中国を震え上がらせる秘密兵器レールガン
- カテゴリ:ニュース
- 2016/06/17 06:17:01
WSJは、5月31日、米海軍が開発中の電磁レールガンについて、「米国のスーパーガン」という表現でその能力と安全保障に及ぼす影響について報道した。
米軍にとっては、レールガンを装備することにより、アジアの作戦地域への接近が再び可能となる。
A2/ADに対抗する米軍の作戦構想であるASBで想定していた「空母などの大型艦艇の損害を避けるために、紛争直後に一時期、中国の対艦弾道ミサイルの射程外に後退させる」などの作戦が不必要になり、日米同盟の信頼性の向上にも寄与することが期待できる。
また、我が国の重要施設の防衛や南西諸島の防衛において、諸外国による各種ミサイルの攻撃や航空攻撃に対して有効に対処できる可能性が増大する。
1 レールガンの開発状況
レールガンは、発射薬や炸薬を必要としない。
固い発射体を電気伝導体のレールで加速し、目標を破壊する。米海軍が開発中のレールガンでは、時速7240キロ)まで加速でき、有効射程は200キロで、1分間に10発の射撃が可能である。レールガンは、航空機、ミサイル、戦車などほぼすべての目標に対して有効である。
レールガンの発射体を誘導する技術の開発はほぼ完了していると記事は伝えている。スーパーコンピューターを使って狙いを定め、スマートフォンの技術を使い軌道を修正する。
発射体の開発は、レールガン全体の開発よりも早く完成する予定である。
この発射体は、レールガンでのみ使われるのではなくて、既存の海軍艦艇の砲(5インチ砲、6インチ砲)や陸軍の榴弾砲からの発射も可能で、射程延伸や威力の増大の効果があるという。
またWSJは、米国防省で先進技術の開発を担当し、レールガンの推進者の1人でもあるロバート・ワーク国防副長官の次の発言を伝えている。
「冷戦時代に欧州に配備した大規模な戦力を再現することは考えられないが、高価ではなく非常に大きな抑止力としての価値を有するレールガンを想像することはできる」
ワーク国防副長官は、第3次相殺戦略を担当していて、その中にレールガン関連事業も入っている。ワーク国防副長官の肝煎りであるということは、将来的に非常に有望な兵器であることを証明している。
一方、レールガンを運用するためには、25メガワットの発電装置と大規模な蓄電設備が必要になる。
そのため、レールガンを搭載可能な艦艇は限定されるが、現在、レールガンを搭載する最有力な艦艇は、ズムウォルト級)駆逐艦で、78メガワットの電力能力を持っている。
また、艦艇搭載が唯一の選択肢ではなくて、地上設置型のレールガンも有力である。なお、レールガン全体の開発は、今後10年以内には完成し、実戦配備されることになると予想されている。
●水上艦艇に搭載された場合
対艦巡航ミサイルに対しては主としてSSLが対処し、対艦弾道ミサイルに対してはレールガンとHPMで対処する。
●地上に配備された場合
レールガンやHPMがカバーする範囲が大きく、中距離弾道ミサイル、準中距離弾道ミサイル、短距離弾道ミサイル、対地巡航ミサイルのすべてに対処が可能となる。つまりレールガンの地上配備により基地防護や重要施設の防護が可能になる。
SSLは、対地巡航ミサイル(LACM)に対処可能である。
3 レールガンやDEWが米軍に及ぼす影響
●中国やロシアのA2/AD能力を制約できる
レールガンが実際に配備されれば、中国、ロシアなどの各種ミサイルによる攻撃や航空攻撃を制約することが可能になる。
そもそもA2/ADのA2は接近阻止という意味であるが、相手の各種ミサイルによって作戦地域に接近できないことを意味していた。図4を見てもらいたい。
中国の人民解放軍は、空母キラーと言われている対艦弾道ミサイルDF-21Dを筆頭としていくつかの対艦ミサイルを幾重にも配備して、米海軍の接近を拒否している。
しかし、レールガンなどを導入することによって対艦ミサイルの攻撃を排除し、作戦地域への接近が可能となる。
また、A2/ADのADはArea Denialで作戦地域における作戦を拒否するという意味であるが、レールガンなどの導入により、作戦地域におけるミサイルや航空攻撃の脅威が軽減され、日本周辺での作戦が継続できることになる。
これを別の表現で説明すると、「中国のミサイルによる飽和攻撃に対処が可能になる」ということである。
現在、米軍特に海軍の空母をはじめとする大型艦艇にとって中国のA2/AD能力は大きな脅威である。特に、DF-21Dなどの対艦弾道ミサイルによる飽和攻撃に対して、現在の防衛システムでは対処困難であるが、1分間に10発の射撃が可能であるレールガンを主体としたミサイル防衛システムを構築すると、飽和攻撃への対応が可能になることが期待される。
●在日米軍基地の脆弱性が改善される
レールガンを地上に配置すると、地上部隊のみならず、重要な空港、港湾などの重要施設の防護が可能になる。このことは、中国のミサイル攻撃や航空攻撃の脅威に対する在日米軍基地の脆弱性問題の解決が可能になることを意味する。
●米軍の前方展開戦略が可能になる
ASB作戦構想の弱点であった、「紛争初期において中国のミサイル攻撃を避けてその射程外に一度下がってから、将来の攻撃を準備する」という行動が不必要になることを意味する。
この米軍が一時下がるという行動は、日米同盟の信頼性に大きなマイナスであったが、それが改善されるということである。
●ASBで考えられていた長距離作戦が必ずしも必須でなくなる
前方展開が可能になるということは、米本土の周辺から、遠距離の作戦を強いられるという状況が緩和されるということである。第3次相殺戦略で考えていた長距離爆撃機や無人機システムの活用などに対する再検討が必要になってくる。
4 レールガンやDEWが日本の防衛に及ぼす影響
●自衛隊の南西防衛にとって大きなプラス
各種報道によると、奄美大島、宮古島、石垣島などの島々に陸上自衛隊が配備される可能性があるが、これらの島々の中でいくつかの島には、対艦ミサイル部隊と対空ミサイル部隊が配備されることになるであろう。
しかし、これらの部隊の最大の問題は、相手の各種ミサイルによる飽和攻撃と航空攻撃に脆弱だという点である。
まず制空権の確保は当然であるが、その他に掩体を構築して部隊を防護するという対処策はあるが、これはあくまでも防御オンリーの手段である。相手のミサイルによる飽和攻撃と航空攻撃に対し、より積極的に対応しようと思えば、攻撃と防御の能力を兼ね備えたレールガンは理想的な兵器となり得る。
また、レールガンの地上配備が可能になれば、理論的にはレールガンの部隊のみで対艦任務と対空任務の2つの任務を遂行可能である点も指摘したい。
さらに、レールガンを南西諸島周辺のチョークポイントを支配する場所に配置すれば、陸上部隊でチョークポイントの支配が理論的には可能になる。
●MD(ミサイル防衛)能力が改善され首都圏等の防衛にプラスである
レールガンを中心にしたMD(ミサイル防衛)システムを構築し、我が国のSM-3やPAC3を中心としたBMD(弾道ミサイル防衛)システムと組み合わせると、より効果的なMDシステムになる可能性がある。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47056