中国が人工島に建設した滑走路、爆撃機も使用可能に
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- 2016/01/14 20:20:54
今年(2016年)の正月早々、1月2日、中国は南沙諸島(スプラトリー諸島)のファイアリークロス礁(永暑礁)に建設していた滑走路に“民間機”を着陸させるテストフライトを行った。
それに引き続いて6日には、海南島の海口美蘭国際空港を飛び立った民間旅客機(中国政府借り上げ)2機がおよそ2時間後にファイアリークロス礁滑走路に着陸した。6日のフライトの模様は多数の写真で公開された。
中国当局によると、2日に実施した民間機着陸は、建設を完了した滑走路の強度などをテストするための文字通りのテストフライトであったという。そして6日のフライトは、地上管制塔と交信しながら旅客機が飛行場に着陸したものであり、テストフライトとは性格が違うものであるとコメントしている。要するに、フィアリークロス滑走路の運用は実質的に開始されたということなのであろう。
あっという間に誕生した人工島航空拠点
中国が南沙諸島に人工島の建設を開始したのが確認されたのは2014年初頭であった。そして本コラム(「着々と進む人工島の建設、いよいよ南シナ海を手に入れる中国」2014年6月26日)でも取り上げたように、その当時の情報ではファイアリークロス礁を埋め立てて人工島を建設する計画が確認されたといった段階であった。
それが1年と経たないうちに、7つもの環礁で人工島建設や埋め立て作業が進展しているだけでなく、ファイアリークロス礁には3000メートル級と思われる滑走路の建設が開始されている状況が確認された(本コラム「もうどの国にも止められない中国の人工島建設」2015年4月23日)。そして2015年秋には、ファイアリークロス礁、スービ礁、ミスチーフ礁にそれぞれ3000メートル級滑走路が出現しつつある状況に立ち至った(本コラム「人工島に軍用滑走路出現、南シナ海が中国の手中に」2015年9月24日)。
このようにファイアリークロス礁を人工島に改造して軍事拠点を建設する計画が明らかになってからわずか2年も経たないうちに、3000メートル級滑走路が運用可能な状態へと進展してしまったのである。
本コラムで繰り返し取り上げてきたように、南沙諸島では、中国が急造した少なくとも7カ所の人工島による人民解放軍基地群が機能し始めることが確実になったといえよう。
爆撃機の拠点を確保した中国軍
米海軍の航空専門家たちによると、ファイアリークロス礁の滑走路に旅客機が問題なく着陸したことにより、戦闘機はもちろんのこと爆撃機の運用も保証されたということである。
ファイアリークロス滑走路に着陸したエアバスA-319の重量は16万ポンドで、必要な滑走路は7100フィート。ボーイングB737-300/400型の重量は15万ポンドでA-319と同じ滑走路が必要となる。そしてボーイングB737-700/800型の重量は18万ポンドで9800フィートの滑走路が必要である。
それに対して、アメリカ軍にとって最も関心がある中国人民解放軍の轟炸6型(H-6)爆撃機の重量はおよそ17万ポンドで、必要な滑走路の長さは9000フィート以下である。そして2本の主脚にはそれぞれ4輪のタイヤが装着されている。
したがって、ファイアリークロス礁滑走路に降り立った民間旅客機の機体重量などの条件を考えると、10252フィート(3125メートル)の長さがあり、A-319やB-737が問題なく着陸・離陸したファイアリークロス礁滑走路をH-6爆撃機が使用することには、全く支障がないことになる。つまり中国は、戦闘機や偵察機や小型輸送機だけでなく爆撃機や大型輸送機それに大型旅客機までもが発着可能な航空拠点(軍事拠点)を南沙諸島に確保したのである。
爆撃機の運用拠点を南沙諸島に確保したことによって、中国人民解放軍は南シナ海全域のみならずオーストラリア北西沿岸までを攻撃可能圏内に収めることになった。このため、日本に原油や天然ガスを送り込む各種タンカーが航行する南シナ海を縦貫する「シーレーン」はもとより、南シナ海での脅威を避けて西太平洋に回り込む「迂回航路」も、中国軍爆撃機や戦闘攻撃機の脅威にさらされることが確実になってしまったのだ。
一気にライバルに差をつけた3000メートル級滑走路
3000メートル級滑走路を備えたファイアリークロス礁人工島が完成するまで、中国当局は「南シナ海の大部分(九段線で囲まれた海域)は中国の海洋国土である」と主張していたものの、航空施設は保有していなかった。
一方、中国とともに南沙諸島の領有権を主張しているベトナム、フィリピン、マレーシアそして台湾は、それぞれ南沙諸島に小規模ながらも航空施設を保有してきていた。そのため、南沙諸島をめぐる領有権紛争において、中国は陸上航空施設を保有していないというマイナス要因を抱えていたのである。
南沙諸島におけるベトナムのスプラトリー島滑走路は550メートル、台湾の太平島滑走路は1200メートル(台湾軍C-130輸送機が使用)、フィリピンのパグアサ島滑走路は1300メートル(未舗装)、マレーシアのスワロー礁滑走路は1367メートル(中強度舗装)と、いずれも比較的短い滑走路である。それらに対して、一気に3000メートル級滑走路を誕生させた中国は、航空施設の面でも完全に優位に立った。
そして、ファイアリークロス礁に加えてスービ礁とミスチーフ礁にも3000メートル級滑走路が誕生し、その他の4つの人工島にも小型の滑走路あるいはヘリポートが姿を現す日が近い。
滑走路の数や長さだけでなく、中国航空戦力に対して、ベトナムやマレーシアの航空戦力は質量ともに圧倒的に劣勢である。ようやく旧式戦闘機を入手する運びとなったフィリピンに至っては、中国から見れば航空戦力はゼロに近い。台湾軍は、太平島にC-130輸送機を送り込んでおり、戦闘機を展開させる事も理論的には可能であるが、中国海軍や空軍が目を光らせる南シナ海の真っ只中の1500キロメートル以上も離れた孤島に少数の戦闘機を配置しても戦略的価値が見出せない。まして、直近の数カ所の環礁に、中国軍が3つも3000メートル級滑走路を手にしてしまったならば、これらの国々が軍事的に中国に対抗することは不可能となってしまうのである。
名実ともに南沙諸島を支配する中国
中国は滑走路をはじめとする航空施設だけではなく、ファイアリークロス礁やサウスジョンソン礁などに大型軍艦の着艦が可能な港湾施設の建設も進めている。また、ミスチーフ礁には潜水艦基地の建設が始められたという情報も伝えられている。
このように、中国人民解放軍の航空戦力や海軍戦力が拠点として使用可能な南沙諸島基地群が近い将来に現実のものとなることは確実である。
その暁には、周辺諸国がどのような論理に依って立って中国による南シナ海支配に対抗しようとも、アメリカや日本が異を唱えようとも、南沙諸島周辺海域、そして南シナ海の大半の海域は中国の軍事的コントロール下に置かれることになってしまうのだ。
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