ティプトリーと『断絶』という快感
- カテゴリ:小説/詩
- 2016/03/17 10:32:55
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの死後に出た短編集、
『あまたの星、宝冠のごとく』の邦訳が先日出ました。
買うか悩んで、昨日けっきょく購入し読み始めた。
ティプトリーのどこを愛するか(またはどう誤読するか)は人さまざま。
私はアナキスト、ペシミスト、本質的ヒューマニストとしての側面が好きです。
また、砂を噛むような違和感の残る読後感も。一種の断絶とも感じています。
違和感、という表現を使ったのは、納得できかねる結末で齟齬を感じるためです。
各短編のトンデモナイ結末に常に驚くわけですが、それは『私』の好む解決とは異なる。
ティプトリーのエンディングってのは『理知的なアバンギャルド』に感じるのです。
私もアバンギャルドを好むのですが、本能的・衝動的(幼稚ともいう)なタイプ。
そこが違和感や断絶として残り、快感に転化されて病み付きになる。
今回の作品群にはそうしたものを強く感じました。ロックではなくクラシック的というのか。
こうした肌触りの作家は非常に珍しい。概ね共感するがどこか引っかかる。
「おー、分かる、わかる、あるよねーそういうこと」と盛り上がった翌朝、
全く話が噛みあわなかったのではないかという想いで目覚めたときのような感覚。
消化できないものを消化できないまま体内に滞在させるのも楽しみの一つ。
異物、夾雑物としてのティプトリー、血にも肉にもならず、でも在り続ける。
レムとは異なる次元で『共存』の大切さを教えてくれる、貴重な作家です。
なおティプトリーを知ろうとして初めて読むには適さない短編集だと思います。
世評高き『たったひとつの冴えたやりかた』もメランコリックすぎる部分が。
私がお勧めするのは以下の5作です。
『故郷へ歩いた男』
『エイン博士の最後の飛行』
『そして目覚めると、私はこの肌寒い丘にいた』
『接続された女』
『ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか』
『たった一つ…』だと宇宙海賊の話が好きですね、トゲだらけのボンボンという評価に納得します。
短編集でしたら『愛はさだめ、さだめは死』『老いたる霊長類の星の賛歌』あたりが宜しいかと。
ときどき108円のに遭遇します。人気がないのかもしれません。
個人的には大変好きな作品です。
他の作品も読みたいと思いつつ、なかなかチェックしていませんでした。
・・・忘れかけてました^-^;
明日は本屋探しでもしようかな。
コメント有難うございます。ベトナム以降のSFというのを考えると、
ジョン・ヴァーリィ等のレイバーデイグループの作家には今一つ違和感があり、
ティプトリーとジョー・ホールドマンの戦争受容というのが肌に合います。
ベトナムはおそらく日本の1945年と同じ意味を持ったのではないか(ごく一部の人に)。
ハインラインやラファティの第二次大戦受容よりも、もっと冷酷で突き放したアンチ・ヒューマニズムというか。
もちろんそれだけではありませんが、ティプトリーの意味というのは世代によっても変わるのかもしれません。
一番好きな作品はというと『故郷へ歩いた男』になるでしょう。
ハードボイルドロマンとも読めるし、どこかヘミングウェイっぽい話にも感じるので。
デラシネとしてのティプトリーが作品内だけで創り出した『故郷』に、非在の美があるように思います。
わたしは偶然昨日、アマゾンでいろいろ面白そうな本を「この本も買っています」で辿っていって、
ティプトリーの『あまたの星、宝冠のごとく』が出ているのを知りました。
今これを書いていて、わたしはティプトリーのどこに惹かれるんだろうと思っていて、
しばらく考えたのですが、やっぱり彼女のペシミズム、あとはディスコミュニケーションの感覚、
あ、断絶ですね、主人公あるいは読者と世界との。
そんな感じです。
お勧めのなかではダントツで『ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか』が好きです。