Nicotto Town



迷子を送り届けに




ふと城の窓に、一匹のカラスが座っていた。
カァ、カァ、と小さく鳴くカラスは、不安そうな目をこちらに向けている。

「君はどこのカラス君だ?」

訪ねても、カァと鳴くだけであった。
黒くて美しい羽は、よく手入れされており、やはり野生のカラスではないのだろう。
さて困ったなと一人の女軍人が頭をガシガシとかく。
よく見れば、カラスの足元に銀色に光るリングがはめられていた。
リングには何やら文字が書いてある。

「・・・あぁ、君のご主人様は●●の国の人か。私もこれからそこへ視察へ行くところだ、連れて行ってあげるよ」

カラスは嬉しそうに一声鳴いた。





駅前は混雑しており、人で溢れかえっている。
何人かの仲間とともに、予約しておいた鉄道へ乗り込もうと切符を顔見知りの駅員に見せる。

「いつもご苦労様です」
『おや軍人さん、ご苦労様です。そのカラスさんは?』
「城で迷子になってたんです。ちょうど今から行くところにこの子のご主人様がいるようなので、ついでに送り届けてあげてるんですよ」
『一人でここまで飛んできたのかな?でも、車内へ乗せる時はケージの中へお願いしますね』
「えぇ、わかりました」

黒く鈍く光るケージの中へ迷子を入れる。

「私の友人のお下がりだが、少しの間我慢しててくれ」
【僕のように喋れるようになったら、好きにできるんだけどね】

女軍人の頭の上で、一匹のひよこがピヨピヨ笑った。
鉄道がゆっくりと走り出す。そして、徐々に早くなっていく景色を、カラスはジィッと見つめていた。



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