夢操作実験//Database▷case1-2
- カテゴリ:自作小説
- 2016/03/11 00:00:40
▷実験開始10分
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■異常行動検出
■被験者逃走
■プログラム自動修正開始
■被験者の異常行動を記録
■実験続行
******
逃げ出した。
見知らぬ人たちが、とてつもなく恐ろしいもののように思えた。
言葉の通じない恐怖に、まだ島の外に出たことのない幼稚な脳みそが耐えられなかった。
走った。
逃げた。
教授やスーツの人たちが、大声で引き止めるような気配がした。
扉を押し開けて走る。無我夢中で、足を動かした。
追いかけてくる足音が、たくさん、たくさん、頭の中で響いていた。
逃げようとした、走ろうとしたのに、突然、階段の前から水色の、あの衣装を身にまとった警察官が溢れ出してきた。
立ち止まる。
後ろには、もう白衣の教授たちが迫っていた。
可笑しな言葉を紡ぎながら、警察官が腕を掴んだ。振りほどこうとすれば、背後から近寄ってきた教授たちに取り囲まれる。
羽交い締めにされながら、あっという間に廊下を引きずられて応接室に連れ戻された。
応接室では、スーツの人が携帯電話で誰かと話していた。それがちょうど終わると、ソファに座らされて、スーツの人たちは話し合っていた。
わけのわからない言葉に、脳が侵されていく。どんどん、言葉を失っていく気がした。
スーツの二人はそのまま退室した。頭の上に浮かぶハテナマークが、増えていく。
警察官が写真みたいなものを何枚が持ってきて、机に並べた。
全て食べ物の写真だった。
うどんや丼、寿司もあったけど、中にはお米に野菜を刺したみたいな、形容しがたいものもあった。
警官が写真の上全体を軽くなぞった。
「どれか一つ選んで 」という意味かと思い、丼を指差す。
「うんじ?」
みたいなことを言われた。わけがわからなかった。
仕方なく、反射のように手が動き、丼の写真を指差して、箸で食べる仕草をした。
すると警官は大きく頷き、部屋を出ていった。
再び、間。
沈黙。
そのまま、放置された。警官の人が何人かいるけど、無言だった。
どうしようかと考えたけど、どうすることもできず、イチゴミルクを飲んだり、辺りにあるものを観察したりした。
お茶には、口をつけなかった。
ソファを始め、机やドアなどとにかく今までとなんら変わらなかった。けれど文字だけが意味不明だった。
お菓子の包装紙にアルファベットが書いてあった。でも意味不明で、 英語ではないようだった。
また立ち上がる勇気は無かった。こちらを見る彼らの目が、ギラギラと睨みつけていた。
完全に萎縮していた。早鐘を打つ心臓が破裂しそうだった。
辺りを見回すのにも飽きた頃、さっき写真見せてくれた人が丼持って帰ってきた。
お盆にあったのは、箸だった。
どうぞ、みたいな手振りをしたので、手を合わせ、頭を下げてから頂いた。
蓋を開けると、普通の卵丼だった。口を付ける前に躊躇する。
けれど、こちらを見る視線に抗えず、気づけばまた、がっついていた。
お腹が膨れると、先ほどの緊張がようやく解れて少しだけ落ち着きが出てきた。 イチゴミルクを、また飲んだ。
現状に置いていかれていた頭が回転しだした感じがした。
食べ終わると、今度はいろいろな写真が出てきた。
人物とか、風景とか、絵画とか。
どれも知らない。どれも見たことがない。反応に困った。
一枚一枚手に持ってくれて、見やすくしてくれたり、部分部分を指差してくれる。けれど、どう対応していいかわからない。
しばらくそんなやり取りが続いた。
見たこともない景色を、直接脳内に刷り込まれるようで、酷く不快だった。
そのうち、何も答えないこちらに業を煮やしたのか、無意味と思ったのか、写真をしまって優しく手を引っ張られた。
無理やり応接室に引きずられたときのような強引さは無かった。
今度は囲まれることはなく、手を引っ張られながら部屋を出た。
部屋を出ると、なんとなく空気が重い感じがした。
しばらく歩いた。
不意に、物々しい奴らがぞろぞろとやって来て、周りを囲いだした。
歩みは止まらない。そのまま駐車場にいき、車に乗せられた。
真っ黒で、大きな車だった。
車は静かに動き出した。
前後には別の黒い車があって、一緒に走りだした。
後部座席真ん中で、左右は警官。
また、不安と緊張が胸をいっぱいにする。背筋が凍える。
けれど、異常な世界に疲れていたのか、車に揺られながら、いつの間にか眠ってしまっていた。
気がつくと、ベッドで横になってた。
車の中じゃない。
白い、天井。
ツンとする薬品の臭い。嗅ぎなれた、保健室に似た臭い。
医者のような、ナースのような人たちが、たくさんいた。
目を覚ましたことを知らせようと起き上がろうとした。
途端、頭が、アイスピックで突かれたように痛んだ。どんどん痛くなって、またあの、死にたくなるような、気持ちの悪さが襲ってくる。
突っ伏して悶えていると、足音がした。医者がこちらの顔を覗き込んでいた。
ペンライトが目を照らす。耳を覗く。口を開いて奥を見る。
ほんの少し触れられただけでも、頭が破裂しそうなほどに痛んだ。放っておいて欲しかった。
けれど身体は、鉛か何かのように動かなくて、言うことを利かない。
医者が診察を終えると、他の医者たちとなにやら話しをし始めた。 医者たちは基本的に無表情だった。でも、話す時は怪訝そうな感じだった。
直後、別の医者が直接顔や頭を触ってきた。嫌悪感が、ゾワゾワと身体の表面に走る。
その手には、機械の棒のようなものが握られていた。嫌な予感がする。
頭が痛い。
身体が、重い。
金属の棒が、耳に突き込まれた。瞬間、灼けた鉄が頭の中を貫くような、激痛が走る。
喉の奥から迸ったのは、潰れた絶叫だった。
医者達が固まる。
ピリっとした空気が肌を刺し、キラリと視界の端で何かが光る。
熱い。冷たい。痛い、なにか。
嫌だ、と声にならなかった。
そのまま、意識が遠のいていった。
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