夢操作実験//Database▷case1-1
- カテゴリ:自作小説
- 2016/03/10 20:29:34
fileα
■被験者▷凪良 槐//female//age15
■記憶媒体/インポート/保健室ベッド/擬似生成/精神転送
■dive//ゲラゲラ医者
■実験予定時間90分
■開始予定時間AM10:00
■終了予定時間AM11:30
******
頭がクラクラした。
授業が終わって、校庭に、出た。
グラウンドに足をついた瞬間、ぐるぐる、目が回った。
上も下も分からなくなるほど、足元が、頭がぐるぐる回って、そこに倒れ込んだ。
目がチカチカした。
赤と黒。
死ぬんじゃないか。そう思うほど気分が悪くなり、胸が押しつぶされそうにになるほどの吐き気を振り払おうと、ごろごろとグラウンドで悶えた。
そのまま、視界が赤黒く変色していく。
そして、一瞬。
瞬きした。気絶した。
ほんの一瞬。そうしたら、急に気持ちが悪いのが嘘みたいに収まって、立ち上がった。
急に、怖くなって、すぐに戻った。
廊下。教室。
誰も居ない。
空が、真っ青だった。
今まで見たこともないほど、真っ青だった。
それを見たあと、教室を出た。人が居た。
見たことのない、生徒だった。
同じクラス、学年じゃないんだから、当たり前かと思った。その時は。
そうして、イチゴミルクを買いに行こうと思って、外に出た。いつもの味、あれを飲めば、ちょっとは落ち着くんじゃないかと思った。
外に出たら、やっぱり、やたらと空が青かった。青い絵の具で、直接天井を塗ったみたいだと思った。
けど、すごくすごく青くて、異様に、空が高かった。
そして、空気に臭いがした。
嫌な臭いじゃなかった。でも、今まで一度も嗅いだことのない臭い。
そのまま、外の渡り廊下を使って、自動販売機を探す。その途中に、生徒用の掲示板があった。
無造作にそこに目をやって、驚いた。
ア活めるゆフィ柿のさと
読めない。日本語が、ぐちゃぐちゃに羅列されてるだけの文章。
脈絡がない、違和感の塊。
ほかの掲示物もそうだった。
生徒総会の立候補者の写真に、へつ下のイ目はタイ燻ら當兎
可笑しいなとは思った。
でも、そんなに気に留めなかった。
渡り廊下の突き当たりの体育館前に自動販売機がある。
でも、そこに向かう途中のコンビニには、イイ目だ
とか書いてある。
すれ違う生徒や教師は普通に居た。でも、とりわけ可笑しいところもなくて、全然普通だった。
自動販売機の前に着くと、喋りだした。小さな電光掲示板に、アタリとかハズレとか、出るやつ。
でもその自動販売機は、アヨダナマーリッサー
的なことを言った。
よく見ると、飲み物の外装こそ変わらないものの、そこに書いてある文字も可笑しかった。
だんだん、怖くなってくる。それでも習慣で、硬貨を入れると、イチゴミルクの白とピンクのパッケージのボタンを押した。
一口飲む。
少し、胸がスッとした。
携帯電話を取り出す。圏外。
やっぱり、と思った。
メールの文章はいつも通り。普通の日本語。
なのに周りにある文章は、可笑しな言葉の羅列。
背筋がゾッとした。
怖くなってその場を離れる。急いで自室に戻った。
おかしい。可笑しい。
テレビを付けた。けど、やっぱり理解できなかった。
見たこともない番組。知らないタレント。
イチゴミルクをもう一口飲む。少し安心する。
安心したところで冷静になり、倒れた時に頭でも打ったかと思って、保健室に行った。とにかく、知っている人に逢いたい。話したい。
それなのに、道中に見る文字列は、やっぱり可笑しい。
保健室の先生は、知らない男の人だった。
保健室のソファを指差し、俺を身振り手振りで誘導した。
白衣の男の人と一緒に座った。
白衣の人はいろいろ話しかけてきてくれる。でも、意味がわからず、学生証を見せたりした。
しばらくすると、教授らしき人が三人きた。
教授らしき人と白衣の人は、チラチラとこちらを見ながら話をしている。教授が近づいてきた。
ぺこり。頭を下げる。
そして手を取って、軽く引っ張ってきた。
何がなんだがわからない。でも、この教授の人たちが何とかしてくれると思って、そのまま引っ張られていった。
エレベーターに乗り込むと、また知らない教授の人が増える。声をかけてくれるけど、やっぱり分からない。
急に涙が出た。急に寒くなって、身体が震える。
その間、ずっと背中を撫でて慰めてくれた。おかげで逃げ出さずに済んだ。
エレベーターが止まると、教授たちの応接室のような場所に通された。広いソファにテーブル。
緑色のお茶みたいなもの、お菓子みたいなものが置いてあった。
なぜか、無性にがっつきたくなった。
ジェスチャーで食べていい、というような素振りがあったので、手を合わせてからお菓子に手を伸ばした。
飲み物は、もう持っていたから。
お菓子は煎餅みたいなものと、小さな饅頭みたいなもの。
煎餅と饅頭は、とくに変な味はしなかった。 でも、自分の知っている味とは違った。
教授たちはずっと応接室にいて、ずっと観察していた。
お菓子を食べる手は止まらなかった。ずっと食べていた。
すると、スーツの人が二人、入ってきた。
スーツの人は両手を出すと、手の平を向けてきた。
両手の裏表、ひっくり返す。今度は鞄から、ペンライトを出した。
スーツの片方が横に座って、両手を優しく押さえてきた。
別の片方がペンライトを指差すと、光を目の方へ当ててきた。
眼鏡のレンズを通して眩い光が、目の中に入ってくる。
そのまま光を見ていた。ペンライトのスーツにまぶたを広げられて、また観察された。
結局、両目やったあと、今度は口内、鼻、耳にも光をあてられた。
診察が終わると、隣のスーツが手を離してくれた。
今度は話しかけられた。
スーツの人が何か言うと、間が空く。明らかに質問をしていた。
でも、言葉がわからないから黙っていた。質問毎に紙にチェックをしてた。
どうしていいかわからず、首を傾げていた。ふと、文字なら伝わるかも、と思って携帯電話を出した。
携帯電話で新規メールを作製する。言葉がわかりません」と打って向かいに座っているスーツの人に見せた。
スーツの人は、物凄く驚いていた。
でも、相変わらずわけのわからない言葉を教授たちと話して、取り上げた携帯電話の画面を見せ合っていた。
けれどその後、紙に「言葉がわかりません」とスーツの人が書いた。ペンで、その文字を指す。
言葉が通じたのかと思って、「うんうん」と大きく頷いた。でも、沈黙が降りただけだった。
間。
スーツの人が、「言葉がわかりません」の文字の上を指でなぞりながら、「ウヨメ、が、わかりません」と言った。
ゆっくり、言い聞かせるように。
期待と不安を綯交ぜにしながら、「ことば、が、わかりません 」と返した。
けれど、返事は無かった。
視線が集中する。
背筋にまた寒気が降りた。
立ち上がる。無意識だった。
そして、逃げ出した。
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