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横須賀に2隻目の空母を配備したい米国

アメリカ海軍は2016年2月時点で10隻の航空母艦を運用している。それらのうちの5隻が太平洋艦隊に所属しており、2隻がサンディエゴ、1隻がエバレット、1隻がブレマートン、そして1隻が神奈川県・横須賀を母港にしている。

米海軍空母10隻のうち、横須賀に配置されている1隻だけが“外国”に母港があり「前方展開空母」と呼ばれている。ちなみに横須賀を母港にする空母は、やはり横須賀を本拠地にする第7艦隊の指揮下に入ることとなる。

このほど、アメリカの民間シンクタンクによる米軍のアジア太平洋戦略に関する検証レポートが、「前方展開空母を2隻に増加するべきかどうか」に関して言及した。アメリカ連邦議会が公聴会を開いてこの問題を取り上げたことをきっかけに、アメリカ海軍関係者の間で突っ込んだ議論が始まった。

中国海軍の本格的空母出現に備える

前方展開空母を1隻でから2隻に増やそうというアイデアが浮上したのには2つの理由がある。

第1の理由は、中国海軍が近々手にする“本格的”空母に対抗するためである。

現在、中国海軍が運用しているのは訓練用空母「遼寧」であるが、これに加えて“本格的”な空母2隻の建造に取り掛かっている。それらの1番艦は2018年頃に、そして2番艦は2020年頃に、中国海軍のラインナップに加わるものと考えられている。

したがって、アジア重視政策を打ち出しているアメリカとしては目に見える形での海軍力増強、それも中国海軍の“本格的”空母出現に対抗するポーズを示すためにも、前方展開空母戦力を増強しようというのである。

より深刻な理由~形になりつつあるA2/AD戦略

第2の理由、そして軍事的にはより深刻な理由は、中国の「接近阻止領域拒否」(A2/AD)戦略にアメリカ側が大いなる脅威を覚えてきた(少なくとも、極めて強い警戒感を抱いてきた)からである。

中国人民解放軍が実施中のA2/AD戦略とは、大雑把にまとめると、中国沿岸そして将来的には第1列島線(日本列島~南西諸島~台湾~フィリピン諸島)にアメリカ軍戦力を接近させないとともに、アメリカ軍が東シナ海や南シナ海そして将来的には西太平洋で自由に作戦行動ができないようにするための戦略である。

海軍力でアメリカ軍に大きく遅れを取っていた中国軍は、中国沿岸や沿岸域の艦艇・航空機から発射する様々な長射程ミサイルの開発に努力を傾注してきた。その結果、海軍力そのものでアメリカに対抗できるレベルにはまだ達していないものの、アメリカ軍艦や航空機が中国沿岸に接近することを阻止できるだけの各種長射程ミサイルをずらりと取り揃えるに至った。

それらの強力なミサイル戦力と近代化がめざましい航空戦力や海軍戦力によって、米中が軍事的に険悪な状態に陥った際には、東シナ海や南シナ海で、アメリカ海軍によって身動きが取れなくなるような事態を避けられる“拒否能力”も中国海軍は手にしつつある。アメリカ軍関係機関や、民間シンクタンクの多くのアナリストたちはその状況を危惧するようになった。

しかしながら、極めて弱小な海軍力と空軍力しか保持しないフィリピンにそのような期待をかけることはできない。また、安倍政権は安全保障法制を刷新し、憲法改正も口にしているものの、国防予算の増額は微小に止まっており、とても中国のA2/AD戦略に立ち向かう力はない。


容易ではない「前方展開空母」の増強

空母打撃群は基本的には空母1隻、空母に積載される各種艦載機、攻撃原潜1隻、巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、戦闘補給艦1隻で編成される。つまり、空母を1隻増強するには、その他の空母打撃群を編成する艦艇と航空機も同時に増やさなければならないのだ。

空母に積載される艦載機は作戦によって種類と機数は様々であるが、空母に積載されて出動する期間以外は陸上の航空基地を本拠地としている。現在、横須賀を母港としているロナルドレーガンに積載される航空機は、厚木海軍飛行場を本拠地とする第5空母航空団(CVW-5)から供給される。そして、空母と空母航空団は1対1対応しており、空母1隻を前方展開(海外の港に常駐)させるということは、その空母と対応している空母航空団も海外の飛行場に常駐させることを意味している。

もし、現在横須賀を母港としている前方展開空母1隻を増強して2隻にするといっても、新たに空母1隻を横須賀に持って来れば目標が達せられるわけではない。そのような場合には、現在横須賀を母港にしている巡洋艦や駆逐艦それに補給艦なども倍増されることになるだけでなく、厚木海軍飛行場にも現在のCVW-5の倍の各種航空機が常駐することになるのだ。

次に、増強される空母艦隊や空母航空団の将兵やその家族の住居を確保するという難問も生じる。

さらに難しいハードルは、外国にアメリカ軍が駐屯する際の常として、受け入れ先との軋轢という問題である。実際に、そのような軋轢によって、CVW-5は現在の本拠地である厚木海軍飛行場から岩国海兵隊飛行場に移転することになっている。

このような乗り越えなければならない条件、とりわけ地元との軋轢(要するに“基地問題”)を考えると、横須賀がもう1隻の空母の母港となる(ならびに厚木あるいは岩国に2つめの空母航空団が常駐する)ことは極めて困難ということになる。


「それではどこに配置するのだ?」

そこで、アメリカ海軍関係者たちの間では「2隻目の前方展開空母をどこに配置するのか?」という議論が本格的に開始された。もちろん、ディベートが始められたばかりなので、この先どのようにこのアイデアが進んでいくかは分からない。

ある者たちは「韓国の釜山に展開させて、日米韓の連携を強化させては?」と主張している。別の人々は「かつて米海軍が大きな基地を構えていたフィリピンのスービック軍港に展開させて空母航空団もキュービ飛行場に常駐させれば南シナ海への睨みが強化される」と主張している。しかし、フィリピンにアメリカ軍が駐屯していた時期の事情を知っている現在の海軍首脳たちの多くは、フィリピンにおける政治的問題点や地元との軋轢の記憶を拭い去ることができず、スービック案には強く抵抗している。

別の人々は「オーストラリアのパースを母港にすれば、今後中国海軍とのにらみ合いが深刻化するインド洋への出動が便利になるだけでなく、南シナ海にもそれほど遠くはない」と主張している。

また、ある一派の人々は「横須賀や岩国、そして沖縄のように、外国に軍港や飛行場を確保し維持することは苦労が大きすぎる。グアムならばそのような外国政府との煩雑な交渉や、文化が違う現地の人々との軋轢、などに悩ませられなくて済む」とグアムへの配置を推進しようとしている。

しかし、「これまで長年にわたってアメリカ空母が母港にしてきているという実績や、空母に対する整備能力の高さを考えると、やはり横須賀がベターだ。政治的問題や、環境への影響などの問題は、日本だけでなくオーストラリアでもフィリピンでも、そしてグアムでも生じている問題だ」と日本案を維持しようとする人々も少なくない。

中国のA2/AD戦略の“快進撃”に伴って、日米間には新たな“基地問題”が生ずる日が近いかもしれない。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46013

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