Nicotto Town



自作小説倶楽部1月投稿

『悪友』
二枚田とは幼馴染です。悪友というんでしょうか。子供のころから悪戯をしてはよく大人に叱られました。でも、私が企んだことはないはずです。近所の柿を盗んで大目玉喰らった時だって、私がおいしそうに赤くなっていく柿を眺めていたら。アイツが「あれくらいならミっちゃんのうちの物干し竿で取れるよ」って言いました。ミっちゃんは私のことです。それでつい試してみたくなり、上手く柿を取れたのにあっさり捕まってしまいました。私だけ。実行犯は確かに私だから仕方ないとはいえ子供心に釈然としないものがありました。いつも二枚田が企むとどういうわけが私が実行してしまうんです。二枚田の舌に何か私を操る魔力でもあるみたいでした。決定的だったのが中学校で好きな女の子とお近づきになる方法でした。彼女の自転車のタイヤの空気を抜いておいて、彼女が自転車に乗ろうとして困っているところに声を掛けるんです。考えたのはもちろん二枚田です。でも自転車に細工しているところをほかの女子に目撃され、結果、クラスどころか全校の女子に総スカンを喰らいました。共犯のはずの二枚田は完全にシラを切って知らんぷりしていたのでついに絶交したんです。
再会したのは大みそかの夜でした。
世間が正月休みだっていうのに夜まで仕事で狭いアパートには誰もいない。虚しくって家に帰る気がしませんでした。だから二枚田を警戒していたのに呑みに誘われるとつい付いて行ってしまったんです。呑んでいるうちにいい歳なんだから昔のことでくよくよするのはやめようとも思いました。アイツの髪の毛が後退していたせいあるかな。面影はあっても、お互い変わったなあと実感しました。
ところがね。もう一軒行こうって、呑み屋を出て一区画くらい歩いたところで二枚田が急に道の端に寄って私を引き寄せた。どうしたのかと思ったら建物から出て来た女を指さした。
あの女、以前勤めてたキャバクラで客に金を借りてドロンしたんだ。俺も被害者の一人」
女の顔を改めて盗み見ると確かに男が何人も手玉に取られそうなほど色っぽい笑みを浮かべていました。毛皮から綺麗な脚が見えました。
「畜生、なあ、あいつらのおせちを盗まないか?」
二枚田に言われて初めて女の隣に痩せたスーツ姿の男がおせちを包んだらしい紫色の風呂敷包みを手に提げて立っているのに気が付きました。あんな貧相な奴があんないい女と年越しか、と見ず知らずの男に嫉妬したんです。石を投げるより何か盗んで二人の楽しみをぶち壊す方が確実だとたちまち二枚田に同意しました。
あくまで共犯、二枚田が酔ったふりをして男にぶつかる。私がおせちを奪って走る。近くの公園で落ち合うという手順でした。二枚田のスタートはかなり勢いがよかったようで、あっと思った時はぶつかるというより男に突進していました。男と二枚田が倒れる、女の悲鳴、しかし風呂敷包みはあっさりと私の手に入り、私は全速力で走っていました。

二枚田とはそれっきりです。

待ち合わせた公園には来ませんでした。お互いの携帯番号を教えてなかったから連絡の取りようもありません。実家の母に電話してみて初めて二枚田が詐欺を働いて故郷に居られなくなり失踪していたことを知りました。
重箱の中身をいつ知ったのかって? ええと、重箱を盗んだ翌日です。正月。食べる気もなかったけど中身が腐ると思って。まさか、食べ物じゃない変なものが入っているなんて思ってもみませんでした。すいません。でも、わけがわからなかったけど怖くなって。いえ、あの、もう何も隠してませんし、男の顔なんて覚えてません。勘弁してください刑事さん。

 

「新年早々、大忙しなんだって? 」
「そうなんですよ。空き地に不法投棄されてた重箱から溶け残った覚せい剤が発見されて。捨てた男はまだ取調室で絞られてますよ。悪戯がとんだことになったものですね。そのままだったら末端価格いくらぐらいあったんだろう」
「悪戯なのかなあ」
今年も変わらす黒スーツの刑事は福袋で手に入れたマグカップでコーヒーを啜った。
「二枚田は詐欺で故郷を追われたんだろう。幼馴染がどのくらい故郷と連絡を取っているのかわからないけど、知らなかったのならそう古い話のはずはないよ。夜逃げして極上美人のキャバ嬢と親しくなるだけの金と時間があったのか。もしかすると二枚田は最初から重箱の中身が覚せい剤だと知っていたのかもしれないな」
「そんな馬鹿な。覚せい剤を盗む目的だとしてもわざわざ幼馴染を巻き込むことなんてありえない」
「そこは悪縁としかいいようがないな。でも、二枚田が大みそかに通りすがりの他人におごるから呑みに行こうと何度も誘っていたとすれば間違いないよ」
「じゃあ早速、報告して聞き込みに行きましょう」
若い刑事は勢いよく立ち上がって相棒に声を掛ける。 
「え? なんで僕が? 」
「人手が足りないからに決まってるじゃないですか。二枚田の行方も分からないし」 
「今話したことは冗談だよ。忘れてくれたまえ」 
もちろん忘れられることはなく黒衣の刑事は後輩に引きずられて行った。
 

アバター
2016/02/07 15:20
さいごの刑事二人がいいですにゃあ^^
アバター
2016/02/02 23:26
主人公さんは、人がいいのだろうなあと思いました
オチもなかなか素敵^^
アバター
2016/02/02 22:58
今回も貧乏クジをひくんじゃないか思いつつ、なぜか人のいうことを聞いちゃう人、いますいます。
さりげなく刑事さんたちの事件簿っぽくシリーズ化してるのが楽しいです^^

アバター
2016/02/02 19:58
最後にいつもの刑事さんがでてきてどんでん返しを決めますね
いけてます
アバター
2016/02/01 22:21
二枚田の消息がとても気になる。

知ってか知らずかとんでもないものを・・・
アバター
2016/01/31 21:54
季節お題「おせち」のつもりで書いたのですが、フリーが「自転車」だったんですね。。
自転車のエピソードは『ばれなかったけど好きな女の子の自転車のタイヤの空気を抜いて・・』という他人の話を思い出したからです・



月別アーカイブ

2024

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009


Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.