輸出ブームに沸くフランス防衛産業
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- 2016/01/27 02:15:47
牽引役はラファール戦闘機、外国からの受注が1年で倍増
フランソワ・オランド大統領は、低迷しているフランス経済の再生にはほとんど成功しなかったかもしれないが、大統領の社会党政権は、海外との取引を渇望するフランス防衛産業の有能なロビイストになっている。
政府によれば、フランスの防衛産業は昨年、国家の助力もあって外国から計160億ユーロという記録的な規模の受注を獲得した。巡航ミサイル、戦闘機、戦艦がその主なところだ。
ダッソー・アビアシオン、DCNS、MBDA、サフラン、タレス、そしてそれらを支える多数の下請け企業は、この輸出から恩恵を享受している。
オランド政権下で受注急増、人員採用も再開
世界金融危機の後に西側諸国の政府が軍事費を削減したことから、フランスの防衛産業は厳しい状況に数年間置かれていたが、ここに来て人員の採用を再開している。従業員数を2015年の水準より20%増やす計画で、下請け企業までカバーした政府の試算によれば、計画通りに進むと2018年までに防衛産業の雇用者数は20万人に増えるという。
2015年の外国からの受注額は、過去最高だった2014年の実績の2倍に相当する。オランド氏が大統領に就任した2012年、外国からの受注額は47億ユーロだった。
受注で最も重要なのは、ダッソーが開発して28年になる戦闘機「ラファール」だ。開発に400億ユーロ超の資金を要したものの、2015年まで輸出注文が1件もなかった機種である。フランスは昨年、ラファール戦闘機の販売契約をエジプトおよびカタールと交わした。両国はそれぞれ24機購入することに同意している。
「オランド政権下で、防衛産業の受注件数が大きく変化している。最大の要因はジェット戦闘機の売り上げだ」。IHSジェーンズのアナリスト、ベン・ムーアズ氏はこう指摘する。「おかげで業界全体が恩恵を享受している」
エジプトおよびカタールと交わしたラファール戦闘機の契約には、MBDA製ミサイルの売却も含まれていた。MBDAは、フランスのトゥールーズに本社を構える欧州の航空機製造会社エアバスなどが参加する企業連合だ。MBDAの製品の少なくともいくつかは、ラファール戦闘機で使われる空対空ミサイル「MICA」だと考えられる。エジプトも、DCNS製のFREMM(汎用)フリゲート艦1隻の購入に同意した。
オランド大統領は25日、ラファール戦闘機をインドに販売する取引の最終合意に向けて、インド訪問中に一定の前進があったことを明らかにした。インドは既に36機の購入を決めて合意書にも署名しているが、金銭面でまだ詰めるべき項目が残っていると両国は話していた。この取引は約50億ユーロの規模になる見通しだが、2012年に初めて提案された当時のそれを大幅に下回ることになる。インドは当時、126機の購入を検討していると話していた。
インドのナレンドラ・モディ首相は昨年4月にフランスを訪れた際、36機の購入を発表したが、価格やそのほかの問題を巡って交渉が続いている。
このインドとの取引は、防衛産業の大部分にとって勝利となる。フランスの防衛関連エレクトロニクス企業であるタレスと、航空機エンジンメーカーのサフランは、ラファール戦闘機輸出プログラムの主要サプライヤーであり、そのほかにも規模の比較的小さな企業が約500社関与しているからだ。
この取引は、形勢を大きく変える可能性も秘めている。なぜなら、これによりダッソーはラファールの生産を月間1機から同3機に増やせるからだ。
社会党政権という有力ロビイスト、政治や中東情勢も追い風
フランス防衛産業の関係者らによると、輸出の成功は社会党政権の努力のおかげでもある。特に称賛されているのは、複雑な取引を監督するジャン・イヴ・ルドリアン国防相だ。
DCNSの戦略担当ディレクター、アンドレアス・ローウェンスタイン氏によれば、フランスには実戦での実績があるシステムを備えた成熟した防衛産業があるが、それでも「ルドリアン氏が国際市場で絶大な信用を得ていることは疑いの余地がない」という。
アナリストの中には、フランスによる最近の武器輸出の成功は政治の助けによる部分もあるとの指摘がある。例えば、昨年行われたイランと主要国との核協議にフランスが強硬姿勢で臨んだことは、アラブ諸国で好感されることに役立ったという。
中東情勢が不透明なことも寄与した可能性がある。昨年の受注額160億ユーロのうち130億ユーロは中東からの注文なのだ。
例えばレバノンは昨年、MBDA対戦車ミサイル48基の引き渡しを受けた。これは、中東でのイランの影響力を懸念するサウジアラビアが資金を出した、計30億ドルの契約の一部だ。
近年の防衛産業の受注増加は必ずしもすべてのフランス防衛企業の将来展望を変えるわけではないとアナリストらは言う。
例えば、ダッソーはビジネスジェット機「ファルコン」の需要減少に苦しめられている。
サフランの将来は、エアバスとボーイングが建造するジェット旅客機向けの新型エンジン「LEAP」の生産を増やす能力に左右される。
ジェット旅客機の受注が減速している証拠が積み上がるなか、フランス防衛産業の力強い輸出が持続し得ることを示す兆候もある。フランス国防省は、2016年にさらに160億ユーロ相当の受注を勝ち取れると予想している。
今年はエアバス製のヘリコプター「カラカル」をポーランドとクウェートに売ることが見込まれる一方、アラブ首長国連邦(UAE)との間では、ラファール60機の購入に関して協議が行われている。DCNSは、オーストラリアでの潜水艦生産を含め、幅広い契約を勝ち取ることに期待を寄せている。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45892