好きな5冊 (最愛のレム)
- カテゴリ:小説/詩
- 2016/03/06 19:12:24
1、泰平ヨンの航星日記/回想記
宇宙版ほらふき男爵と称されることの多いこの作品はレムの全てが詰まっています。
人間(というよりは文明)への嘲笑と絶望に彩られている。救いなきスラップスティック。
私の好みは回想記の最後、情報が臨界質量を持つとしたら……という話。
2、ミスタージョーンズ、きみは生きているか?
今読もうとすると入手はかなり困難な短編。これを私は8歳のときに読んだ。
よくもまあ、子供向けのSFシリーズに入れたものである。編集者エライ。
実存とは何か、生命と非生命とは何かを考える。意味がないことに気づく名作。
3、ゴーレムⅩⅣ
米軍の戦略システムから生まれたスーパー電算機が人類に説教を垂れまくる話。
どっちに進んでも救いがないことを物凄く緻密な論理で論証する部分が圧巻。
知性というものの究極はこうなるのだろうと思う。生命と知性は相容れないのかも。
4、大失敗
最後の(アンチ)カタルシスは予想できたけど、やはり凄い衝撃。
『コミュニケーションは原理的に不可能である』という彼のテーゼが存分に発揮されている。
また、妙に詩情漂う雰囲気も味わい深い。神話的な逸品です。
5、宇宙創世記ロボットの旅
全知万能(ただしマヌケ)の2体のロボットが宇宙を飛び回り各星系の問題を解決する。
抱腹絶倒のエセ学問がとにかく素晴らしい。竜に関する学位なんて大爆笑。
ゼロ竜、マイナス竜、虚竜……ワケの分からぬ知的アクロバットの宝庫です。
レムの作品に嫌いなものなし。『天の声』のシリアスさ、『枯草熱』の酩酊感、
『捜査』のイギリス的サスペンス、『金星応答なし』のロマンシズム……。
ダメ人間必読の書ばかり。読めば世界に、人類に絶望できるかも。
ちなみに好き嫌い・評価の著しく分かれる作家であります。
知性が世界を変革する可能性や、文学の有効性を捨てた部分が嫌われる理由かも。
その意味で、芸術至上主義ならぬ『SF至上主義』者なのかもしれないですね。
今晩は。丁寧なコメント有難うございます。レムについて語ってくださる方がいらっしゃるとはウレシイ。
彼の視点が物凄くスキなのです。怒りも熱情もなく淡々と、僅かばかりの朋輩意識を持って人類を眺める風情。
これはおそらく『ソラリス』の海と同じものだと思っています。
日本の中世も好きでして(いちおう専攻してた)、吉田兼好とレムに似た資質を感じる部分もあります。
博覧強記で皮肉屋、アンチヒューマニストにみえてモラリスト、けっこう世渡りに長けた俗な部分もある。
知性こそが人類唯一の希望である(あった)という確信が微妙に揺らぐところも似てるような気がします。
私は誤読と曲解の達人ですので、的外れでしたらごめんなさい。
無秩序や混沌、誤解にすらあらゆる可能性が内在するという偏見ももっておりまして、
それは各種の前衛音楽が大好きなことと関係があるかもしれません。支離滅裂な乱文、ご容赦下さい。
方法論、技術への偏愛というのは、テクノロジー一般という意味ではなく、
小説の技法、技術への偏愛という意味あいです。
興味深く読ませていただきました。
ディスコミュニケーションの問題について、わたしは幼稚園児ぐらいのときから感じていました。
(早熟な子供だったので、ほとんど話が通じなかったのです)
泰平ヨンの『航星日記』や『ゴーレムXIV』、『宇宙創世記ロボットの旅』が上がっているのは、
読んだことのある作品でもあり、わたしも偏愛している作品だからです。
『ソラリスの陽のもとに』もいいのですが、普通のSFファンや文学ファンが、
スタニスワフ・レム=ソラリスの人、程度の認識なのがはがゆいのですね。
>>ダメ人間必読の書ばかり。読めば世界に、人類に絶望できるかも。
あは。先にも書いた神童扱いだったわたしも今ではいろいろと道を踏み外して立派な、
どこに出しても恥ずかしいダメ人間です。
以前わたしのところへコメっていただいたように、明るい絶望、陽気なペシミズムに生きています。
ちなみにわたしはレムの方法論はすごく文学の有効性を模索していると思ってます。
むしろ、定型的な物語にさまざまな意匠をとりつけたり、
深刻げに語る「私」の小説などのほうがよっぽど「衰弱」の語を叩きつけられていいともと思います。
もし有効性を切り捨てたように感じられるのなら、
一般的なSF、小説、文学との断絶、それらを批評するような視点、
方法論、技術への偏愛(わたしはこうしたテクニカルなものは大好きです)かなぁ、と。
いわゆるハードSFは、言葉は悪いですがたとえばブルーバックスの内容を、
物語仕立てにしたようなものだと思うのです。
レムは文学から科学に至るまで知識をもっていても、その蓄積が、
情報と小説とがそれこそ融合したレベルにまで達しているように見えるのです。
その意味ではSF至上主義者なのかもしれませんね。
ただし、一級の文学としての。
とりとめのないコメント、失礼いたしました。