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中国南シナ海問題、裁定を「紙くず」と切り捨て

今月12日、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は、南シナ海における中国の主張や行動は国連海洋法条約違反だとしてフィリピンが求めた仲裁手続きについての裁定を公表した。それは、中国が南シナ海の広い範囲に独自に設定した「九段線」に「法的根拠はない」と明確に認定した画期的な裁定であった。

どのように窮地から脱するつもりなのか
裁定の内容は事前に察知していたものの、中国政府の受けた衝撃はやはり大きかったようだ。裁定が公表された7月12日午後5時過ぎ(北京現地時間)直後から、中国外務省は裁定に猛反発する政府声明を発表し、外務大臣の王毅氏も口調の厳しい談話を発表した。その1時間後、国営新華通信社は裁定を「単なる紙くず」と罵倒するような強烈な論評を配信した。
中国政府は当初から、裁定の結果を一切拒否する方針であった。しかしここまでくると、騒げば騒ぐほどいわば「無法国家」としてのイメージを国際社会に定着させていくだけで、中国の国際社会からの孤立はますます進むだろう。そして今まで、南シナ海における中国の行動を厳しく批判しそれを阻止しようとしてきた米国や日本及び周辺関係諸国は、今後一層中国の無法的な行動を封じ込めようとするだろう。未曾有の窮地に立たされたのはどう考えても、中国の習近平政権である。

「日米陰謀論」? その根拠は…
裁定に対する中国側の批判や反発の言説の特徴の一つが、裁定を米国が主導して日本が加担した、「外部勢力の陰謀」だと決めつけている点である。
たとえば7月8日、人民日報の掲載論評は来るべき裁定について、「仲裁裁判所の裁定は提訴から裁定までのプロセスのすべてが、アメリカがアジア太平洋地域における自らの主導的地位を維持するために設けた一つの“罠”だ」と論じて、アメリカこそが裁定の「黒幕」であるとの珍説を展開した。
同日、もう一つの国営通信社である新華通信社も裁定に関する長文の「検証記事」を配信したが、冒頭から、「今回の裁定は、アメリカがその背後で操り、フィリピンがその主役を演じてみせ、日本が脇役として共演した反中茶番である」との見解を示した。「アメリカ黒幕説」をさらに肉付けたものであると同時に、日本までを「陰謀」の加担者として引きずり出したのだ。
「アメリカ黒幕説」の唯一の根拠は、柳井俊二氏という一人の日本人の存在である。
人民日報や新華通信社の主張によると、元駐米大使である日本外交官の柳井俊二氏は、国際海洋裁判所裁判所長の在任中、オランダ・ハーグの仲裁裁判所の仲裁裁判官の5人中4人を任命したという。だからこそ、中国に不利な裁定が出たわけである、というのだ。中国側はまさにこの一点を以って、南シナ海裁定は「アメリカ主導、日本加担の茶番」だと認定した。

「法への抵抗」から「正義の戦い」へ?
 中国政府はそこまで無理をしてでも、アメリカを「黒幕」に仕立てようとしたのには、二つの狙いがあろう。
一つはすなわち、裁判所の裁定それ自体の正当性を根底からひっくり返すことにある。つまり、裁判所を操っているのは自らの覇権を守ろうとするアメリカであり、そして今回の裁定は単なるアメリカの私利私欲から発した謀略の結果であれば、もはや何の公正性も正当性もない。したがって中国政府は当然、それを完全に無視し、拒否することができるのである。
もう一つの狙いは、アメリカを「黒幕」だと決めつけることによって、今回の裁定の一件を、「中国vs仲裁裁判所」の構図から、「中国vs強権国家・アメリカ」という戦いの構図へとすり替えることであろう。中国は最初から仲裁裁判所の裁定を一切拒否する構えであった。しかしそれは、仲裁裁判所に対する中国政府の抵抗だと国際的に認識されていれば、中国の分は悪い。国際社会から「裁判の結果に抵抗する無法者」のように認定されてしまう。
しかしそうではなく、仲裁所は単なる操り人形であって、アメリカという国こそがその「黒幕」であるなら、中国の裁定拒否はもはや「法への抵抗」ではなく、アメリカの強権に対する中国の「正義の戦い」となるのである。

アメリカと関係を深める各国
 しかし、この虫の良すぎる計算が思惑通りになるかどうかは実に微妙だ。柳井俊二氏の存在と働きだけを根拠にしてアメリカを「黒幕」に仕立てるのはあまりにもいいかげんであり、国際社会を信頼させることは到底無理であろう。政府の情報遮断と洗脳にさらされている中国国内の一般市民以外、誰もそんな出鱈目を信じはしない。中国政府の宣伝は結局、自国民を欺く以外にほとんど効果がないだろう。
現在のアジアでは、日本が米国との同盟関係を強化しているだけでなく、一時「親中」と言われた韓国も、中国からの反対を押し切ってアメリカから最新型迎撃ミサイルの導入に踏み切った。「中国一辺倒」の偏った外交から脱出して親米へと再び戻ったと言えるだろう。東南アジアでは、同じく南シナ海の領有権問題で中国と対立しているベトナムも最近、アメリカからの武器禁輸全面解除などの「特別待遇」を受けて、関係緊密化を急いでいる。
このような状況の中で、中国がアメリカと全面対決の姿勢を明確にすればするほど、中国から離れたり距離を置いたりする国はさらに増えてくるであろう。
つまり、窮地から脱出するためにアメリカを「黒幕」に仕立てる習政権の策は逆に、中国にとってますます窮地を作り出しかねない。結局自らの首を絞めることとなるだけである。

フィリピンとの直接対話に賭ける中国
 そうすると、中国にとっての最後の「起死回生策」は結局、裁定のもう一方の当事者であるフィリピンと直接対話による解決を図ることである。
習政権にとって幸いなことに、南シナ海裁定が出る前から、フィリピンで政権交替があり、中国に強硬姿勢のアキノ政権から今のドゥテルテ政権に変わった。そしてドゥテルテ新大統領は度々、中国と対抗ではなく対話の道を選ぶとの発言をしている。
したがって中国政府としては今後、極力フィリピン新政権との対話の糸口を見出して、両国間の直接対話に活路を見出そうとするであろう。当事者同士が直接の話し合いによって問題解決の道を探す、という姿勢を示すことによって、裁判所の裁定を無力化してしまい、アメリカや日本からの「干渉」を跳ね返すこともできるからである。
もちろん、フィリピンとの直接対話が上手くいくかどうかは未知数だ。新政権は、南シナ海問題で中国と対話することによって経済援助やインフラ投資などの経済的利益を中国から引き出す魂胆であろうが、それでも、そのためにフィリピンが南シナ海の主権問題を中国に譲歩するようなことはまず考えにくい。主権問題を棚上げにしての対話がどこまで成果を挙げられるのかは分からない。
結局、裁定に従う形で南シナ海での膨張主義政策を放棄するのが中国にとっての本当の「起死回生策」となるはずだが、それがどうしてもできないのは、中華帝国の伝統を受け継いだ習近平政権の救い難い「難病」である。南シナ海の秩序と平和を守るための国際社会の戦いは、今後も続くのであろう。

http://blogos.com/article/183610/

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