Nicotto Town



SF廃人の代名詞『キャッチワールド』


SFマニアとしては王道から外れ、知己を失い、人から嫌われたいのなら……
クリス・ボイス唯一の長編かつデビュー作『キャッチワールド』を読みましょう。
ネットで検索すれば毀誉褒貶や解釈、評価や批判が山ほど見られます。

さて。モチロン私はこの作品が大スキなわけです。発行直後に読みました。
学校をサボって図書館のハヤカワSFを端から読む日々を過ごしていたころ、
たまたま手にして筋を追った。ゲ、何コレ。わけわかんねー。どうなったの?

初回の印象は誠に芳しくなかった。同時期に読んだカントの『実践理性批判』なみ。
だが直後、古本屋で発見し、安かったので買っておいた。表紙がカッコイイから。
これは40年近い時に耐え、ボロボロになったまま現在も私の書架に並んでます。

無常観繋がりで各種の仏教書を飛ばし読みしてたころ、第二章を思い出した。
法華宗を凄まじく捻じ曲げた解釈で扱った奇怪な日本の未来社会。
それで再読した。……こ、これ、コレ正気か? ワケワカンネー!(今度は賞賛)

この作品を肯定的に評価する方の多くは、以下の2点に焦点を当てますね。
1、パサードラムジェットによる光速恒星間飛行と超光速下の戦闘シーン。
2、AIと人間知性のハイブリッド的融合、集団知性形成。

まあね、これらも面白いけど、私はもっと好きな部分がイッパイある。
まずはボコボコに貶されている悪魔召喚。この素晴らしさに触れる人がいない。
異星物との意思疎通のためのインターフェースに「アッチの世界」を使うのがスゴイ!

黒魔術が、知性をもってしても理解できない未知なるものの隠喩だと思うんですよ。
制御しようとしても不可能であるテクノロジー、でもそれを求める知性への警句でもある。
ここでエコとか銀河普遍の理念なんぞを持ってこなかったのは天才ですよ。

神とか造物主とかがいたとしたら『無邪気な悪意』に満ち溢れるんだと思う。
勝手に創って放置して、蟻の巣穴に熱湯をかけるようなオフザケを時々やるみたいな。
バックグラウンドにあるのは、そうした世界に対峙する知性の抵抗ではないか。

登場人物の造型も奇怪であり、異形であります。それは当然、私の姿でもある。
あらゆる生命はキッカイでありゲテモノであり得る。でも生きたい。機械知性すら。
敵ですら。異界の悪魔でさえも。これは生への信頼であり賛歌であり肯定だと思う。

もう一つ『鴉』のカッコよさといったら全SFで最高だと思う。ガリー・フォイルに匹敵。
個人的な下劣で猥雑な欲望と生存本能がバカバカしき知性で武装した姿の象徴。
それが飛翔するのですよ。遥かな果てに誘うのですよ。前衛ですよアートですよ。

アバンギャルドミュージックの極北の作品群に匹敵する衝撃度と深さがあると思う。
山下トリオのメルスフェスでの『ミナのセカンドテーマ』、セシルテイラーのソロ、
阿部薫と高柳のデュオ、不失者の1st、デメトリオストラトスのソロ、D・ベイリー……

シンプルに言えば「ワケワカランからカッコイイー!」ということになります。
もちろん誤読の帝王たる私の偏見ですので、決してSF主流派の解釈ではありません。
でもイイんですよー。ちなみに実社会で『キャッチワールド』好きに会ったことはない。

そんなSFダメ人間の分水嶺たる作品です。だから怪作なんです。超駄作かも。
デビュー作にはその人の全てがあるといいますが、これがボイス唯一の長編。
短編をあと2つしか書いてないという。そりゃそうだ。2度と書けないぞコレ。

バロウズ、ブコウスキー、ソローキン等、怪作と言われる書は数々ありますが、
それらとは次元が違います。ビョーキです。混ぜるな危険、といった感じです。
……興味ありますか? お探しください。読んで投げ捨ててください。ぜひぜひ。

アバター
2016/03/30 07:39
>ヘルミーナさん

私のダメ度は全方位に発揮されてます。ダメ人間度数なら負けない自信あり(無意味に威張る)。
ちなみに『キャッチワールド』を面白いと思うのは、シュールレアリズムに近いからかもしれません。
あと、高柳と阿部にはそれぞれ思い入れがあり、影響も受けました。そのうち書かせていただきます。
アバター
2016/03/27 16:17
バロウズ大好きのわたしが勝手に通りすがりざまに書いていきます。
『爆発した切符』以外は読んでいるんじゃないかしら。

で、そうですか、『キャッチワールド』、ユースケさんも初読のときにはあまり芳しい印象を受けられなかった……。
わたしも立派なダメ人間に成長してしまったので(SFダメ人間と真のダメ人間は違うのですが
SFダメ人間になるべくもう一度、神田に行った際に安ければ『キャッチワールド』買って、
再読してみようかしら。

関係ないですが、阿部薫と高柳昌行さんのデュオはよかったです。



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