国の野望に対し、戦後の国際秩序を主導してきた米国は何をしていたのか。2010年7月、当時のクリントン米国務長官は、南シナ海問題に対して、航行の自由、アジアの海洋コモンズ(国際公共財)に対する自由なアクセス、南シナ海における国際法規の順守は米国の国益である――などと述べ、12年8月には、米国務省は声明を発表、「中国の三沙市の制定と南シナ海の紛争海域をカバーする警備区の設置は、紛争解決に向けての努力を阻害し、域内の緊張を激化させる危険がある」と警告している。
 いずれも中国政府は直ちに非難したが、オバマ大統領が対中政策でリーダーシップを発揮する場面はなかった。米国は衛星写真で人工島建設を把握していたはずだが、それを黙認し、昨年春にフィリピン政府がスプラトリー諸島で埋め立て工事が進む写真を公表した以降も有効な手立てを講じることはなかった。米国にとって中国は、1兆2000億ドルを超す米国債を保有して米国財政を支え、米航空機産業最大の輸出先であるなど経済的なつながりは深く、関係悪化を避けたかったからだ。こうしたオバマ政権の態度を、暗黙の了解と受け止めた中国が、人工島建設を加速させていったというのが実態だ。 しかし、このまま人工島の軍事拠点化が進めば、世界の原油タンカーのほぼ半分が通航し、世界貿易の大動脈となっている南シナ海を中国が支配することになる。航行の自由は脅かされ、日本を含め世界は国際公共財である自由な海を失う。遅きに失したとはいえ、米海軍が実行した「航行の自由作戦」は、国際社会が自由で平和な海を守ることのできる最後のチャンスと言ってもいい。

日豪など関係国に求められる知恵と勇気
 今回、イージス駆逐艦「ラッセン」は、3000メートル級の滑走路建設が進むスプラトリー諸島のスービ礁の12カイリ内を約5時間にわたって航行したという。スービ礁は暗礁で、たとえ埋め立てたとしても、国際法上、領海や領空を主張することはできない。航行の自由を示すには最適な場所だったと言える。
 だが、この作戦に終わりは見えない。南シナ海を核心的利益と主張する中国は、すぐさま米海軍の行動を「主権と海洋権益に対する意図的な挑発」と非難し、この先も人工島での滑走路建設などを中止することなどあり得ないからだ。せめて滑走路の建設が始まる前に航行の自由作戦が実行されていればと悔やまれるが、いずれ中国の前線基地となる人工島の軍事利用を抑制させ、さらなる人工島建設をストップさせることが、国際社会にとっての目標とならざるを得ないだろう。 東シナ海の尖閣諸島をめぐって日本は、中国の挑発や恫喝どうかつに屈せず、静かにプレゼンスを示し続けているが、南シナ海の場合、中国の主張は東シナ海以上に強硬であり、一時的にテンションが上がることも覚悟しなければならない。米国は航行の自由作戦を継続して中国に圧力をかけるほか、力による現状変更を認めない日本やオーストラリア、東南アジアの一部の国々は、静かにプレゼンスを示し続ける知恵と勇気が必要となる。

様々な挑発行為に注意せよ
 実は、「ラッセン」が南シナ海で作戦を実行する4日前の10月23日、海上自衛隊の2隻の護衛艦「すずなみ」と「まきなみ」が青森・大湊を出港した。ソマリア沖で続く海賊対処活動を引き継ぐためで、27日には、バシー海峡から南シナ海方面に向けて航行している予定だった。
 だが、2隻は予定を変更し、沖縄本島と宮古島間の海域で待機していた。「ラッセン」の近くを航行することで、中国との不要な摩擦を避けるためだが、米海軍の作戦に反発する中国政府が、尖閣諸島の北方海域に展開している海軍艦艇を、意図的に南西諸島の日本領海内に差し向け、挑発行為に及ぶことなども懸念されたからだとも見られている。幸い何事もなく、現在2隻はソマリア沖に向かっているが、今後は日米の連携を分断する狙いから、様々な挑発行為も想定しておかなければならない。私たちは、中国の南シナ海と東シナ海での動きが連動していることを、きちんと認識しておく必要がある。

http://www.yomiuri.co.jp/matome/archive/20151030-OYT8T50127.html

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