夢操作実験//Database▷case1-4
- カテゴリ:自作小説
- 2016/03/13 23:53:25
▷実験開始40分
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■被験者ヲ強制排除
*****
打ち込まれた散弾は、宙に浮く身体に届く前に消えた。
薄らいだ銀の鉛は星屑よりも小さな粒子になってキラキラと炎の中で煌く。まるで、極寒の大気中で輝くダイヤモンドダストのようだった。
耳を劈く発砲音も、怒号も、どこか遠くから聞こえるようにぼやけている。
剣をひと振りした。それだけでバターみたいに壁が溶け、施設が半壊する。
炎上した施設の天井は熱風で吹き飛び、開けた頭上にはあの冗談みたいに青い空が相変わらず広がっていた。
でもその青空が、今は愛しくすら思えた。
床に降り立つ。温まった空気を胸いっぱいに吸い込むと、途端に笑いが込み上げてきて肩を揺らした。
次第に目の端には涙が浮かび、痛み出した腹を抱えた。
こんな簡単なことだった。
今まで夢を見るのも下手くそだったのに、夢を夢だと自覚したら、全てが思い通りに動き出した。
――――魔法みたいに。
炎の剣を手放すと、あの憎い教授たちを思い出しながら燃え盛る星を周囲に呼んだ。ボン、と音を立て、次々と弾ける火球はあっという間に狭い部屋を埋め尽くし、歪んだ笑みを合図にして流星群となった。
真っ赤な尾を引く星たちが逃げ惑う人々を襲う。施設は全壊し、ハリボテみたいな学園が目の前に佇んでいた。
どうせなら、それも壊してやろうか。
振りかざした手のひらから、嵐のように火の粉が吹き散る。燃え盛る炎の龍。
その鱗の一枚いちまいまで、煌く紅蓮の輝きに覆われた巨大な体躯をくねらせて、手のひらから這い出してくる。
火を噴く。
咆哮。
重なった轟音が大地を揺らせば、真っ白な壁は紙みたいに破れて黒焦げになる。
何を恐れていたんだろう。
全部ぜんぶ、思い描けば形になる、夢の世界の出来事だった。
禁断の片道切符はもうこの手にある。二度とわたしを操らせたりなんかしない。
琥珀の瞳に揺れる炎を映しながら、口許には歪んだ笑みを貼り付ける。
自分たちを物のように扱って、夢の世界に縛り付ける愚かな場所。
今度は夢じゃなく、本当に全てぶち壊してやる。
消し炭になった学園の横を通り過ぎ、地面を蹴ろうとした時だった。
ドッ
と異音が耳に届いたのは。
薄っぺらな胸から、輝く黄金色の剣が突き出していたのは。
えっ、と吐息混じりの微かな声が漏れる。
寄り集まった粒子たちで出来た光の剣は、どす黒い血を纏ってその切っ先を石畳の地面に沈めていた。
宙ぶらりんになった身体に、光の剣が雨のように降り注ぐ。
串刺しの痩身が鮮血に染まる。
息が出来ない。
頭がフリーズする。
見開いた両目はただ、青空を見上げていた。
貫かれた身体は、熱した鉄板の上で焼かれるように痛む。それでも声は出なかった。
――喉が破れていたから。
指先から滴る血が、耳元でポタポタと音を立てた。
周りの音が遠ざかっていく。血の気の失せた指先から、少しずつ体温が消えていく。
……なんでよ。
ここは、夢なのに。
わたしの、夢じゃないの。
それなのに、
――――ぎぃゃあああああああああああああああああああああああああああ
光の剣の戒めが解ける。
おぞましい絶叫。
それが、やけに近くで聴こえるなと思っていた。
だってほら、それを上げてるのは、
「あ゛っ……あ……!?あぁ゛……っあ゛……!」
ズンと頭の中に響く鈍痛。
否、後頭部から頭蓋骨を貫通して、眼球にまで染みる熱、冷たい、痺れる。
悲鳴は止んだ。代わりに喉から漏れるのは、言葉にならない苦悶の喘ぎ。
ぐらつく頭が重い。恐る恐る顔に這わせた右の手に、べっとりと付いた鮮血が鼻の奥にツンと鉄の臭いを突き刺した。
背筋を駆け上る悪寒。
視界の隅に虹色の膜が掛かる。
目眩。
吐き気。
頭痛。
べしゃりと崩れ落ちた地面に広がる血だまりに、それは映った。
光の刃。
剥き身のナイフ。
切っ先に突き刺さる眼球。
頬を染める鮮血。
抗えない頭痛が意識を蝕み、身体が内側から引きちぎれる。
それが、最後の記憶だった。
*
夢から覚めると鏡を見る。
裸眼の右目の瞳孔は、今もどこも見ていない。
光を失った右側の視界には、もう誰も映ることはない。
*
■実験失敗
*****
【完】
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