内部配線とアートワーク
- カテゴリ:アート/デザイン
- 2016/04/22 09:49:09
配線や配管というのは立派なアートであり、またビッグビジネスでもあります。
革新的な理想と、経済最優先のやっつけ仕事の壮絶な格闘の現場でもあります。
自治体の送電にしろ屋内配線にしろ、新旧アートの混在が興味をそそります。
半日かけて1982年製のギターアンプを修理しました。
質実剛健な60年代製、技術革新の進む70年代製と比べると趣が深い。
時代の波を明らかに受けた内部配線に関し、頼まれもしないのに報告しましょう。
まず、この時代の製品はマーケティングが進み、他社の動向や流行への反応が早い。
ビジュアル的外観重視、小型化優先も顕著。ウォークマンがバカ売れした頃ですね。
またコストダウン意識もはっきり出ています。質より量の薄利多売のスタート。
いっぽう、信頼性の高い旧世代のユニットを流用している部分もある。
こうした新旧思想の混在が、外からは分からない混沌を生み出しております。
以下は電子工作マニア向けの表現ばかり、分からない方ゴメンナサイ。
まず、ベークライト基板の電源部とパワー部がそのまま流用されています。
プリアンプ部分は新設計のエポキシ基板。直付型ポッドを採用したタイプ。
この2つが微妙に整合性が取れておらず、よけいな引き回しが散見できます。
さらに。入力部分に外付抵抗を空中配線、なぜ基板に入れなかったのか不可解。
入力を基板の中央部まで引き回す配線というのはメーカー製で久しぶりに見た。
動作表示用LEDは、筐体に直付して基板実装後にハンダづけするというサーカス。
エポキシ基板上のコンデンサは全て縦型、ところが平滑コンデンサはチューブラー。
しかもトランスや整流ダイオードからの配線が基板裏に来ており、スペーサーかましてる。
シャーシーと電源部配線面の距離は5ミリ弱。これは怖い。
同じく旧バージョンのパワー部、ベークのジャノメ基板に組まれている。
コンプリペアのパワートランジスタはシャーシー直止め。
放熱板を省略することになったんだろう。いかにもやっつけ仕事に見えます。
入力切替スイッチはなぜかシーソー型採用、これは平ネジで固定するタイプ。
電源表示のネオン管とともに先に実装、その上から表示部の化粧版を接着。
おかげで非常に整備性が悪い。外見のみを重視したことが原因です。
70年代の製品は理路整然としており、分解も比較的楽なのですが、
この時代のものには現代に続く使い捨て文化の萌芽がみられます。
実装現場の苦労が思いやられる。ハンダ付けの技術もかなり落ちている。
……失礼しました、熱くなってしまいました。かいつまんで言いますと、
「昔の佳い技術が新世代の経済感覚でダメになっていく」好例なのです。
設計しなおして完璧な形で出したかっただろう。でも4万弱の製品ではねー。
プリント基板の設計をアートワークと申します。昔は技術者が手書きで書いた。
今は回路設計が終わると自動的に生成するソフトが全盛。技術者はほぼ失業。
その結果、実装時のさまざまな問題に関して無知な製品もあるそうです。
ちなみに修理は成功、ほぼ完調となりました。このメーカーらしい良い音です。
新設計のプリ基板回路もなかなか秀逸、小音量でもしっかり使える優れもの。
今は亡きメーカーを偲んで、ギター繋いで深夜まで弾きました。道楽の極み。