ISISへの武器密輸で儲けるヤミ商人
- カテゴリ:ニュース
- 2015/12/02 20:42:42
1年前の、シリア東部のとある町でのこと。イラク・シリアのイスラム国(ISIS)と戦う反政府勢力に武器を売る商人として知られていたアブ・アリは、2人のISIS戦闘員がピックアップトラックを降りて自分の方に歩いてきたとき、自分の人生はもうすぐ終わると確信した。
しかし、戦闘員たちが差し出したのは1枚の紙切れで、そこにはこう書かれていた。「この人物に、イスラム国にてあらゆる種類の武器を売買することを許可する」
アブ・アリは当時を振り返って言った。「『モスル・センター』というスタンプまで押してあった」
昨年、ジハード(聖戦)主義を掲げるISISがこの地域になだれ込んでくると、アブ・アリのようなヤミ市場の商人の多くは、捕らえられるか追放されると恐れおののいたが、ISISは逆に言い寄ってきた。そして商人たちは、世界で最も裕福なジハード主義者集団の需給システムに取り込まれた。シリアの半分とイラクの3分の1にまたがる自称カリフ制国家の全土で武器と弾薬が尽きないようにしているシステムだ。
「連中は狂ったように買っている。毎日ね」とアブ・アリは言う。ISISの支配地域で活動しているほかの人々と同様に、彼も自分の本名は出さないよう頼んできだ。
ISISは2014年の夏にイラク第2の都市モスルを占領した際、数億ドル相当の武器を獲得した。それ以降も、戦うたびに武器を手に入れている。今やその武器庫には、イラク陸軍から奪った米国製のエイブラムス戦車やM16ライフル、口径40ミリのMK-19自動擲弾(てきだん)銃などのほか、シリア軍から取り上げたロシア製のM-46 130ミリ野戦砲までそろっている。
戦闘に欠かせない大量の弾薬
しかし、ISISにはまだ必要なものが1つあると商人たちは口をそろえる。弾薬である。特に需要が多いのは、カラシニコフ銃、中口径の機関銃、そして口径14.5ミリと12.5ミリの高射砲で使う弾薬だ。ロケット推進擲弾や狙撃ライフル弾も買っている。
ISISによる数百万ドル規模の軍需品取引が合計でいくらになるか、正確に計算するのは難しい。シリア東部の都市デリゾール近郊の前線で今年発生した戦闘では、少なくとも1カ月当たり100万ドル相当の軍需品が必要だったと戦闘員や武器商人たちは語っている。また、昨年12月に近くの空港を1週間攻撃したときにも別途100万ドルの弾薬が必要になったという。
ISISの弾薬需要はその戦術を反映している。ISISは、進軍・退却時にはトラック爆弾、自爆ベスト、即席で作る爆発物などを多用している。だがその間の戦いにおいてはカラシニコフ銃とトラックに据え付けた機関銃が主に使われ、たった1日で数万発を消費することもあり得る。戦闘員らの話によれば、各地の前線に弾薬をトラックで毎日補給しているという。
ISISは複雑な物流網を運営している。戦闘員らによれば、非常に重要な物流網であるため、ISIS最高指導部に属する高等軍事評議会が直接取り仕切っているという。この団体の主たる収入源である原油取引と同様な管理方法だ。
ISISにとって最良の弾薬供給源は敵軍だ。イラク政府側の民兵が軍需品の一部をヤミ商人に流し、それがISIS系の商人に転売されるのだ。
ISISの戦闘員が最も依存しているのは、シリアでの三つどもえの戦い――バシャル・アル・アサド大統領の軍隊、反政府勢力、そしてISISによる争い――の敵軍だ。ここで重要な役割を担うのが、シリアの武器商人たちだ。アブ・アリはISISとの取引の誘いから逃げ出したが、ベテランのヤミ商人であるアブ・オマールはこの商売に飛びついた。
「我々は体制側からも、イラクからも、反政府勢力からも仕入れることができる。イスラエルから仕入れることができるとしても、彼らは気にしないだろう。武器さえ手に入ればいいんだ」とアブ・オマールは言う。
トルコ国内のバーでウイスキーを飲みながら、アブ・オマールはISISのために兵器を密輸したこの1年を振り返ってくれた。まず、ISISの治安部門のメンバー2人から承認された武器商人に対し、スタンプを押したIDカードを司令官が発行する。そして、ISISしか顧客にしない場合に限り自由に移動して商売に励んでもよい、と告げるのだという。
敵も舌を巻く迅速な輸送体制
ISISの敵方は、ISISが戦闘中に大量の軍需品を迅速に輸送できることに舌を巻いている。イラク北部でクルド人自治区の軍事組織ペシュメルガが見つけた書類には、終わったばかりの戦闘で使われた武器と弾薬の注文内容を記した納品書が混ざっていた。
「弾薬は(注文から)24時間以内に送られてきていた。車でね」。イラクのある治安関係者はそう語った。
兵士や商人たちは、このスピードの速さはISISの通信システムのおかげだと話している。イラクにある最高軍事評議会から任命された移動「委員会」が兵器の「センター」と絶えず連絡を取り、センターが現場の司令官たちからの依頼を受け付ける。司令官とセンターの交信が敵の無線電話で聞こえることも時折ある。
クルドのペシュメルガはイラクとシリアの国境地帯からISISの周波数に合わせ、戦闘員らが「ケバブ」や「チキンティッカ」「サラダ」をくれと叫ぶ様子を聴いている。「ケバブは恐らく重機関銃のことだ」とアブ・アハマドは言う。彼はシリア東部出身の反政府勢力の司令官で、今夏トルコに逃げるまでISISの下で戦っていた。「サラダはカラシニコフの銃弾だろう。炸裂弾もあれば、貫通弾もある。一種のミックスだ。ちょうどサラダみたいにね」と笑う。
アブ・オマールは対話アプリのワッツアップを使ってセンターに連絡していたと言う。
数日に1度、移動委員会が最も需要の大きい弾丸と擲弾についてセンターが利用する価格表を出す。
そしてアブ・オマールが報告していた拠点が彼に改定価格を携帯メールで知らせてくる。ディーラーたちによれば、手数料は10%から20%だという。
米国の支援を受けた有志連合がISISをトルコ国境から遠くへ追いやり、潜在的な補給ルートが制限されるようになったため、価格が上昇しているとアブ・アハマドは言う。あるディーラーは、競争を活発にして価格を引き下げるためにISISが免許の発行を増やしたと不満をこぼす。
最大の供給源はシリア
大半の弾薬は、今や地域全体にとって武器の供給源になっているシリアから来る。ペルシャ湾岸の支援国は、それぞれお気に入りの反政府勢力にトラック何台分もの武器弾薬をトルコ国境経由で送っている。腐敗した戦闘員はその一部を地元ディーラーに横流しする。国境地帯のイドリブ県、アレッポ県が今、最大のヤミ市場になっていると地元住民は話している。
アブ・アハマドは言う。「一部(のディーラー)はISISを憎んでさえいる。だが、利益を得るという話になれば、そんなことは関係ない」
ロシア政府とイラン政府からアサド大統領に送られた武器や弾薬が、もう1つの大きな供給源だ。「彼らはロシア製品が好きですよ」とアブ・オマールは話している。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45413