戯曲・こころを超える何か
- カテゴリ:自作小説
- 2017/01/28 19:41:19
夫、日和田昇(ひわだのぼる)。妻、深愛(みあ)。ひとり子、真理愛(まりあ)。三人は、表面上は幸福を演ずる、一家族である。
土曜、夕食時の「団欒」
深:「だから・・・もう忘れた。許したって、何度も言ってるじゃないの」
昇:「いや・・・きみは、こころの底では、僕を、許容していない」
深:「じゃあ、許します。今、許します。だから、もう、止めにしましょう。こんな無駄な会話でせっかくの土曜の夜を潰すのは」
昇:「わかった、じゃあ、来週の月曜から、真理愛の首に紫のスカーフを巻かせて小学校に行かせるのは、止めてくれるんだね」
真理愛はスマホから目を離して、父に抱きつき、嬉しそうな表情を浮かべる。
真「よかったあ。あまり好きじゃなかったんだもん、あのスカーフ」
深:「だ・・・だめよ。紫のスカーフは、真理愛のおばあさまの代からのならわしでしょ」
真:「いやだあ。もう、あんな昔のやつ、いやだよお」
深:「ちょっと、自分のお部屋に戻っていなさい。
真理愛、泣く泣く母親の言いつけに従う。
しばらくの夫婦の沈黙、虚しくグラスに注がれる赤ワイン。
昇:「スペードのエースは。僕の喉元に突き付けたままか?この泥沼ゲームは、続行なのか?」
深:「それは、あなた次第よ。わたしの本当の願いはただひとつ。あなたの愛を受けてしまった真理愛を、私だけのものにすること」
昇:「止めてくれ。不毛だ。三人とも不幸になるだけじゃないか。せめて真理愛だけは・・・」
深:「きれいごとはもうかんべんしてほしいわ。真理愛のために、離婚はしません。だけど、あの娘のこころは、私だけのものにします」
昇:「深愛・・・。夏目漱石の『こころ』を読んだこと、あるだろう?」
深:「もちろん、何度も」
昇:「先生の遺書に、こんな表現があったのを覚えているか?『私の心臓を刺し貫いて真っ赤な血潮を流し、あなたに注ぎましょう』 もしそれできみの気が済むなら、私は、そうしよう。混じりけのない、本気だ」
深愛、声を立てずに頬に涙を流しながら。
深:「それじゃあ、不十分なの・・・先生やあなたを、超える何かでなければ・・・』
了
細部に至るご指摘感謝です
おかげさまで校正ができました^^
何度か読んだのですが、んー、ノーコメントでっ!
すみません。深すぎて、僕の手には負えません。
あ、ただ、前から読んでたよ、という証明はできそうです。
終盤、深愛さんの名前が、異なっていたのを直されていますが…
実はまだ、最後の最後に痕跡が…
また読んで、いろいろ想像してみますね。