非A論理学と予備脳のお話
- カテゴリ:小説/詩
- 2016/03/24 08:50:27
ヴァン・ヴォークトの『非A』シリーズが創元から復刊してますね。
フランク・ハーバートの『ジャンプドア』シリーズに並ぶ名ワイドスクリーンバロック。
『スラン』や『ビーグル号』と異なる破天荒さが魅力の2冊です。
アリストテレス論理学の否定による思考の飛翔という発想が楽しい。
これには色々納得する部分がある。A=Aってのはやっぱりオカシイよ。
埴谷雄高が『自同律への不快』を唱えているが、正にその通り。
この件と言語学、認知科学は非常にオーバーラップします。
言語による命名によって世界を認識するという言語システムには、
効率化と画一化による本質の喪失という罠があったのかもしれないなー。
予備脳ってのは理知的な潜在意識、プサイ能力、演算装置のようなモノ。
サイバーパンクの『デジタルガジェットによる知性強化』の先駆的アイデアかな。
ベスター『分解された男』の主人公が持つ『宇宙破壊者』とも重なる。
現代のクリエイターは殆ど無意識にこうしたアイデアを取り入れてますよね。
その始祖はこのあたりにもあります。ワイドスクリーンバロックに時代が追いついた。
『セカイ系』小説が蔓延りだしたころ、私が違和感を覚えた理由でもあります。
ベスターもヴォークトもハーバートも『セカイ系』とはずいぶん趣が違います。
『虎よ、虎よ!』がセカイ系だといわれることはない。似たシチュエーションですけど。
救いとして訪れるのが『個の充足(愛の成就など)』ではない、というのがポイントかな。
この手の古典名作が復刊されるのは、おそらく時代の雰囲気に合っているからでしょう。
グローバル、多文化共生、統一的価値観喪失と局地紛争の恒常化という現代に。
しかし未来社会がワイドスクリーンバロックだとは、あの頃は予測できなかったなー。
お求めになるなら2冊同時に。できれば古本であと2冊を追加。
『イシャーの武器店』『武器製造業者』は一回再販されたが人気薄、安いと思います。
ついでに論理学の入門書も買うと更に楽しめるはずです。
今晩は。ヴォークトでは『終点:大宇宙!』という短編集もお勧めです。
埴谷を読んだのは戦後のマル文系批評家繋がりです。『近代文学』の本多、平野あたりと共に。
ベイリーは仰天アイデアと力技が素晴らしいですね。後退理論なんて笑いながら納得してしまうし。
創元とハヤカワから出ているものは全て読みました。好みは『永劫回帰』ですね、ベスター的で佳い。
『時間衝突』ではスラデックの『鉄の夢』を思わせるファシスト政権の狂騒がステキ。
あと『スターウイルス』に出てくる、知的能力を増大させる麻薬というのはぜひ試したいものです。
ヴォークト(わたしが知ったころの呼び名はヴォートでした)の『非Aの世界』、『イシャーの武器店』などは、
未読なのです。『スラン』や、『ビーグル号』は読んだのですが。
で、埴谷雄高さんの自同律の不快、A=Aへのおかしさというので嬉しくて書き込んでしまいました。
論理学とはまた違うのですが、フランス現代思潮のジャック・デリダなども、
似たような発想から、形而上学の解体をねらっていましたね。
AがAとしてイコールされるのはイデア的な、超越的なAを前提としているからできること。
その超越したなにかが形而上学なのですが、
イコールとする「現場」にそれこそ非Aの痕跡をかぎつけてA=Aを解体してゆく、
デリダの哲学は興味深く思えます。
それに、ユースケさんの書き込みで思ったのですが、
一部の哲学の面白さというものは、ある種セカイ系と通じるものかもしれませんね。
あと、ワイドスクリーン・バロックならわたしの愛するバリントン・J・ベイリーも忘れないであげてください。